第10話 オリハルコンの指輪

うわぁ、中二発言しちゃったよ。


あまりの気恥ずかしさに内心赤面する俺だったが、幸いこの世界では気にされない言葉だったようだ。


それどころか、儀式の間に集められた学生や講師たちからは驚嘆の声が上がってる。


「おお、あれがフェニックス!!」


「なんと神々しい姿だ……」


「まさかジークハルト殿下が最上位の精霊と契約できるとは……」


炎を纏い幻想的な美しさを放つ火属性の最上位精霊フェニックス。


もちろん纏っている炎は現実のものではなく魔法によるもの、俺たちの世界でいえば立体映像に近いものなのだろう。


それが証拠に大の大人より巨大な火の鳥が室内で羽ばたいているというのに、火はおろか熱すら発せられていないので何かが燃えるということもない。


俺が命じない限りは。


精霊学の講師であるエーヴァーハルトも驚きのあまりしばらく言葉を失っていたようだが、何とか気を取り直して俺に話しかけてきた。


「これまで何百もの精霊契約の儀に立ち会ってきましたが、まさかフェニックスが召喚される現場に立ち会えるとは思いませんでした。現在の精霊学では実在するか否かすら疑われていたほどですから……」


「これで実在は証明されましたね。さて、装具は?」


「こちらにございます」


恭しく金色のブレスレットが差し出された。


真ん中に赤い宝石が飾られた豪華な装飾が施されたブレスレットである。


精霊が住まう世界「精霊界」から我々人間の住む世界「物質界」に呼ばれ契約するに至った精霊は、普段この世界に留まる場所として自分の属性に則した宝石の中に入る事を好む。


火の属性であればカーネリアン、ルベライト、赤珊瑚、ガーネット、ルビーなどが該当する。


ここらへんの知識が苦労せずにさらさらと出てくるのは、体の所有者であったジークハルトの知識のお陰だ。


そういえば本当のジークハルトの魂はどこにいったのだろうか。

ヘカーテのやつが含みのある発言をしていたから、あの女神なら行方を知っているのだろう。

次の新月の晩にそこらへんの事を聞き出してみるか。


そんなことを考えながら、俺はブレスレットを腕にはめてフェニックスに向けてみたが、フェニックスは不機嫌そうに顔を背け宝石の中に入ろうとしない。


「……どうも宝石の格が低すぎて、入りたくないみたいですね」


「これは困りました。今ある契約の腕輪の中では、これが最高級の物なのです。これ以上のものとなりますと、今すぐご用意いたしますのは些か難しゅうございます」


「こまりましたね。召喚した精霊をいつまでもこの場に留めさせるわけにはいかないのですが……」


「……侍従長、アレを持ってまいれ」


一連のやり取りを見ていた国王が、侍従長エーレンフェスト卿に指示を出した。


「かしこまりました」


流石は現国王に長年仕える侍従長、アレという言葉だけで国王の意図するものを読み取り、転移方陣の使用して儀式の間を退出していった。


しかし、アレとは一体何であろうか。


興味を持った俺は、国王に訪ねてみることにした。


「父上、アレとは一体何のことでしょう?」


「王国の至宝とされている紅魔の赤玉が嵌められた指輪のことよ。火に属する最上位の精霊と契約するために造られた契約の装具。とはいえ、今まで歴代の王のほとんどがこれを用いることはできなかったのだがな」


「そのようなものがあったのですか……」


「本来は王位を継承するときにそれらの知識も共に受け継ぐものなのだが、流石にフェニックスがきては、これだけは先に継承せねばなるまい。しかし、まさかお前がフェニックスと契約できるとは思わなんだぞ。なぜ急に契約ができると思った?」


「それが最近になりまして急に私の魔力が伸びてまいりましてひょっとしたら、と」


「……随分とあやふやな理由だな。本当にそれだけなのか?」


「はぁ、まぁ……」


く、苦しい。


いくらなんでも異世界転生した魂が月の女神様に導かれて、元の世界の妹のプランに基づいて成功しましたなどという荒唐無稽な理由を口にするわけにはいかんし、どう説明したものか……。


ない頭を捻ってあーでもないこーでもないと俺が考えていると、エーレンフェスト侍従長が漆黒の小箱を一つ手に携え、儀式の間に戻ってきた。


「お待たせいたしました。陛下」


「大儀であった。ジークハルト、これを用いてみよ」


侍従長から恭しく差し出された小箱に国王が手をかざすと、カチリと音がして蓋が空いた。


恐らく国王のみが開ける事のできる特殊な封印が施されていたのだろう。


小箱の中から出てきたのは深紅の宝石がはめ込まれた、一見するとシンプルなデザインの指輪だった。


だが俺は、指輪の土台部分の金属がもつ虹色の輝きを見逃さなかった。


「まさかこれは……オリハルコンの指輪ですか?」


「ほう、オリハルコンまで知っておったか。いかにも、この指輪の土台にはオリハルコンが用いられておる」


オリハルコンという言葉が国王の口から発せられると、儀式の間にどよめきが起きる。


出逢異というゲームにはRPGパートもあり、そこで出てくる最高位の装備がオリハルコン製の武具となっている。


このゲームでのオリハルコンという金属の扱いは、神々から与えられた特別なもので虹色に輝くという特徴がある。


「この指輪を初めてみた者は、まず中央の宝石に気を取られるのだが土台のオリハルコンに目をつけるとは驚きよな。そなたはオリハルコンの現物を見たことがあるのか?」


「いえ、虹色に輝く幻の金属とだけ聞いたことがあったので、もしやと思ったのですがこれが……」


「まぁよい。ではこの指輪を身に着けるがよい」


「はっ」


国王より手渡された指輪を右の人差し指に嵌める。


それを見たフェニックスはこれなら良いと思ったのか満足げに翼をはためかすと、とてつもない速度で指輪の宝石の中に飛び込んだ。


フェニックスが中に入る事で、翼のような紋章が宝石の上に浮き出る。


これでフェニックスとの契約が完了したと見てよいだろう。


これで準備は全て完了した。


ここから亜依命名の「ざまぁプラン」開始だ。


「それでは、エルフリーデ嬢が無罪であることの証明を開始いたします」

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