第7話 異世界への連絡手段
ヘカーテはあっさりととんでもないことを言ってのけた。
元の世界に連絡が取れるだと……。
「マジか!?」
「まじじゃ。さすがにいつでも連絡が取れるほどの魔力は今の妾にないが、力の源である月の魔力が満ちる満月と新月の晩であれば可能じゃ」
「満月の晩って……」
窓の外には巨大な丸い月が、一際眩く輝いている。
「今日じゃねぇか!」
「そうじゃ。可憐な美少女神である妾が地上に姿を現すことができるのもこの月夜の魔力のお陰よ。いかに妨害を受けようと月夜の魔力さえあれば、どうとでもなる」
「妨害?アンタ、ガチの敵でもいるのか」
「うむ。妾がここまで弱体化させられた要因は、ひとえに妨害してくる敵の存在よ。それが一体何者であるのか、何故妾の力と座を奪おうとしているのかまったく不明であるのが口惜しいところよな」
敵の正体も目的も不明。
そして確実に追い詰められつつある。
ヘカーテはため息をつきながら話を続ける。
「我が愛し子が月につまり妾に救いを求める祈りを捧げてくれねば、妾は記憶も願いも忘れ眠りについていたところであろう」
なるほど話が繋がったな。
今夜のダンスパーティで、エルフリーデはジークハルトから婚約破棄の宣言を受けることになっていた。
察しのいい彼女はそのことに気づいてはいたが、現状一人ではどうすることもできない状況だ。
エルフリーデの回りは全てアンナの「魅了」によって敵対関係になっており、助けが入る可能性は皆無だろう。
やむを得ないこととしてそれを受け入れながらも、それでも僅かな望みをかけて月に祈りを捧げていた彼女の切なる願いが、バイク事故で魂の抜けかかっていた俺をこの世界に召喚するきっかけとなったのだ。
意外に熱い展開じゃねぇか。
「魂の状態になっておらぬと妾の力では召喚できぬゆえ、愛し子の存在を強く思っていたそなたが適任だったわけじゃ。別に勇者とかそういう特別枠ではないぞ」
「うっせぇ、そこまで期待してねぇよ。で、そうなると気になってくるのが、本来のジークハルトの魂だな。こいつは別に死にかけていたとかそういうわけじゃねぇんだろ?」
「うむ、そやつの魂に関してはまぁ心配するな。来たるべきが来た時に教えてやろう」
含みのあるヘカーテの返答からして、今はこの件の答えを知る必要がないことは察せられた。
「わかった。そこらへんの事はとりあえず置いておいておく。まずは亜依への連絡手段を教えてくれ」
「簡単じゃ。この鏡を持ち連絡をとりたい者の顔を思い浮かべるのじゃ」
ヘカーテが虚空に手を伸ばす銀の手鏡が生みだされた。
それをさっと俺に手渡す。
「さ、やってみるがよい」
「随分簡単だな、おい」
「物事は単純簡単が一番というじゃろ。魔法というものも突き詰めればどれもが単純簡単なものなっていくのじゃ。複雑怪奇な手順が必要な間は、その技術はまだまだのレベルということじゃの」
「……そういうもんかい」
まぁ理論理屈がなんであれ、手順が簡単というのは助かる。
俺は手鏡を前に妹の顔を思い浮かべた。
すると……
「!?」
歯ブラシを口にくわえて、パジャマ姿の亜依の顔が鏡に映し出されたではないか。
「亜依、俺だ!」
「王太子ジークハルト!?」
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