第23話「勇者と神とザリガニと」

「よっ。アリょっさん、その子誰。あんたの子か?」


 こいつ俺をニワトリかなんかと勘違いしてないか?

 つーか良い歳した男がなにやってんだよ。

 そう思った。思っただけで口にはしていない。


「俺?俺はザリガニとり」


 ザリガニ取りだった。

 聞いてないのに答えられた。

 こいつ人の心が読めるのか?いや、そりゃないな。


 よく見たら細い木の棒を持っていた。

 棒には糸がぶら下がっていて簡易的な竿として機能していた。 


「おい、チビ。おまえもザリガニやる?」

「チビじゃないでつよ。神ちゃまでちゅ」


 神ちゃまは指をくわえてじっと竿を見ている。

 なんだかんだでザリガニ釣りに興味がある様子。


「ふーん。じゃあチビ。竿貸してやるよ。勝負しようぜ!」

「うん。たのちそう。あたちもやってみたい」


 その後なんとなくの流れで俺もザリガニ釣りに参加することになった。

 ザリガニ釣りなんてどれくらいぶりだろうか。

 俺は草むらの上にあぐらをかき糸をたらす。


「ヒット!おれがいっちばぁーん!」

「やるでちね。あたちもまけないでち」


 子供相手に本気出すなよ。

 いい歳した男が物凄く勝ち誇っている。


 逆に恥ずかしいのではないだろうか。

 かくいう俺はといえば何の引きもない。


「こっ、これは大物の予感でちよ。ヒットでち!」

「おおおお!!すっげぇ!やるじゃんチビ。ロブスターじゃん!」


 いやいやロブスターはこんなところに……。

 マジでいた。すげー立派なロブスターだ。

 ロブスターって海の生き物じゃなかったっけ?


 ロブスターが巨大なハサミをチョキチョキしてる。

 神ちゃまがワシっとロブスターを握り俺たちに見せびらかす。

 まるでカブトムシを取った子供のようだ。

  

「そういえば、アッちゃんは何か連れた?」

「うん。釣れたよ」

 

 俺は釣ったタニシを掲げる。

 エレに「ふっ」と失笑された。


 釣ったタニシを小川に放り投げる。

 キャッチアンドリリース。


「そういえばアッくんは普段は何をしているのでつか?」

「アリょッさん?ニワトリの世話とトマト育ててるよ」


 俺が応える前に、エレが勝手に代弁した。


 確かにニワトリの世話もトマトも育ててはいる。

 だが、それはあくまでも趣味だ。


 一応仕事もしている。

 「スローライフだわりぃか!」そう胸を張りたいところだが、

 さすがにそこまで俺は強靭な心臓を俺はもっていない。


 だから念のために弁明させてほしい。

 一応俺もギルドのクエストこなしている。

 未踏破ダンジョンに潜りMAPを作成しギルドにも提出している。


「アッくん。えらいでち」


 子供相手に真面目に説明してしまった。

 心の中のつぶやきが声に出ていたらしい。

 自己アピールしてしまったことに気づきカーっと頬が赤くなった。


「ヒット!なんか頭蓋骨釣れたんだけど!これ、僕の勝ちじゃね?」


 頭蓋骨?ああ……完全に忘れていた。

 たぶん樽の人の頭蓋骨だ。


 雨かなんかに流されてここまできたのか。

 こんどギルドに持っていこう。

 蘇生まにあうかな?


「アッくん、他になにか釣れたでちゅか?」

「うん。ゲンゴロウ」


 俺は釣ったゲンゴロウを小川に放り投げる。

 キャッチアンドリリースだ。


 そんなこんなで日がな一日ザリガニ釣りで終わるのであった。

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