第4話『極悪商人を叩け』

「この門を開けてください。神官のアリョーシャです。裁きを下しに参りました」


 俺はゴンゴンとメイスで巨大な門を叩いた。


「何用だクソボケ神官。裁きだぁ!?このワシを誰だと心得る。王都一の大富豪ゴミトリーとはワシがことぞ!!」


 ここは王都ミナゴ。

 俺は大商人ゴミトリーの屋敷の前に立っている。

 孤児院運営という人身売買をしていた極悪人の屋敷の前だ。


「裁きを拒否るということは教会の意に反するということが。よろしいですね?」


「はぁ?はーっはっはは。アホぬかすなボケカスクソゴミ神官。教会の司教さまなら話が別じゃが貴様のような素性の知れない底辺カス神官ごときがこの高貴なる大商人、ゴミトリー様の屋敷の門を跨げると思うな。身の程を知れ」


 こんなに頼んでるのに入れてくれないとは。

 面倒だ。試しにメイスを門に叩きつける。

 ゴーンという音が響いたが壊れるには至らない。


「ははは!ばーかばーか!そのような棒切れでオリハルコンでできたこの門を破壊できると思うたか。惨めなクソボケマヌケ神官。高貴なるこの屋敷を叩いたその罪万死に値する。あとで、手下に惨たらしい方法で貴様を殺させてやるわ」


 なるほど、確かに門は頑丈なようだ。

 オリハルコン製の門に10種類以上の障壁魔法。

 そして一番厄介なのが概念防御として、

 『絶対破壊不能物質イモータル・オブジェクト』が付与されてること。

 まっとうな方法で門をくぐるのは難しい。

 ……だが。


壁破壊デモリッション


 ドゴーン。


 とてつもない音が響き渡る。

 裏ボスから獲得したスキル『壁破壊デモリッション』の前では何の意味ももたない。


 オリハルコンの門は砂糖菓子のようにくずれさる。『ありとあらゆる壁を破壊する』という力の前では、小手先の概念防御などは無にも等しい。


「おじゃまします」


 一歩門をくぐるとそこは……迷宮だった。

 後ろを振り返ると門があった場所には壁があるだけ。


 もはや、王都の町並みは見えず、

 無機質な石造りの壁とその中を闊歩するモンスターしか見えない。


「はーはっはは!罠にかかったな。無能め!どうやって、絶対に破壊不可能な門を潜ったのかは分からぬが、それは貴様を拷問してさんざん苦しめた上で聞き出すこととしよう。もはや生きては帰さぬ。このゴミトリー様の無限迷宮が、貴様の墓標だ」


 なるほど、ダンジョンコアの力か。

 こいつが大商人というのもまんざらホラでもないらしい。

 その価値は小国の国家予算にも匹敵するとか聞いたことがある。


「俺はこんな下品な迷宮に真面目につきあうつもりはない。面倒だ直進する」


 目の前の壁という壁を破壊し、ただ直進。道を塞ぐギガントゴーレムやグレーターデーモンの類はメイスで叩き潰す。


 ドゴーン。ドゴーン。ドゴーン。ドゴーン。


 壁という壁を破壊しながらひたすらまっすぐに前へ前へと進む。しばらく歩くと、巨大な鋼鉄製の門の前にたどり着いた。


 おそらく本来は外周を端からぐるぐる回り続けないと辿り着けないクソ面倒な割に単調な巨大なナルトのような迷宮だったのだろう。


「それにしても悪趣味だな。ボス部屋を自分の私室として使うとは」


 まったく呆れ果てる。迷宮という物に対するリスペクトがまるで感じられない。俺はメイスで扉を叩きつけ、破壊する。


「ひいい!ば、バケモノ……!」


 大商人ゴミトリー。

 なんてことはない。

 禿げた小太りのこ汚いブサイクなおっさんだ。


 恐怖のあまり漏らしてしまったようだ。

 無駄に高そうな服を着ているが、それも台無しだ。

 おっさんが泣きながら床に這いつくばってる。



 惨めで憐れだとは思った。

 だがそれを理由に手心をくわえてやるつもりは一切ない。

 俺は手にした鈍器でゴミの頭を破壊デモリッシュする。


「あっ、しまった。リザレクション」


 あまりにも不快な虫だったのでうっかり潰してしまった。

 殺すのはまだ早い。まずは洗いざらい話したあとだ。


「え、今ワシ死ななかった? なんか……死んだ気がするんだけど。えっ?」


「はて。夢でも見ていたんじゃないですか。それか痴呆ですかね。さて、そんなことより面倒な会話は嫌いなので単刀直入に言います。あなたが所有している孤児院、財産、あらゆる権利その全てをこの俺アリョーシャに寄進なさい。生前贈与です」


 俺は謙虚に最低限の要求をするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る