第12話 魅了の脅威

「学生の多くが、その魅了という状態にされていたと申すか?」


「はい」


フェニックスの契約と浄化の炎による魅了解除を行った後、俺は内々の話をするため王家専用の休憩室に再び場所を移しての話し合いを行うことにした。


この話し合いのメンバーに俺が指定したのは、国王にエルフリーデ、それとヴィルヘルム王子の三人のみ。


「魅了なる魔法の存在は聞いたこともないが、効果を聞くだけでもそら恐ろしくなるな。使用者の言いなりになっていく上に、それに対する異常さも感じなくなるとは……」


ゲームの中で魅了は特別なスキルとして日に5回、攻略対象のみに使用できるものとなっていた。


しかしそれはゲーム上での設定だったわけで、現在この世界でどのような制限、効果のあるものなのかは不明だ。


先ほど儀式の場で魅了を解除できた対象は、男子生徒を中心にかなりの数にのぼっていた。

攻略対象のみ、という制限はないと見ていいだろう。


「魔法でないため対策しにくいのが問題ですね。エルフリーデ嬢の証言をしていた学生の精神に異常性を感じたため、私がフェニックスの力により解除することではじめて皆が魅了にかけられていたことが分かったのです」


「その魅了は全てアンナが企てていたと?」


「可能性は高いですが確証がありません。この件で一番利を得ているのがアンナ嬢であることは確実ですが、無理に追及しても覚えがないと言われてしまえばそれまでです。そのためあの場で追及することを避けました」


ゲームをプレイしていた俺は「魅了」の効果も、使用できる人間がアンナだけだとも分かっているが、それを証明する術がない。


あれが魔法ではなく特殊スキルであり、直接使用している場面を押さえない限り証明できない以上、アンナは限りなく黒に近いグレーの存在として監視する他ないだろう。


「ふむ……事実とすれば由々しきこと。禁呪指定をかけて使用を禁じねばならぬ魔法となるだろう。宮廷魔術師団に調査を行わせる必要があるな」


「それも慎重かつ隠密に行う必要があります。魅了に果たして抵抗できるのかどうか、そもどのようにかけているのかなど未知数な部分が多いですからね。相手に警戒されてしまっては調査すラ難しいです」


無論、国王の権力を用いて無理やりアンナを処罰されるようにもっていく方法がないわけではない。


しかしこの世界の敵がアンナ一人なのかそれとも他にもいるのか不明であるし、下級貴族とはいえアンナも男爵家の令嬢だ。


王家が証拠もないのに疑いのみで貴族を処罰すれば、有力貴族から反感を買う恐れもある。


そこまで考えた亜依は、とりあえず今の時点でアンナを追求するのは避けた方が良いと言っていたが、俺も同意見だ。


まったく王族というのは不自由なものだ。


ま、ここらへんの知識はジークハルトのものを拝借しているだけなので、俺がドヤ顔するわけにはいかないのだが……。


このような流れで国王と俺が話を進めていると、ヴィルヘルムが近づいてきた。


「それでこのような国家的な問題を、他国の人間である俺にわざわざ伝えた意味はなんなのだ、ジークハルト王太子」


「殿下が非常に危険なお立場にあるためです」


「何?」


「もしアンナ嬢が殿下をターゲットにした場合、とんでもない事態を招く恐れがあります。自分を婚約者にしろとかエルフリーデ嬢を殺せ……というのは極端な例かもしれませんが、予備知識なしで魅了されればこれらの事すら疑問に思わず実行しかねません」


魅了の効果はゲーム上では攻略対象の印象度を上げるだけの効果だった。


しかしリアルになっているこの世界では、魅了されると相手の言う事全てが正しい事だと思うようで、かなり様々なことを対象に行わせることが可能なようだ。


アンナも俺の想定どおり転生者だとすれば、ゲームの知識を利用してどこまで暴走してくるか分からない。


アンナの中身はあまり褒められた人格ではないようなので、これ以上悪さをされないように対処していく必要がある。


「そこまでの力はあるまい……と言いたいが、なるほど魅了されていた人物がしていたことを考えれば、脅威と捉えるべきか」


「そのとおりです。我が国の対策が決まるまでは、国賓である殿下にも留意していただく必要があると思い、お伝えしました」


王国から警戒されたアンナがどこまで暴走してくるか分からないが、今のところ魅了を解除できるのが俺のフェニックスのだけなので、どうしても対処が後手に回ってしまう。


現在の学園内で魅了されると一番恐ろしい結果を招くのがヴィルヘルムと俺は判断した。


ヴィルヘルムが魅了されないように、なるだけ近くにいれるようにするためにもある程度は腹を割って話しておいた方がいい。


ここまで話すと、問題の渦中にあるエルフリーデが口を開いた。


「私がアンナ様に狙われたのは、私が邪魔だと判断されたためですね」


「はい。恐らくアンナ嬢は私を側周りの学友を魅了し、未来の王太子妃になろうと目論んでいたのでしょう」


「それであれば私はアンナ様にとって一番の障害であったでしょうね」


エルフリーデはゲーム中、王族へのマナーについての知識に乏しいアンナ(プレイヤー)に対してやや厳しめに指摘してくる。


彼女が口にすることは全て正論なのだが、正論というのものはそのまま指摘してしまうと暴力的に聞こえてしまうことがある。


彼女もそれは理解できていたようだ。


「己の不明を恥じいるばかりですわ……。私はアンナ様に厳しく指摘しすぎたのかもしれません。私への敵意がアンナ様をそのような凶行に向かわせてしまったのでしょう」


「確かにそれも原因の一端かもしれません。しかし、どんな理由があろうとも人を勝手に魅了してよいという理由にはなりません」


ゲーム内の登場人物からこうして話を聞くと、安易に使っていた「魅了」がどれだけ危険で凶悪なものなのか分かってくる。


エルフリーデが今回の件の原因になっている可能性はほとんどないだろうが、今話し合うべきことはこの事ではない。


「ここからが本題です。アンナ嬢は今後注視するとして、陛下には先ほどお伝えしたように私はエルフリーデ嬢との婚約を解消したいと思います。そして、ヴィルヘルム殿下とエルフリーデ嬢の婚約を認めていただきたいのです」

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