第7話「名と職を与えた」
「僕たち名前のない孤児の名づけの親になってくれませんでしょうか」
そう言ったのは年長者の少年だ。
昨夜のパーティの時のこと。
俺はこうこたえた。
「わかりました明日までにみなさんの洗礼名を考えます」
特に断る理由もなかったので俺はそう答えた。
酒が入って気持ちが大きくなっていたという理由もある。
部屋に戻って俺は頭を抱えていた。
「……名付けって結構難しいじゃん」
よく考えたら名前は一生物だ。
適当につけるわけにはいかない。
そう考えるとハードルがめっちゃ上がる。
腕を組んであれやこれやと考えているが、
なかなかこれといった物が浮かんでこない。
腕を組んだまま部屋の中をうろうろ歩き回る。
歩く。歩く。歩く。歩く。
どれだけの時間がたっただろうか。
気づけば鳥のさえずる声まで聞こえてきた。
さっきまで真っ暗だったのに、
いつのまにか部屋に日差しまで差し込んでる。
「うわ。俺、徹夜してんじゃん。つか、もう朝だしまずいじゃん」
腕を組んで部屋をぐるぐる回ってる間に朝になっていた。
まいった。なかなか思いつかない。
「落ち着け。こういう時は砂糖マシマシコーヒーガブガブだ」
眠気覚ましに珈琲を淹れて口に含む。
その時にまるで天啓が降りたかのように閃いた。
喫茶店の名前を参考にするのはどうだろう、と。
もちろん生前のカフェのことだ。
この世界にはカフェとかあんまないし。
有名な喫茶店はオシャレで洗練されていた。
それによく考えると洗礼名っぽくもあった。
……洗礼名はこれしかない。
「さすがにそのまま使ったら人名にならないから、文字の並びを変えたりしてちゃんとした名前っぽい感じにしよう」
方針が決まったら後は一気に書き上げるだけだ。
人名に使えそうな格好いいカフェの名前を紙に書き記し、
あれこれ考えながら一気に書き上げる。
* * *
ここまでがつい二時間前の話だ。
そして今俺はみんなの前に立っている。
もちろんきちんとした法衣もまとっている。
子どもたちにとって一世一代の場だ。
そりゃ、俺だって張り切りますよ。
「神官アリョーシャが、あなた方に名を授けます。前へ」
一番最初に俺の前に立っていたのは年長者の少年。
彼が前に出たというのは正確ではないか。
他の子が緊張して前に出られないから、
年長者として役割を買って出た。そんな感じだ。
俺のガキの頃より随分と大人だ。
と、感心すると同時に幼いながら大人の役割まで
しなければいけないことに少し胸が痛みもした。
「サン・マルク。これが貴方の名です。太陽のように力強く周りを包み込む。そんな意味合いの名です」
「ありがとうございます。サン・マルク、それが僕の名なのですね。……身体の奥底から力が湧いてきます。まるで別人になったみたいです」
これにはカラクリがある。
こっそり
神官である俺は言わば移動式教会と言っても過言ではない。
職業を与えたりすることは造作もない。
ただ、
一定以上の能力基準をクリアする必要がある。
その条件を満たすために少しだけ手を貸しただけだ。
それに基礎パラメーターが高いと何かと便利だ。
今後俺がいない時に何か危険なめにあった時に
ある程度の対処ができるようになる。
こほん。
少し弁明させて欲しい。
決して転○ラをパクったわけではない。
ちょっとだけリスペクトしただけだ。
小さじ一杯半くらいリスペクトしただけだ。
そんなことを考えていると最年少の女児が声をかけてきた。
「ねえねえ。おいたん。あたちの名前は?」
「お嬢ちゃんの名は、アル・ルーナ。月のように清らかな心を大切にして欲しい。そんな願いをこめた名前です」
ドゥ・トール、バクス・ステラ、トア・リーズ。
あとは同じ要領で他の子にも名前を授けた。
「洗礼の儀は以上です」
こんな感じで洗礼名を授ける儀式はつつがなく終わった。
俺が与えた名前はもし気に入らなければ変えてもOKだ。
与えた能力と上級職だけは役に立つだろう。
そんなことを考えながら俺は外に出る。
この子達がどのような道に進むのかは分からない。
だけど名も力もあるに越したことはない。
俺だっていつどこで野垂れ死ぬとも分からない身の上だ。
与えられる物は与えられる内にした方が良い。
生前贈与というやつだ。
「今日は良い天気だな。空気がうまい」
俺は太陽の下であくびをしながら伸びをする。
なんだかんだで徹夜は応える。
ちょっと緊張したし。
「聖剣抜刀。僕の剣の錆となれ!魔王ニュクス!!!」
「それはこっちのセリフよ。勇者エレバスぅう!!!」
あまりのことで理解が追いつかなかった。
いい気持ちで伸びをして目を瞑って、目を開けた。
そしたら目の前に剣を突きつけられていた。
というか今まさに振り下ろされている最中だ。
かたや勇者、かたや魔王。
なぜそんな奴らがここに?
というか完全に巻き込まれ事案なのだが?
とんでもない劇的ビフォアフターだ。
なんてことでしょう。
ともかく生前贈与は正解だった。
そう思うのであった。
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