第13話「女の子と同衾しました」

「おはようございます。アリョーシャさん」


 チュンチュンと鳥のさえずる声が聞こえる。

 部屋には陽の光が差し込んできている。朝だ。


「おはようございます」


 俺の隣のリズさんに朝のあいさつをかわす。

 ……ん?あれ?……えーっと。

 状況を整理しよう。


 昨日、リズさんと部屋に入った。

 そこまでは覚えている。

 その後は……えーっと。


 うん。ドーキンの意味がわかなかったので、

 とりあえずカードゲームで遊んでいた。


 そしたらリズさんの提案でゲームに勝ったらキスをする。

 そんなふうな提案を受けた気がする。


 ゲームに勝った俺は……リズさんのほっぺにキスをして。

 ……うーん。お酒が入ってたせいで記憶がぼんやりしてる。


 ……で、確かお酒も入ってたから床の上で横になった……。

 床の上で横になったのは、部屋にはベッドが一つしかないから。

 もちろんリズさんに使ってもらうためだ。


 そしたら、「床で寝たら風邪ひきますよ」と言われた。

 それで、リズさんの入った布団の中にはいった。

 で、確か寝た。……なにも、なかった。はず。

 ……なにもなかったよね?うん。きっと。


「あっ、いっけない。みなさんの朝ごはん作らなきゃ」


 そういってリズさんは部屋を出ていった。

 えーっと……。うん。

 この話はあまり深く考えないことにしよう。


 俺はクローゼットを開ける。

 そこにはズラリと同じ服がならんでいる。

 単純に選ぶのが面倒だから同じ服を買っているのだ。


 俺は修道服ぽい感じの白い服をはおる。

 鏡の前でいつもより入念に身だしなみを整える。

 

「みなさーん。朝ごはんができあがりましたよー」


 リズさんの声が聞こえたので食堂へと向かう。

 焼き立てのパンの香ばしいにおい。

 ベーコンのちょっと焦げたいい香り。

 これは、随分と本格的な朝食だ!


 大広間の食堂にはすでにみんなが座っていた。

 テーブルには既に朝食がセットされている。

 配膳はマルクとニュクスが手伝っていたようだ。

 俺は、席に座る。


「主よ、わたしたちを祝福しまた、あなたの恵みによって今、あなたと共にいただくこの食事を祝してください」


 目の前ですっと十字を切り、手をあわせ目をつぶる。

 正直、この祈りの意味は理解していない。


 俺が生前暮らした孤児院がカソリック系で、

 食事の前にしていたのが癖になってるだけだ。

 子どもたちは俺のそれを真似をしている。

 

「では、みなさんいただきましょう。いただきます」


 焼き立てのパンは美味しかった。

 口に含むとほのかにハチミツの甘い匂い。

 なんとも上品な味だ。


 なによりも、やっぱり朝はシンプルなのが良い。

 パン、目玉焼き、ベーコン。


 これ以上はいらないし、むしろこれだけが良い。

 あんまり食べると日中眠くなるしね。

 

 おいしい朝食に舌鼓を打っていると、

 エレこと勇者が俺に声をかける。


「ところで、おっさんとリズねーちゃんできてんの?」

「はい?」


「だって、昨日同じ部屋で寝てたじゃん」

「ああ……あれですね。あれは、あれですよ。あれ」


 うまい言い訳が思いつかない。


「エレくん、アリョーシャさんは私に気をつかってくれたんですよ。他の部屋は片付いていないから、もしよければ私の部屋を使ってくださいって」


 ナイスフォローだ。

 まあ俺は一人称「私」ではないのだが、

 なんとなく言ってそうな雰囲気はする。

 

 どうしても丁寧語や敬語がうまく話せないのは、

 まあ、単純に俺の育ちがよくないからだな。

 せめて見た目だけでもと頑張ってはいるが。


「そうよ。リズさんの言う通り。変なこと言わないの。あとでお説教よ」

「えー。なんでだよー。僕はただ、見たことを聞いただけなのにぃー」


 どうやらニュクスこと魔王の方が精神的に大人なようである。

 おねーちゃんと育ちの悪いクソガキみたいな関係に見える。

 破れ鍋に綴じ蓋。いずれにせよ将来尻に敷かれてそうだな。


 そんなことを考えながら朝食をペロリとたいあげるのであった。

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