第20話「結婚(?)しました」

 迷宮竜を討伐したその翌日のことだ。


 なかなか悪臭が取れなかったので1日時間をおいた。

 一生懸命全身を石鹸で洗って身綺麗にしている。

 着ている修道服風の服も真白でいい感じだ。


 さて、俺は孤児院の全員を大広間に呼んでいた。

 というのも迷宮で手に入れたアイテムを渡したかったからだ。

 少しでも喜んでくれると嬉しいのだが。


「おはようございます。いつも良い子にしているみなさんのために今日は、俺がちょっとしたプレゼンを持ってきました。気に入ってくれると良いのですが」


 そう言ってマジックバッグからアイテムを取り出す。

 先日の迷宮竜のダンジョンでゲットした数々の装備品だ。


 拾った装備品はどれも優秀なのだが、

 特に優秀なのが『司祭のローブ』。

 これは白く、見た目が良い。

 更に防御力が高く常時体力微回復すのおまけ付きだ。

 

 見た目が良いだけではなく袖を通すと身体に

 フィットして丁度よい大きさになるのも特徴。 

 パッと見は児童楽団の聖歌隊が着てそうな感じの白い羽織り。


 ここは修道院ではない。だが一応俺は神官だ。

 ちょっとは修道院感を出していきたい。

 みんなが着てくれればそれっぽい雰囲気になるだろう。


 エレに渡したら「ダサぇ!」とクレームがあった、

 なのででドラゴン・レザーアーマーを渡した。

 そしたら今度は「くせぇ!」と文句を言いだした。


 さすがに一言いおうと思ったのだが、その必要はなくなった。

 魔王ニュクスがエレの頭にゲンコツをしていたからだ。

 除夜の鐘を叩いた時みたいな凄い音がした。

 

 エレは「いてぇ!」と涙目になっていた。

 さらに頭を押さえつけ俺にお辞儀までさせていた。


 なんだろうかこの二人の関係は、

 歳の離れた姉とアホな弟。そんな感じか?

 男女の関係とはとても思えない。


 いや、やることはやっているのだが。

 この光景を見ていると想像が難しい。 

 少なくともとても勇者と魔王には思えない。


 いったいこの二人は家にいる時はどんな感じなのだろう?

 そんないらぬ想像までしてしまった。


 さて、子どもたちに渡すべきプレゼントは渡し終えた。

 最後に渡すべき相手はリズさんだ。

 俺はリズさんの方に視線を向け微笑む。


「大広間にお集まりいただきありがとうございます。いつもお世話になっているリズさんにプレゼントを持って参りました。気に入っていただけると良いのですが」


 そういって俺は銀色の指輪を取り出す。

 大人の女性へのプレゼントだ。


 むきみのまま渡すのも何だと思ったので、

 蝶番式の小箱に収めてもってきた。


 その指派を見てリズさんはなぜか頬を赤らめている。

 心なしか目が涙でうるんでいるように見える。

 子どもたちが満面の笑みで拍手をしている。


 エレは「めっちゃしょぼくて草w」と言っていた。

 その途端ゲンコツを食らってた。除夜の鐘二回分の音がした。

 そのうち百八回殴られてそうだな。


 エレは絶対通信簿の通知欄に『落ち着きのない子です』

 と書かれるタイプだ。まったく空気が読めない。


 まあ、今でこそ言える話なのだが、実は俺も通信簿に書かれていた。

 このクソガキは俺の子供の頃に少し似てるからどうにも甘くなる。


 さて、そんなどうでも良いことを考えるとマルクが隣にきて囁く。

 「指輪はアリョーシャさんがはめてあげてください」と。

 さらに跪きながら指にはめて下さい言われた。


 つまり、日頃迷惑をかけている詫びとして、

 跪き、リズさんへの許しを請え、そういうことなのだろう。


 いやいや、そこまで悪いことをしているつもりはないのだが。

 俺が気づいていないだけで、失礼なことをしているのかもしれない。


 そもそもマルクが言うのだから間違いだろう。

 彼はこの孤児院でもっとも常識的な人間と言っても過言ではない。

 

 俺は、片膝を付き小箱から銀色に光る指輪を取り、手に持つ。

 子どもたち(主に女子)がリズさんの頭に白いテーブルクロスを被せている。


 その意図は分からない。見ようによってはベールに見えなくもない。

 おそらくはきっとこの地方独自の民族文化なのだろう。


 俺はリズさんの中指に狙いをすまし、くっと指輪を……。

 ……のはずが、いつのまにかささっと指を動かされ隣の薬指にはめていた。


 まあ、中指だろうと薬指だろうと指輪で得られる効果は同じだ。

 何の問題ない。

 

 子どもたちはなぜかみんなが笑顔で拍手をしている。 

 リズさんはポロポロと涙を流している。

 エレはきょとんとした顔だ。

 みんなが笑顔で俺も嬉しい。


 マルクは何らかの格式が高そうな本を開く。

 たぶん聖書的な物だろう。

 その本を開き、高らかな声で読み上げる。


「アリョーシャさん、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、リズさんを愛し敬い慰め助け、命ある限り真心を尽くす ことを誓いますか?」


 随分と仰々しいな。

 まあ、それぐらいは余裕だ。


「誓います」


 既にないていたリズさんが顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる。

 それをよしよしとニュクスがなだめている。

 エレは飽きたのか離れたとこで何かをえいっと投げていた。石だろうか。


「それでは誓いのキスを」

「マルクくん。ここは孤児院。子供たちの前でそういうのはよくないですよ」


 マルクはその言葉にまったくの無反応。

 俺の声は完全に無視された。

 さらに時間が巻き戻されたかのように同じ質問を告げる。


「それでは誓いのキスを」

「はい」


 リズさんの頭に被せられたテーブルカバーをのれんのように捲し上げる。

 なんだろう……ちょっとドキッとした。綺麗だ。

 俺は、そっとリズさんの額に唇を触れさせる。


 みんなが「おめでとー」と言いながらファサーと米粒を投げてくる。

 おいおい鬼じゃないんだから。いや、それなら投げるのは豆か。


 そう思っていたら卵まで飛んできた。さすがにそれは違うと思った。

 エレだ。その瞬間に正中線五段突きを食らっていた。


 パパパパンと音速マッハを超える音がしていた。あれは痛い。

 

「では、アリョーシャさんリズさんの上に祝福があらんことを願い、深い絆によって結ばれたこのお二人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう」


 孤児院は一日中やいややいよのお祭り騒ぎになるのであった。

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