第14話「聖剣と魔剣を手に入れた」

 リズさんがこの村に来てから半月が経った。

 なんというか俺にとっての癒やしだ。

 まあ、あまりノロけるのも恥ずかしいのでやめよう。


 さて、特にこれといって特筆することはない。

 強いて言うなら人買い組織のアジトを破壊デモリッシュしたくらいか。

 

 王都から建築ユニオンの人間が何十人も訪れて、

 孤児院リフォームと魔王と勇者の家も順調に進んでいる。


 今日は特に何もしない日だ。

 日向ぼっこしながら庭のトマトに水を与えて終わるような日。

 ニワトリにエサをやったりもする。


 わりと真面目にこの二つが俺のやりたいことの上位に位置する。

 植物や動物を育てるのは楽しい。


 そして俺は、仮づくりの勇者と魔王の家に前に居る。

 別に金をケチって一軒家に男女を住ませようとしているわけではない。

 当初はプライバシーを考慮して二棟建てる予定だったのだが辞退されたのだ。


「ニュクスさん、エレ。おじゃましてもいいですか?」


 トントンと扉をノックする。

 まったく反応がない。


「あの二人、今日は家でゆっくりするとか言ってたよな」

 

 ドアのノブを握る。

 鍵はかかっていないようだ。


 おおっと!開けるつもりはなかったのだが、

 キィと音をたてて扉をあけてしまった。


「きゃー!アリョーシャさんのえっち!みないでええええ!!」

「ちっ!ちがうんです。これは、ストレッチをしているだけで」


 ストレッチか。物は言いようだ。

 若い二人が何をしていたか詳細を伏せよう。


「では、ごゆっくり」


 俺はきびすを返しそのまま帰ろうとすると、

 勇者に止められた。


「いえいえ。ただのストレッチなんで、大丈夫です」


 そういいながらそそくさとズボンを履いて、

 俺を引き止める。


 女性服は着るのが大変なのか、

 ニュクスは後ろの方でそそくさと着替えをしている。


「ところでアリョっさん今日はどうしたんっすか?」

「預かっていた聖剣と魔剣。そろそろ返そうと思って」


 俺は部屋で預かっていた魔剣と聖剣をエレに渡そうとする。


「えっと。それ、聖剣。アリョっさんにあげます。家賃代わりということで」

「うん。それがいいわね。私もアリョーシャさんに差し上げます。魔剣」


 聖剣と魔剣だ。

 二人にとって大切なものではないのだろうか?


「気持ちは嬉しいです。ですが、さすがにこれを貰うわけには」



 エレとニュクスは目配せをしている。

 何か言うべきか言わざるべきか迷っている様子だ。

 しばらくして方針が決まったのかニュクスが口を開く。



「アリョーシャさん。その剣、ちょっと不気味なんですよ。溶岩に投げ込んでも、奈落に落としても、朝起きたら枕元に帰ってきて。……ちょっと、さすがに」


「アリョっさん、それだけじゃねーんだ。その剣、喋るんだよ。しかも脳に直接。親にも相談したんだけど、まともに相手されなくてさ。結構怖いんだよ。それ」



 もうそれ呪物じゃん。こわっ。

 とはいえ、思春期の妄想の可能性もある。

 俺は聖剣の柄を持ち、その声に耳を傾ける。



【 選ばれし者、勇者よ。これより北東に2キロ進みなさい。そこに魔族の集落があります。世界のために、魔族を一族郎党皆殺しにしなさい。泣きわめいても、女子供でも、懇願してきても、それは勇者を油断させるための罠。悪しき者共の声に耳を貸さず、殺し殺し古こ孤こ個々仔ここ、殺し。みな殺し、死死死。なさい、勇者よ 】


 なにこれ完全にホラーじゃん。

 というか途中から音声バグってるし。こわっ。

 一応、魔剣の声にも耳を傾けてみるか。


【 魔族を統べる偉大なる王。そなたの名はニュクス。これより北北西5キロメートル先に矮小な人間どもが暮らす村落があります。人間は世界を穢す害獣です。魔族の領地を奪い、虐殺し、ネズミのように殖え続ける悪。一切の容赦なく殺しなさい 】


 こっちもかい!


 これ、精神耐性なければ乗っ取られる系じゃん。

 とんでもねー厄ネタだ。


 聖剣と魔剣。


 俺ならこの場で破壊デモリッシュすることも可能だろう。

 だが、この呪詛の量からして土地ごと汚染される可能性がある。

 安全な廃棄方法が見つかるまでしばらくは保管しよう。


「どうです?アリョっさん、それやばくねーっすか?」

「アリョーシャさん、意識はまだはっきりしてますか?」


 どうやら心配をかけてしまったようだ。

 俺は応える。


「ははっ、心配不要です。幽霊の正体見たり枯れ尾花ってやつですよ。剣が声が聞こえたというのはきっと勇者と魔王という重責によるストレスによる物です。ですが、不要というならば俺が預かりましょう」


 そんなこんなで俺は聖剣と魔剣を所有することになったのであった。

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