第18話「ダンジョンコアを手に入れた」

「出たな。傀儡の王マリオネッター


 目の前には浮遊する巨大なクラゲ。


 そのクラゲの傘の部分には人間のような脳が浮かんでいる。

 まるで海中のようにゆらゆらと空中をたゆたっている。


 フロアに点在する死体を操り仕掛けてくるモンスター。

 いわゆるフロアギミックを駆使してくる敵。


 セオリーとしては6人パーティで戦うのが一般的だ。

 前衛の戦闘職3人が死霊兵を倒し後衛の魔術師を守る。

 後衛の魔術師3人が大規模魔術で浮遊するクラゲを攻撃。


 そんな感じで戦う相手だ。

 まあ、この正攻法でもかなり厄介な敵ではあるのだが。


「うおっと!」


 ガシリ。床を這いずる死霊兵が俺の足首を握りしめていた。

 俺はその死霊の手首を靴底で潰し破壊、バインドで拘束。

 まず一匹を捕獲。


 傀儡の王マリオネッターは最大10体の死霊兵を操る。

 死霊兵をコツコツ倒しても次々に補充されるのが意味がない。

 地面に散らばる無数の死体をとっかえひっかえ操ってくるのでキリがないのだ。


 俺が考えた最善手はあえて殺さず10体拘束してしまうこと。

 殺されない限りは傀儡の王マリオネッターは死霊兵を作ることができない。

 それがこのモンスターの弱点だ。


「それじゃあ、ちゃちゃっと済ませるか」


 床から今まさに立ち上がろうとする死霊兵に接近。

 本格的に動き始める前に全員をバインドで拘束。


 あっというまに10体のイモムシが完成。

 バインドから逃れようとあがいているが無駄なことだ。


 今話すべきことではないかもしれない。

 ただ、地面を這いずる死霊兵を見てふと、どうでも良いことを思い出した。

 そういえば孤児院の樽。あれ中身ごと壊したままだったな、と。


 いかんいかん。

 雑念を振り払い、目の前のクラゲ野郎に集中する


「これであいつに専念できる」


 クラゲはふわふわ浮きながらガスを撒き散らす。

 このガスには麻痺、毒、錯乱、汚染、火傷、酩酊。

 複合状態異常を引き起こす効果がある。


 死霊兵なんかまともに相手していたら部屋中に毒ガスが充満する。

 なので、短期決戦が求められる。


 俺はメイスを担ぎながらドシドシと前へ進む。

 吹きかけられる凶悪なガスも苦しいが我慢して耐える。


 痛いし熱いし苦しいし痒いしおまけに臭い。

 それらもやせ我慢で乗り切る。


 そこはなんとか頑張って耐える。

 ゆっくり一歩一歩近づき、ついにボスは目の前田。


「いくぞ。クラゲ野郎」


 メイスの柄を両の手で握りしめる。

 ちょど野球バットをにぎる要領でだ。


 腰に捻りを加え渾身の力でフルスイング。

 手首には良い手応え。


 バチャァーンという破裂音。

 クラゲを覆っていた皮膜が破れ破裂し、

 中身のドロドロとした粘液が飛散する。


 その液体をもろに被ってしまった。

 とにかく臭いしねばっこい。

 選択しても汚れが取れるか心配だ。


「迷宮竜のボスも倒した。後は、脱出するだけか」


 討伐成功の証拠にフロア中央に青白い光の円柱が立っている。

 あの光の柱の中に入ればこの迷宮を出られる。


 だが、よくよく目を凝らすとフロアの奥に色が違う壁をみつけた。

 おお!これはいわゆる隠し扉という奴ではないか?

 そう思い壁破壊デモリッションを実行する。


 隠し扉の奥にはまるで玉座のような空間だった。

 フロア中央には祭壇がありそこには球体の石が埋まっていた。


「おお……!これはダンジョンコアか」


 迷宮竜は太古の昔ダンジョンコアを食べたという伝承があった。

 体内が迷宮化したとかいう話だったな。

 それが、これか。


 そもそも非常に価値のあるアイテムだ。

 将来的に孤児院の施設向上に役立てたいとも思っていた。

 だが、まさかこんな早く手に入るとは。


 まあ、ゴミ屋敷からもぎ取ったダンジョンコアもあるのだが。

 何だろう。気分的に使いたくない。


 気分的な問題であってゴミのも機能としては申し分ないのだが。

 そういう意味でもここでもう1つ手に入ったのは良かった。


 そんなわけで祭壇のダンジョンコアを力任せにもぎ取った。

 ここで欲しいものは全て手に入れた。


 俺はボス部屋に戻り、転移ゲートへと……。

 ……さっきまであったはずの青い光の柱が、ない。

 さらに空間全体が激しく揺れだした。


「……おおっと!」


 ゴゴゴゴゴゴ。空間が軋みだす。

 あちこちの壁が砕け床が落ちる。


 そしてついにバリンとガラスが砕けたような音がした。

 迷宮が消失するということは……。


「やばい。ここめっちゃ高くないですかね?」


 俺は空の上。

 標高500メートルから急速に落下しているのであった。


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