第9話「勇者と魔王の相互監視(笑)」

「アリョーシャさん。そろそろ馬小屋を開けた方が良いのでは?」

「早くないですか?まだ30分も経っていませんが」


 年長者の少年マルクだ。

 俺も非道ではない。

 馬小屋に閉じ込めるといっても1時間程度のことだ。


 俺のガキの頃はイタズラをした子供を

 親が押し入れの中に閉じ込めるという罰もあったくらいだ。


 まあ俺は孤児院育ちだ。

 親の顔も知らないし一般的な家庭とやらを知らない。

 それでもある程度の想像はつく。


 孤児院でも同じようなしつけはあったし、

 それに押し入れの中を舞台に冒険する絵本を読んだ記憶もある。


「マルクくん、大丈夫ですよ。武器、防具、マジックバッグのたぐいは全てこっちで預かってます。仮に口論になっても大きなトラブルには発展しないはずです」

「いえ、そうではなく。年頃の男女が狭い部屋で二人っきりにするというのは……。いや、これは僕の思い過ごしだとはおもうのですが」


 ? マルクが何を言おうとしているのか分からない。

 だけど、マルクがそこまで言うならちょっと声をかけてみるか。


 コンコンコンと馬小屋の扉をノックする。

 反応がない。特に会話をしている様子もない。

 ただ、カサカサと馬小屋の藁が揺れる音がするのみ。

 俺は馬小屋の鍵をあけ、引き戸を一気に開ける。


 そこには魔王にマウンティングを取っている勇者。

 まさか、馬乗りになって殴っているのか!?

 これは……大変な事態だ。


「うええええん!見ないでぇ!こんなの見られたらお嫁にいけない!!」

「ばっ!ばか。そんな心配いらねぇ。その時は僕がもらってやるよ……!」


 ……全然違った。

 つかおまえらたった30分で仲良くなり過ぎだ。


「失礼しました。ごゆっくり」


 敗北感を噛み締めながら馬小屋を再び閉じた



 * * *



 あれから3時間後。 


「アリョーシャさん。僕はこの辺鄙で寂れた何の面白みもない辺境の地にとどまり魔王を監視します。それが世界平和、人類の存続のための最善手と判断しました」


「勇者の言う通りです。魔族の王である私、人間の代表である勇者。双方が緊張をもって相互監視し戦力を均衡させることで擬似的休戦状態を作ります。最善ではないかもだけど、次善の作!本当は私も憎き勇者とど田舎に過ごすのは嫌なのだけど……」


「無理しなくていいですよ。いやなら出て行っていただいても」


 無意識にムカッとなって棘のある言い方をしてしまった。

 これは別にイチャイチャ見せられた嫉妬感からくるものではない。

 決して。


「でも、聖剣アリョーシャさんに取られたし。ねぇ?ニュクスちゃん」

「そう、そうよね。エレの言う通り。私も魔剣パクられちゃたからなぁ」


「返して欲しければ返しますよ。俺はメイスしか使わないし。こんな長いだけの棒切れ無用の長物だし。そんなに返して欲しければ返しますよ」


 ちょっと言い方がキツくなってしまった。

 我ながら大人げない……。


「ふぇえええええん!なんでぞんにゃごどゆーのおおおおぉぉお!!!」

「女の子を泣かせるなんて!!恥ずかしくないんですか!?大人なのに」


 魔王が泣きながら勇者に抱きついている。

 勇者は魔王を抱きしめ頭をよしよしと撫でている。


 俺はいったい何を見せられているのだろうか。

 返して欲しいから返すと言っただけなのだが。


 そんなに俺は大人気ないだろうか?

 ま、大人気ないか。

 ちょっとだけね?


 まあ、嫉妬以外の理由がないわけではない。

 一応。



 『君たちは運命や身分に縛られた奴隷ではない。

  見知らぬ誰かプレイヤーのために演じる人生ロールプレイではなく

  自分の人生を生きなさい。この自由で広い世界オープンワールドを』



 馬小屋から出てきた二人に言おうとしていたセリフだ。

 ほんまドヤ&キメ顔で余計なこと言わんでよかったわ。

 あやうくとんだ赤っ恥をかくところだった。

 

 そりゃそうだ。

 どんな世界だって結局人は自分の世話は自分でするし、

 俺が何考えていようが考えていまいが、勝手に生きる。


 だって現に俺が自由に生きたって世界にとってはそれは誤差。

 それを思い知ったというかなんというか。


 この一件で一つ確信したことがある。

 『スキあらばなんか良いことを言ったろw』

 そんな下心はもたないこと。


 極めて難しいが。


「分かりましたここで暮らすことは許可します。ですが、条件があります。私の外出中、孤児院の子どもたちと遊んであげたり勉強を教えてください。できますか?」


「「はい!!」」」


 学校の最前列で真っ先に手を挙げる子どものような反応だ。

 まあ、もともとこの土地も権利もゴミカスから奪い取った権利だ。


 子供の世話する住み込み職員が二人増えたと考えれば、

 むしろ願ったりかなったりといったとこだろう。


「では、王都に行ってきます。あなたたち二人の住む家を建ててもらうようにお願いしてきますよ。さすがに馬小屋では寝心地も悪いでしょうし」


「さすが神官ですね。本当に立派です!」

「素敵!かっこいい!イケメン!大人!」


 いやはや現金なものだ。

 こいつらの手のひらドリルなんじゃないか? 


「まあ、あくまでついでです。以前よりそろそろ孤児院のリフォームと拡張が必要だとは思ってましたし。じゃ、行ってくるので子どもたちのことは頼みましたよ」 


 後ろでアリョーシャ様万歳と言いながらなんどもバンザイしていた。

 やれやれクソガキ、そう思いながら俺は王都に向かうのだった。

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