第19話「超高所からの落下」

「これは……。ちょっと。というか、めっちゃやばい」


 ここは標高500メートル。

 いや、厳密には徐々に落下してるので420メートル。

 俺は物凄いスピードで地面に落下している。


 この高さからだと孤児院がまるで豆粒のようにみえる。

 ごめん。豆粒はさすがにちょっと盛った。

 だけど、まあそんな風に感じるくらいには小さく見える。


 今思い出すべきではないかもしれないが。

 俺は中学の頃愛読していた漫画を思い出していた。


 グラッパーパキ。

 高所から落ちても五接地転回法なら余裕やで。

 そんなことが書かれていた。


 俺の現実逃避のために五接地転回法について解説させて欲しい。

 その方法はこうだ。


 靴底が接地したその瞬間に即座に身体をひねる。

 まずこれが相当に難しそうだ。


 さて続けよう。更に衝撃を 足裏→ふくらはぎ→

 太もも→ケツ→背中と衝撃を分散させる。

 そう書かれていた。


「いや、ちょっと冷静に考えると割りとムリくない?」


 当時は「ほーん。受け身ってすげぇな」。

 そう思っていた。

 今は思ういやいや無理やろ、と。


 既に可能な限りのバフはかけてある。

 あとは神頼み。空中で十字を切る。


 すると幻聴だろうか?

 マルクの声が聞こえてきた。


「きこえますくあああ!!!アリョーシャすわあああーーん!」


 どうやら幻聴ではないようだ。

 一縷の望みが見えたことで思考が現実に引き戻される。


「300メートル地点。そうですね。現在のアリょーしゃさんから50メートルほどの地点に障壁魔法を展開しています。完全に衝撃を吸収させることは無理ですが、可能な限り着地予定地点に衝撃吸収の魔法を付与していいます。そこを足場に使ってください!着地後はしばらく待ってください。ニュクスさんがアリョーシャさんをピックアップしまーす!」


「わかった!マルクくん。ありがとう!!」


 目をこらして下を見る。

 確かに落下地点に魔力障壁が展開されている。


 落下地点を予想して、短時間にこれだけの精度の障壁を作るとは。

 マルクは特別な出自とかないのに本当に優秀だ。

 ちなみにこれは身内贔屓ではない。リアルガチな評価だ。


 トン、ぐるぐるぐるスタッ。

 五接地転回法にて障壁の上に受け身を取りながら着陸する。


 普通に足首かなり捻ったし、肩とか、首とかめっちゃ痛い。

 この受け身、相当練習しなきゃ無理。

 

 下を見るとエレが手を振っていた。

 凄い大声で何かを叫んでいる。


「アリョっすわあぁん!がんばれ!がんばれ!がんばれぇえええ!」


 エレが応援していた。

 あいつマジでずっと応援してたんだ。

 ……素直かよ。


 それに、もうマルクのおかげで助かってる。

 これ以上の応援される必要はないのだが。


 まあ、その気持は嬉しいので良し!

 元気がよいのは良いことだ。


 さて、マルクの言う通りにニュクスが翼を広げて結界の上に舞い降りた。

 翼をひろげている姿は魔王というよりどちらかというと天使だ。

 ニュクスが俺の腰の辺りをガシッと掴む。


「アリョーシャさん。迷宮竜の討伐おつかれさまっした。アリョーシャさんのドカ盛り複合バフめちゃくちゃ助かりましたよ!さて、このまま降りるよ。……って、うぇ。アリョーシャさんめっちゃ臭い上にめっちゃヌルヌルしてるけど……これって、触れても大丈夫な奴?」


「ありがとうございます。ちょっと臭くてヌルヌルして不快だと思いますが、しばし我慢してください。身体に悪影響を与える物質ではないので。それでは頼みま」


 俺は年端もいかない女性に抱きかかえられながら、

 パタパタと飛びながら地面にゆっくりと降下する。


 良い歳した男が少女に抱き抱えられ飛ぶ。

 ちょっとだけ恥ずかしいがありがたい。


 そして、俺はついに念願の地面に降り立つ。 


「マルクくん、ニュクスさん、そしてエレ。ありがとうございました。みなさんのおかげで、孤児院に一切の被害を出すことなく、迷宮竜を討伐することができました」


 実際、孤児院も被害を受けている様子はない。

 迎撃にあたっていた3人も無傷だ。


 かくして孤児院とその周辺を完全に守りきったのであった。

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