第13話 推しのための根回し

「殿下!?」


「いきなりどうしてそこに話が進む!?」


エルフリーデとヴィルヘルムが俺の提案に驚きの声を上げるが、話の当事者としてまぁ普通の反応だよな。


それに比べて国王はあまり驚きはしなかったようで、特に表情を変えることはなかった。


「理由を申してみよ」


「はい。まず第一の理由、これは簡単です。エルフリーデ嬢が愛しているのは私ではなく、こちらのヴィルヘルム殿下だからです。しかしお二人は私とエルフリーデ嬢に結婚の約束があるため、愛し合うことを諦めていました」


「「……」」


どうしてそこまでお前が知っているといわんばかりの二人の視線が俺に突き刺さるが、そんなことは気にならない。


推しカップルがお互いをどれだけ想っているかなど、こちらは当然のごとく把握しているがゲーム内で堪能していましたなどといっても意味不明な上にドン引きされること確定の発言だ。


さすがにフェニックスのおかげで知りましたなどとは言えないが、二人を見ているだけで気持ちが察せられたという形式にしておこう。


「ですので私たちが婚約解消となれば、お二人は婚約を前提に晴れて正式にお付き合いすることが可能になります」


「ふむ。だがその理由では王家とブラウンシュバイク侯爵家が取り交わした婚約関係を破棄するものとしては弱いな。当人同士の気持ちなどという理由では、契約は破棄できぬ」


「陛下のおっしゃる通りです。そこで此度の騒動です。フェニックスの力により魅了は解除できましたが、そもそも魅了とは何か、そして誰がどのような目的で行ったのか、全ては不明のままです。この件に関しては王家で追跡調査を行うことになるでしょうが、とりあえずエルフリーデ嬢の無罪が証明されました。しかし肝心の私は婚約者に容疑がかけられているというのに、ぎりぎりになるまで助けだすこともせずエルフリーデ嬢の名誉を著しく傷つけてしまいました」


「ジークハルト殿下、そのような事はございません。殿下は私のためにフェニックスとの契約という困難な事に挑戦し、見事成功なさいました。殿下を悪くいう者などいないはずですわ」


「ありがとうございます。しかし事実としてエルフリーデ嬢に疑いがかけられたことは事実であり、疑惑を晴らしても事件は解決していないため、このまま結婚することは難しい状況でもあります」


王侯貴族など上流階級というものは何よりも名誉を重んじ、外聞が悪くなることを嫌う。


エルフリーデは今回の一件で「疑いをかけられた令嬢」になってしまったため、貴族社会では傷モノの扱いをされる。


王家に嫁ぐには微妙な立場になってしまったわけで、これを利用するというのが俺と亜依が話し合って作ったプランだ。


「そこで調査により事実が明らかになるまで、私とエルフリーデ嬢の婚約は一時凍結の形をとります。証言は否定されましたが、事態が明らかになるまではエルフリーデ嬢の疑いが完全には晴れたとはいえませんからね」


「随分と迂遠なやり方だな」


事態の説明に呆れかえるヴィルヘルムに心底同意する俺。


「まったくです。形式とは本当に面倒で馬鹿らしいものだと時々思う時がありますよ。しかし、ここからがヴィルヘルム殿下の出番です」


「どういうことだ?」


「エルフリーデ嬢の無実は明白。だというのに事実を明らかにするまで疑いがある扱いにするとは何たる侮辱か。そのような事を平然と行う国や王子に、愛するエルフリーデを任せることはできない。自分とダルムシュタット公国こそが彼女に本当の居場所を与えられるとして、お二人の婚約を申し出てもらいます」


「もはやそれは強弁というよりも三文芝居の文句ではないか……」


「ええ、しかし民衆にはこれぐらいシンプルで大仰なほうが受けが良いのですよ。人気の物語作家にこのあたりの話を小説に書かせて広めさせるという手もありかもしれませんね。民衆の声というのも馬鹿にできないものです」


とても政治の話などというレベルではないが、二人が結ばれるようにするにはこれぐらいの無茶ぶりが必要である。


大体ただの高校生である俺が、政治的に納得させうる理由を考え出すなど無理に決まっているのだ。


だったら、ゲーム的に無理がない展開を狙った方がやりやすい。


「フェニックスの炎によって蒙が晴れ、真の愛に目覚めた二人が結ばれるなんて実にドラマチックな展開じゃありませんか。あとは魅了されかかっていた私が自分の不明を恥じて身を引けばよいわけです。お二人が婚約することに関しては王国と公国の関係が深まるという観点からして、決して無理筋ではありませんよね、陛下?」


「確かに無理な話ではない。公王が了承されれば、十分に可能性がある。しかし、この話はお前の王太子としての立場が危うくなる可能性もあるのだぞ」


「その通りですわ、殿下。お話からしますと殿下は一方的に愚かな立場になってしまいます。それでは王太子としての危ぶまれる恐れすらあります」


確かにこの話が通るとなると、ジークハルトの立場にはよろしくない結果となるだろう。


しかし俺にとってはこの国の王位など何の興味のないものであり、推しが幸せになれればそれでいいのだ。


「理解しております。最悪の場合、私は廃太子としていただき弟に王位を譲りたいと存じます」


「そこまで考えての事か……。お主、本当にジークハルトなのか?」


「おっしゃっている意味がよく分かりませんが、恐らくフェニックスの契約により私が成長したのではないかと思います」


国王の質問にドキリとするが、何とか動揺を隠して平静を装う。


危ねぇ、危ねぇ。


あんまりメタ的な言動や行動をすりすぎるとやはり疑われるな。


「ふむ、フェニックスの契約によって、成長したとな。まぁ、今はそういうことにしておくとしよう」


「ありがとうございます。それではお二人と陛下がよろしければ、この方向で話を進めさせていただきたいと存じます」

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