第15話 従者の疑惑
「異世界から転生された……ですか」
「やっぱりそれだけで納得はできねぇよなぁ」
俺はサジェに、昨日この世界に呼ばれたこと、気づいた時にはジークハルトの体に入っていたこと、もしかするとアンナも異世界人であり、推しのエルフリーデとヴィルヘルムが結婚して幸せになる姿を見届けたいことまでを話をかいつまんで伝えた。
サジェの反応はというと、とくに表情を変えるわけでもなく冷めたものだった。
「そうですね、いくらなんでも荒唐無稽過ぎる話です」
だよねー。
まぁ、至極当然の反応だよな。
いきなり自分が異世界人であり、ジークハルトの体に入って活動しているなんて無茶な話だと俺も思う。
口下手な俺が話すより、ヘカーテや亜依に事情を説明してもらったほうがはるかに話はスムーズになると思うので、そこまで時間を稼ぐしかない。
女神の行き当たりばったり召喚のせいで、こっちはハラハラドキドキしまくりだわ。
「説得する材料があるにはあるんだが、用意するのに時間がかかるんだよな。次の新月の晩まで待ってもらえないか?」
「次の新月?二週間後ですね。どうしてそこまで時間がかかるのです?」
「今は説明できねぇ。実物をみれば恐らく話が飲み込めるはずだ。それの準備が整うのが新月の晩。そこまで待ってくれとしか俺からは言えねぇ」
とりあえず嘘は言っていないが、異世界人の証拠になるものがないため説得しづらい状況だ。
あっちの世界の知識とかを披露する手もあるが、ただのDKである俺が出せる知識なんてものはたかが知れているし、こうなってみると自分が異世界人であると証明するのは中々難しい事が分かる。
「……わかりました。次の新月の晩まで決断は保留します」
「信じてくれるのか?」
「全面的に信じるとはいきませんが、アンナ嬢が異世界人の可能性があるということ話を聞いて腑に落ちた事があります」
昨晩のパーティー会場でサジェにはアンナを別室に隔離させていたが、その間アンナは、
「なんで私が攻略対象でもないこんなモブに捕まえられなくちゃいけないの!」
「あたしの言うことを聞きなさいよ!」
「なんで魅了されないのよ、このモブ!」
など意味不明な言葉をサジェに浴びせ続けていたらしい。
「話の流れからするとあんた、アンナに魅了をかけられていたようだが、なんともなかったのか?」
「そうですね……。特にあの方から何か影響を受けることはありませんでした。まぁ、はっきり言ってウザい方という印象しか持ちませんでしたね」
「笑える。しかし魅了は、かけられた対象の感情とか気持ちは無視して作用するはずなんだがな」
「もしかすると、私の契約精霊がケットシーであるためかもしれません。精神の固定と停滞を司る闇属性の力は、恐怖などの精神効果に高い耐性を持ちます」
ケットシーとは闇属性に属する猫型のかわいらしい見た目の妖精だ。
強力な攻撃魔法などは持っていないが、精神に効果を発揮する魔法を多数もっていた記憶がある。
契約者が精神耐性を得られるのはゲームになかった効果だが、それは転生者と思われるアンナに対しても思わぬカウンター的存在だっただろう。
「なるほど、こいつは魅了に対して強力な手札になりそうだな」
「その話に何度か出ている魅了というのは一体なんでしょうか?」
「すまんが、この件はまだ詳しく話せないんだ。これは陛下のご判断なので従ってくれや」
この世界における「魅了」の定義が決まるまでは、関係者以外この話は触れないようにするというのが国王の判断だった。
精霊の力でも抵抗できる事を発見したのは大きな収穫だったが、アンナもそれに気づいているだろう。
ここから先は狐と狸の化かし合いといった感じになるだろうか。
「とりあえず、俺が話せるのはこれぐらいだ。後はお前の判断に任せるわ」
「わかりました。それでは殿下、そろそろ口調を直して城にお戻りください。学園の登校時間が迫っています」
「おっと、もうそんな時間か。わかりました、登校の支度しましょう」
サジェから懐中時計で時間を示され、俺はスイッチして口調をジークハルトに戻しておく。
「それと殿下、本日から学園生活はくれぐれもご注意ください。恐らく学園の御令嬢方が一斉に動かれると思いますので」
「それは、どういう意味でしょう?」
「ご登校なされればすぐお分かりになるかと」
首を傾げる俺に、サジェは慇懃にお辞儀をして答えるだけだった。
学園の令嬢たちが傷物になったジークハルトに何の用があるのだろうか。
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