第2話『人拐いを叩いた』

「ふぇえええん。旅の神官さまぁ! お助けくだしゃあああい!」


 裏ボスを倒して意気揚々とあてどなく歩いていると、

 目の前からズタボロの服を着た女児が走ってきた。


「おちびちゃんどうしたのかな?」

「あたちたちの孤児院が……孤児院が……ふえええええええん!」


 何やら大変な事態になっているようだが、

 泣いているせいで何を言っているのか分からない。

 俺はポケットからハンカチを取り出しさっと渡す。


 女児はそのハンカチを鼻紙代わりに使い、

「おいたんあいがと」と言って鼻水で汚れたハンカチを返してくれた。

 ……まあ子供のすることだから、多少は。


「あのね。あっちに。孤児院があゆの」


 女児はたどたどしい言葉でそう伝えてきた。


「うん」

「でね。怖い人たちがたくさん来てね。……あたちの家族を担いでね。……さらっていってるの。……こわいよ。こわいよ。ふえぇえええん」


 思ったよりやばかった。


「君はケガはないかい?」

「うん。おにーちゃんがねあたちを逃してくれたから……」


「そうか、辛かったね。ちょっとお兄さんを案内してくれるかな?」

「たしゅけてくれるの?」


「ちょっと『お話』してくるから。君は物陰に隠れてて。わかるね?」

「うん。わかった」


 そういって女の子は草むらに隠れた。

 さすがにこれからの惨状を見せるのは忍びないと思ったからだ。


「こんにちは」


 俺は笑顔でいかにも犯罪者な格好の輩に声をかけた。

 いわゆる野盗のたぐいであろう。


「ヒッヒッヒ。神官がこんなところをひとりでお散歩ですか?」

「はい。今日は雲ひとつない、スカッとした良い日でしたので」


 野盗は俺にナメられているのだと判断してナイフを取り出す。

 まあ、実際ナメてはいるが。


「おやおやナイフですか怖いですね。では過剰防衛を執行します。メイスで」

「神官ごときが余裕ぶってんじゃなーぞクソが!! 死ねぇ!!」


 まるで亀のようにすっとろい動きでナイフを振るう。

 避ける必要もなかったのでそのままメイスを振り下ろす。

 相手の腕はへしゃげ、メイスが脳天に突き刺さり。

 バキバキバキメチャと音を立ててダンゴムシみたいにグシャリと潰れた。

 これじゃまるでミートボールだ。


「やれやれ。サービスで蘇生してあげましょう。リザレクション」


 死人に口無し。それでは困るのだ。


 あとでこいつらにはいろいろと吐いてもらわなければならないことがあるのだ。

 どうせこの手の輩は誰かの指示で動いているだけ。

 こいつらを金で雇った奴がいるはずだ。


 その情報を聞き出すためにも、死んでもらっては困るのだ。

 あと、生きたままギルドに突き出せばそこそこの金にもなるし。


 もっとも死んだ方がずっとマシだと感じることになると思うが、

 まあ、それは俺の知ったことじゃないし、自業自得だ。


「一応蘇生しましたが失敗です。これじゃあまるでバケモノですね」


 リザレクションで一応は蘇生したが、

 骨が変な風にくっついたり皮膚はアレだし前衛芸術になってしまった。

 まあ、あくまで治癒魔法であって美容魔法じゃないから仕方ない。


 完全に元通りといかないのが辛いとことだ。

 仮にできてもする義理なんてないんだけどね。


「ひっ! ひぃ! お許しを!! 神官さま!!!!」

「神に請いなさい。もっとも神は慈悲深いですが。俺は……」


 残りの野盗どもは跪いて許しを請う。

 土下座という奴である。

 俺は野盗どもの頭部に慈悲の一撃をくわえる。

 

「そんなに慈悲深くないけどね」


 即死だ。その後、リザレクションで蘇生。

 ミートボールよりマシな状態で蘇生したのだから。

 それが俺の譲歩できる最大の慈悲だ。

 後遺症? それこそ神のみぞ知るだ。


「ひいい!もうやめて……俺の嫁とガキをやるから……だから俺は助けて」

「ひでぇ……こんなキモい顔じゃ女子供を犯せねぇ……辛すぎる」

「神よ!ただクソガキを拐って売ろうとしただけなのに……なぜだ!」

「いやだ、怖い、殺して、殺してください!!」


 まるでゴブリンのような顔になった野盗どもが叫ぶ。

 酷いものだ。自白させたあとに数度殺した方が良いかもしれない。

 いずれにせよ去勢は確定だ。俺は拘束の魔法『バインド』で捕縛する。


「君たちはそこの樽の中に入ってて」

「「「「はい!!!」」」


 イモムシのように這いつくばりながら樽に自分から入っていく。

 その樽の中に子供を入れて馬車で拐うつもりだったらしい。


「お嬢ちゃん。話し合いは終わったから、出てきなさい」


 そう言うと物陰からさっきの女児が出てきたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る