第5話『さよならゴミトリー』
「ゴミよ。あなたが所有している孤児院、財産、権利その全てをこの俺、アリョーシャに寄進なさい。生前贈与です」
おっさんと無駄な会話をしたくなかったので端的に要求のみを伝えた。
「ワシの全財産だぁ!?アホか!そんなことができるわけないだろうが!」
「利き手は?」
「ん?右、右だが……。それが、この話と何の関係……ぐわああああ!」
左肩の鎖骨のあたりを軽くメイスで肩叩きした。
パンッという音がして肩周りの肉が爆ぜた。
「利き手は残してあげました。さあ、あなたの持つ全ての権利書に直筆で私に全ての権利を譲るように書きなさい。さあ」
ゴミなんとかおじさんは泣きじゃくりながら残った右腕で全ての権利書に『アリョーシャに権利を譲る』と大人しく従った。
「まあ、そんなはずはありませんよね。あなたみたいな人がそんな素直に応じる可能性は万に一もありません。鑑定」
やはり嘘。偽物。泣きながら惨めにわめいていて従順に従うふりをして、腹の中で俺を出し抜いてやろうと虎視眈々と考えている。
この一見小物っぽいリアクションに油断させられ、数えきれないほどの善良な人間が食い物にされてきたことは想像に難くない。
神官の持つスキル『鑑定』。俺はこの鑑定を極めている。スキル名こそそのままだが、その効果はどんな手の込んだ偽造も看破するほどの粋に達している。
「筆記用具をお貸しします。インクは自分の血を使ってください」
血で記した文字が絶対的な意味を持つ力を持つ呪いが込められた万年筆。いわゆる呪いのアイテムの類で、非常に扱いが難しいアイテムでもある。
「クソが!ああ、分かった!!貴様の望み通りに書いてやるよ!だがなっ!一つ条件がある。この俺を絶対に殺すな。『あと10年必ず生かす』と誓え!それが条件だ。それを飲めないなら例え、千回殺されようが絶対に書かんッ!!!」
……ああ、かわいそうな人だ。俺はそこまでするつもりはなかったのだが、望まれたのならば仕方がない。叶えてあげよう。……それにしても10年、か。
「よいでしょう。その条件を飲みます」
双方の合意が成立すると万年筆が赤黒い瘴気を放つ。悪魔なり何らかの存在がこの契約に合意したということだ。契約が破られた場合は双方の魂が回収される。
「ひっひっひ!やっぱり貴様は所詮は馬鹿な若僧だ。このワシはな。ゴミトリー様は、ギルド、教会、暗殺クラン、王侯氏族にコネがある大商人。命さえあれば、財を貴様のようなカスから奪い返すなど雑作もないことよ!己が無知と無思慮を後悔せよ!やっぱりこの契約はなかったことにして欲しい?今更言っても、もう遅い!!はーっはっはは!死ね、アリョーシャぁああああああああ!!!!」
おっさんが目にも止まらぬ速さで『このワシ、ゴミトリーを10年生かすことを条件に全ての権利をアリョーシャに譲る。なお、この契約が遵守されなかった場合、ゴミトリー、アリョーシャ双方の魂を貢物として捧るものとする』と記した。
「アリョーシャ。貴様は馬鹿な野郎だ。『殺さない』じゃなく『生かす』が条件。ワシが病で倒れても、寿命で死のうとも、自殺しようとも貴様は確実に破滅する。はーっはっはは。ああ、なんかワシ自殺したくなかってきたわ。ほれほれ、ワシが自殺しちゃうぞ。くっくっく。ワシの自殺を止めないと貴様も終わりだ。どうする?」
「どうもしません。保護します。教会で。よろしいですか?」
「負け犬め。よろしい?望んだり叶ったりだ!疾く、教会に連れてゆけい」
おっさんを教会に回収してもらうために胸元から白銀の鈴を取り出し鳴らす。チリリンという音が部屋中にこだまする。
この鈴は教会の暗部を司る『使徒』なる得体の知れない存在を呼ぶための物だ。不気味な仮面を被った白い包囲をまとった男たちがぬぅっと現れる。
「お、おい。こいつら気味が悪いぞ。本当に教会の者なのか?」
「ええ、教会の使徒です。お悔やみ申し上げます」
いかなる悪事を犯したとしても教会で10年奉仕をさせられるという罰はあまりにも重すぎる。俺だったら1日だってゴメンだ。
白い法衣をまとった仮面の男たちがぬらりぬらりとゆっくりと歩きながらゴミトリーに無言で近づき取り囲み、ガシッと腕を掴む。
「なっ!気安く触るな……!頭が高いぞ。痛っ痛い!ちょ、乱暴に掴むな……!貴様らのような身分の低いゴミが気安く触ってよい存在ではないのだぞ!?おっ、おい……なにをする!ワシは……大富豪であり、そしてそして、貴様らのドンである司教さまにもコネがある、ゴミトリー様であるぞ。お……おい、ちょっ。なんなんだよ、コネがあるんだぞ。やめろ。さすがに怖いぞ。いたたっ!マジで痛い!いだぁああああぁあああああ!!!まっ、……アリョーシャ!アリョーシャさん、アリョーシャさま。……ワシ、ワシをおおおおお!!!!!!」
その言葉を最後にゴミ男は教会に強制転移させられるのであった。
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