卒業パーティー 2
開会のあいさつが済み、《断罪劇》も《婚約破棄宣言》もない平穏な空気の中、ファーストダンスを踊るために、と。
パートナーに伴われるまま、フロアの中央へ向かおうといたしましたところ、
「なんで決めた通りの結末にならないのよ!」
と。なにやらヒステリックに叫ぶ神々しい女性が現れまして。
さらには、それを待ち構えていたかのように、「聖騎士団、前へ!」と、号令が下され――
『捕縛結界、展開!』
と、なぜか会場に控えていた聖騎士の方たちによって、神聖魔法による檻が形成され、その中に先ほどの女性が捕らわれてしまいました。
といいますか、あれはゲームのスチルで見た《女神様》ではないかしら?
――いえ、《げーむ》って、何でしょう? ……わたくしが悪役? とは、いったい……?
「おい、大丈夫か?」
「……あ」
わたくしをかばうように抱き寄せていた腕が解かれ、不安の一つも、苦痛の一つも見逃すまいと、顔を覗き込まれ。
その眼差しに以前と同じ温度を感じて、わたくしは安堵のあまりその場に座り込んでしまいそうになりました。
もちろん、淑女としてそんな醜態をさらしたりはいたしませんでしたけれど。
……ただ、わたくしを支えるために、と引き寄せられましたせいで、距離が近くて――、か、顔が赤くなってしまったのはっ、仕方のないことなのですわ!
「何よ! 恋も知らないような子供に強制された未来なんてかわいそうだから、選び直させてあげようと思ったのに! どうして《ヒロイン》が選ばれないのよ!?」
捕縛された女性がなにやら叫んでおりますが、いったいどういう意味なのでしょう……?
「強制、ねぇ。それは、おまえがやったことにこそ使う言葉だな。
俺たちに《記憶》や《感情》を植え付け、おまえの見たい世界を押し付けた――」
「違うわ!」
「ハッ! では、神の御使いサマは、
おまえが決めた通りの結末にならないからって、癇癪を起すくらいだからなァ?」
「違うわよ! どうしてよ!? 《ヒロイン》は
肩で息をする女性は、物の道理を説いているつもりのようですが、この場にその考えに同意する者はいませんわ。
それを示すように、
「その《ヒロイン》とやらが、私を指しているのなら、あなたの好意は不愉快です。
愛し合う二人を引き裂かなければ得られない『幸せ』なんて不要ですし、そもそも、あなたのような勘違い馬鹿に施される筋合いは、私にはありませんよ」
「そうですね、聖女は我が家で保護していますから、貴女の加護は不要です。
それに、我が国の法では、教会に属する人間が王家に嫁ぐことは禁止されていますので、どの道、貴女の想定した未来にはなり得ませんよ」
「そんな……っ」
聖女と、聖女を保護した家――自分の庇護下にあると思っていた二人から否定されて、女性は傷ついたようです。
けれど、彼女は自身を悪魔の類ではなく、神に仕える身であると主張しているようですのに、捕縛結界から出られないことに疑問を感じないのでしょうか?
「――まあ、俺たちを操ったってだけなら、上から目線で『人間を幸せに導くための《祝福》だった』と言い張ることもできたんだろうが、おまえは一つ、明確な罪を犯してんだよなァ。……気づいていないのか?」
「罪、ですって? 人間の身で、不遜にも私を裁こうというの?」
「いいや、裁くのは俺たちじゃないし、審判はすでに下っている」
「どういうことよ?」と戸惑う彼女は、自身の身を縛っているのが『魔術』という、人間が生み出した技術ではなく、信仰をもって聖職者が行使する『神聖魔法』であることに気づいていないのですね……。
「この世に神は、《唯一》だ。
なのに、基にしたシナリオを忠実になぞったのか、自分も参加したかっただけなのか、おまえは自身を《女神》と僭称した。
――そんなおまえを、神が許すと思うのか?」
指摘を受けて青ざめた彼女の足元に黒い炎が生まれ、徐々にその身を包んでいきます。
炎が彼女の全身を覆い隠したと思った時には、その身を縛っていた結界ごと、すべてが灰となり、さらり、と消えてしまいました。
「さて、これで終わりだな。
とんだ邪魔が入ったが、パーティーを続けるぞ」
と、愛しの婚約者に手を取られ、わたくしはホールの中央へと誘われます。
正直、分からないことだらけですし、詰め寄って問い質したいことも沢山ありますけれど、わたくしたちが踊り始めませんと、他の方が踊れませんもの。
仕方ありませんわね。
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