第2話 推しの前に自己紹介

俺こと黒木司(クロキツカサ)は17才の男子高校生。


両親が元ヤンキーということもあって、喧嘩三昧の日々を送っていた。


黒木家のモットーは以下の三つ。


売られた喧嘩は絶対にかえ。


かった喧嘩は絶対に負けるな。


弱い者イジメは絶対にするな。


こう書くと、俺の趣味も喧嘩だと思われがちだがそれは違う。


俺の趣味、それは恋愛ゲーム、それも俗に乙女ゲームと言われる女子向きのものだ。


理由は単純。


妹の亜依に勧められたからだ。


亜依も黒木家の女だけあって、男顔負けと表現すると今どきは性差別になってしまうが、とにかく喧嘩が強い。


正義感も強く弱い者いじめされている者を見つけたら、すぐに割って入り助っ人する男前な性格。


我が妹ながらリスペクトしたくなるのだが、実は亜依は完全な乙女脳なのだ。

子供のころから白馬の王子さまに憧れ、いつか自分を迎えにきてくれるものと思っている。


そんな亜依の趣味は当然乙女ゲーム。


攻略対象キャラ全員の攻略は当たり前。


スチルもすべて集めるし、裏ルートがないかどうかもすべて検証する。


さらに攻略が完了するまで一切webの攻略情報には頼らないという筋金入りのプレイヤーだ。


その亜依が熱心に俺に勧めてくれたゲームがスマホでできる乙女ゲー「出逢いは異世界で」通称出逢異。


やることがなくて手持ち無沙汰だった俺は、とりあえずプレイしてみることにした。


イケメンだらけの攻略対象者。


選択肢を選んで、まるで媚びるように好意度あげていくゲームシステム。


ありふれた乙女ゲームに過ぎないこれをなぜ妹が勧めてきたのか。


その疑問の答えはゲームの攻略を少し進めてみることで分かった。


主人公のライバル的キャラクター「エルフリーデ」。


彼女がとにかく辛くかわいそうな立場なのだ。


王国の名門貴族の子弟が通う聖マリアンナ学園で、ジークハルトと主人公アンナは男爵令嬢と第一王子という身分の差を乗り越え、距離を縮めていくというのがジークハルトを攻略するルートのあらすじだ。


ここでライバルキャラとして現れるのがエルフリーデ。


ブラウンシュバイク侯爵家という名門の出身である令嬢エルフリーデは、前述したように王太子ジークハルトと婚約関係にある。


そのため、身分を越えて恋愛関係になろうとするジークハルトとアンナの間に起きる様々なイベントの障害として彼女は立ちふさがる。


他の攻略ルートでもエルフリーデは出てくるのだが、ジークハルトルートでは特に登場回数が多い。


しかしエルフリーデが窘める内容と言えば、主人公のマナーがなっていない点の指摘や、婚約者がいる立場のジークハルトの軽はずみな行為を窘めるなど、極めて常識的な行動ばかりなのだ。


極めて常識人かつ苦労人である彼女の人気は高く、本当の主人公は彼女ではないのかという推測がファンの間でも持ち上がったくらいである。


彼女がなぜ苦労人であるのか等、まだまだ語りない部分があるのだが推しの話はとりあえずここまでにしよう。

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