一方、その頃
「ちょっと、どういうつもりなんですか?」
そう言って、王太子である俺に詰め寄ってきたのは《ヒロインの義兄》だった。
こいつの家は『権力を持った聖職者』だの『王家ではなく神に忠誠を誓う貴族』だのと呼ばれてる程度には教会に忖度する家で、平民の少女が聖なる力に目覚めた際、その少女が権力者どもの食い物にされないように、という理由で《ヒロイン》を引き取った家でもある。
その家の嫡男サマが、このタイミングで俺に物申しに来るってンなら、まあ、内容はお察し、ってヤツなんだが。
「婚約者を挿げ替えるつもりも、政略の都合で婚姻は無理でも『唯一』として愛を誓う、というわけでもない分際で、うちの大切な義妹に言い寄ってくるとは、いったいどういう了見なんです?
事と次第によっては、国家権力が相手でも容赦しませんよ」
――正直、こんな真っ当な理由で抗議しに来るとは思わなかった。
「あー……、つまり、おまえはまともなんだな」
「はぁ?」
いや、そんな「何、言ってんだ、コイツ?」ってツラすんな。
おまえ、一応は貴族の坊ちゃんだろうが。
とはいえ、他の生徒連中と違ってゲームの強制力を受けていないのなら、その反応も、さもありなん。
納得だな。
「――って、一人で納得してないで、釈明でも弁解でも、納得のいく申し開きをして欲しいのですが?」
「いや、そこは『説明』で良くねぇか?」
「おや? 貴方に非がないとでも?」
「俺だって、好きで馬鹿やってるわけじゃねーよ」
政略のための婚約者といったって、俺個人からしたら、十年かけて惚れさせた初恋の相手だぞ?
なんで今更、他の女なんかが目に入ると思われてんだよ。
「ようは、俺たちを操り人形にして、自分好みの舞台を作ろうとしてるヤツがいるんだよ。
あらすじとしては、『観客が共感しやすい《普通の少女》が、特別な力を得たことで、特別な地位につき、女性としての幸せを得る』って感じか?」
「はぁ」
「それで、哀れな操り人形と化したこの学園の生徒たち全員が、おまえの義妹と
「は? そんなことはありえないでしょう?」
「そう思うおまえは、まともだってことだろ」
「……つまり、貴方も、正気ではない?」
「そうだな」
王太子が傀儡と化していることに対してか、あるいは学園の生徒全員というありえない人数が操られていることに対してなのか。
肯定した俺に、息を飲んだものの、
「その割には、貴方の婚約者への溺愛が強すぎるような気がするのですが……?」
「その辺は、まあ、強制力の穴をついてだな。『強制的に植え付けられた《ヒロイン》への想いを否定するかはともかく、それはそれとして婚約者としての義務なんだから仕方がないよな』という建前を押し通せば、割と行動に自由はきくんだよ」
「なるほど……術者は馬鹿なんですね?」
「さぁな」
頭の出来はともかく、人間の心の機微に疎い
「それで、どうするんです?」
「ハッ! 哀れな操り人形の身の上で、操り主サマを倒せる手段があるとでも?」
「貴方なら考えるでしょう? 実際、術者の思い通りにはなっていないのですし」
「まあ……そうだな。ちょうどいい、おまえも手伝えよ」
――って、だから、そんなイヤそうなツラすんな。
おまえ、一応は
「――仕方ありませんね。義妹の周りを静かにさせるには、それが一番の近道のようですし」
ツンデレ的な建前でもなく、本心から面倒くさそうにそう言うこいつは、本当、もうちょっと、ほんの少しでもいいから王家への忠誠心を見せてくれてもいいんじゃねぇかな、と思うんだが。
――言ったところで、鼻で笑われるだけだろうから、言わねぇけど。
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