第11話「恋人ができました!」

「もしよければ、お仕事以外のお話も聞かせてくれませんか?その、アリョーシャさんの話を聞いているのが楽しくて、プライベートな話も聞かせてほしいなぁ……。なんて、はしたないですかね?」


 くりくりとした目でそうそう言った。

 言う!言いますとも!

 本当にリズさんは聞き上手だ。


 俺は直近の出来事をザッと話した。


 特に孤児院の馬小屋に住み着いた、

 サカッたクソガキども勇者と魔王については詳細に報告した。

 もちろん素性である魔王と勇者については伏せたが。



「なるほどです。それは一目惚れというやつですね。これは個人差がありますが、そういうのって早い人は早みたいですよ。特にいつ命を落とすか分からない冒険者はそういうのに目覚めるのは早いっていう印象はありますよね。ですが、それほど変なことではないので、もし迷惑ではないのなら認めてあげても良いのではないかな、と」



 そっか。そんなもんなんだ。

 リズさんが言うなら間違いないか。


「俺も一応は冒険者なんですけどねぇ。なんかあんまり色恋みたいと縁がなくて。異性と話すのはなんだか久しぶりな気がしますよ。お恥ずかしい限りです」


 まあ、久しぶりというか以前リズさんとあった時ぶりなのだが。

 それを言うとドン引きされる可能性があったので伏せておいた。


「そんなことありませんよ。ここで働いているとよく女性冒険者からはアリョーシャさんの噂を聞きますよ」


「本当?例えば?」


「そうですね。素敵なイケメン。金髪で憂いをおびた瞳が素敵❤いつも孤高な一匹狼って感じで格好いい。遊びでもいいから抱かれたい。とかいう声をよく聞きますよ。ファンクラブだってあるんですから。アリョーシャさんは人気があり過ぎて逆に女性同士牽制しあってるせいで声をかけずらい雰囲気があるのは事実ですね」


「えっ、そうなの?リズさん。もしよければ、こっそり紹介してくれない」



「嫌です」



 ビックリするくらい冷たい言葉で斬り捨てられた。

 回答まで0.1秒もなかったのではないだろうか。

 笑顔なのに目が笑ってないような……。


「いえいえ、こういうのは個人情報なので。たとえアリョーシャさんであっても決してお伝えすることはできません。ごめんなさい。守秘義務です」


 へー。ここに守秘義務とかあったんだ。

 ここぶっちゃけ酒場だし噂なんてすぐ広がるし、

 みんな口軽いしそんなのはないと思ってた。

 どうやら、ギルドを俺は舐めてたようだ。

 立派だ!


「そ、そうだよね。ギルドは信頼が大事だもんね。うん」


 守秘義務ならやむなしだ。

 というか、たぶんファンクラブというのは嘘なのだろう。


 俺を慰めるために気を使ってくれてるのだ。

 なんて、いい子なんだ。


「……はぁ。どうしよう。出会いがない。人生にうるおいがない」


 誰に言うとでもなくぐちをこぼした。


「……えっと、恋人ごっこなんていかがでしょうか!」


「うーん。恋人ごっこ。今はそういうのが流行ってるのかい?うん。いいね!いかにも面白そう。でもなぁ、リズさんは女の子を紹介してくれないし、そうなると相手いないし。オママゴトに付き合ってくれる奇特な人は……」


「その。私。私では……。その、私が恋人。恋人役ではだめでしょうか!」


「え、なんて?」


「私では駄目でしょうか……。駄目ですよね。すみません。なんか調子にのってとんでもないことを口走ってしまいました。ごめんなさい」


「いやいや。えっと、リズさんはかわいいし。魅力的だし、もしよければー……。俺でよければ、お願いしたいなぁー……。ナンチャテ!」


 最後の方は微妙におっさんくさくなってしまった。


「やった!勇気出してよかったです」


 うん、本当にいい子だ。


「でも、恋人ごっこって何するの?デートとか?」


「そうですね。まずは同棲から始めましょう。まずはお互いのことを知るために一緒に暮らすべきかと。準備をしますので、仕事が終わったら一緒に帰りましょう」


「えっと、恋人ってまずデートからとかじゃ?」


「あくまでも一般論ですが、デートは同棲、同衾どうきんして親しくなってからかと思います。もちろん、アリョーシャさんとなら私は喜んで、デートしますが」


「ん?そ、そうだったっけ。そんなものか?」


 逆じゃないかなと思った。

 でも、リズさんが間違えるとは思えない。


 あと話しの流れで出た『ドーキン』って何だっけ?

 モウキンルイみたいな感じのアレか?


「昼はギルドで仕事があるので、夜からしか恋愛ごっこのお相手はできませんが。それでよろしいですか?もし不都合があるのであれば仕事もやめます」


「いやいや。リズさん、気持ちは嬉しいけど、看板娘のリズちゃんを俺が独占したら他の冒険者に滅多刺しにされちゃうよ。ははっ」


 今この瞬間だって無数の屈強な女冒険者が俺を睨みつけている。

 それはまるで草食獣を狩る肉食獣のような目だ。


 何も悪いことをして……。まあ、してるのかもしれないが、

 何が原因かまではわからないので、反省のしようがない。


 さっきからなんのアピールかガタイの良い女冒険者が、

 ナイフペロペロしながら舌なめずりしている。


 その上看板娘まで奪ったら男冒険者に目をつけられる。

 俺はただ気ままに自由に生きたいだけなんだ。

 余計な恨みを買いたくはないのだ。


「でも、本当にいいのかい?俺なんかのために。そりゃ嬉しいけど」



「喜んで、ですよ。アリョーシャさんが真に愛する人(もちろんそのお相手が私であったら最高に嬉しいのですが、さすがにそれは欲張りすぎでしょうか?)があらわれるまで、恋人ごっこを試してみるのはいかがでしょうか?アリョーシャさんに釣り合うだけの素晴らしい方に見合う方が現れるまでの、あくまでも繋ぎ、練習役としてですが……。そのような御婦人を射止めた際に、スマートにエスコートできるようになるはずです」



 自己犠牲と奉仕の精神。

 俺の成長のためにそこまでしてくれるなんて。

 まさに女神。俺は泣いた。男泣きだ。


「リズさん、ありがとう」


 俺はそう言ってかたく手を握るのであった。

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