乙女ゲー世界に転生したらなぜかBL展開始まりました 推しの悪役令嬢を助けたらなぜか従者に愛されて困る王大子(俺) かくなる上は乙女ゲーBLゲーどちらも攻略します
曲威綱重
第1話 推しと踊る
「どうして婚約破棄されないんですの!?」
ヒルデブラント男爵家令嬢アンナの声が聖マリアンナ学園のホールに響き渡った。
今は学園祭最終日の夜。
学園祭の締めとして行われる学生全員が参加するダンスパーティが開催されている。
俺が最初に許嫁のブラウンシュバイク侯爵家令嬢エルフリーデの手を取ると、そのアンナが抗議の声を上げたのだ。
……想定どおりだな。
「君は何を言っているのかな?」
「王太子殿下、どうして様のお手を取られていらっしゃいますの!?」
「それはもちろん、私の許嫁だからだよ」
エルフリーデと俺ことリューネブルク王国第一王子ジークハルトは、お互いが七歳の時に父である国王ハインリヒ六世とブラウンシュバイク侯爵オットーの間で取り決められた婚約関係にある。
当然俺がダンスで最初に誘う相手は婚約者である彼女以外にはいないのだ。
本来ならば。
「お、王太子殿下……私が最初のお相手で宜しいのでしょうか?」
「何をおっしゃるのですか。私の最初のダンスの相手はあなた以外にいるわけがないでしょう。さぁ、お手を」
うぉ。
我ながらなんとくさいセリフ。
しかしさすがはイケメン王太子の体。
普通に口に出したら周囲からの生暖かい視線まったなしのこのセリフが、なんともしっとりと艶のあるイケボでさらさらと語られる。
恋愛スキル高ぇ。
そして推しことエルフリーデのこの表情。
長い黒髪(今は結い上げてるけど、それもまたいい)に黒い瞳にシックなドレスが良く似合う。
「お待ちください、ジークハルト殿下!」
嬢に伸ばした俺の手を、先ほど俺につっかかってきた男爵令嬢が掴んでくる。
「(てめぇ、そのうす汚い手をどけろ)」
喉まで出かかったストレートな感情をぐっと飲み込んで、俺は笑顔で告げる。
「お手をどけていただけますか、アンナ男爵令嬢?」
「……ヒィィ!」
笑顔がそんなに怖かったのだろうか。
アンナの顔を一瞬で青ざめ、掴んでいた俺の手を解放する。
まぁ、顔は笑っているが目は笑っていないというやつだったのだろう。
とりあえず、この邪魔者を排除しなければ話が始まらない。
「(誰が触っていいといった、この性格ブス)」
「どうやら貴方は少し疲れているようだ。……ザシャ」
パチンと指を鳴らして、俺は乳兄弟にして側近のザシャを呼んだ。
すぐに脇に控えていた褐色の肌に白髪の青年が前に進み出る。
どうして中世ヨーロッパ系の世界観であるこの国の、それも王太子の乳兄弟としているのかわからないが、まぁファンタジー世界だからということで割り切ってしまうべきだろう。
そして、さすがは乙女ゲーの世界。
顔面偏差値が半端ない超絶イケメンである。
「殿下、お呼びでしょうか」
「こちらの御令嬢がお疲れのようだ。休憩室にご案内するように」
「かしこまりました」
一礼すると、ススッと近寄り
「ち、ちょっとなんなの貴方、無礼よ!離して!!」
「さ、こちらにどうぞアンナ嬢」
ガッシリと肩を掴んだサジェは、有無を言わさずにホールの外に連れ出す。
あいつも攻略対象の一人だったはずだが、ゲーム内ではジークハルトに絶対の忠誠を誓っていた。
指示を出せば従うのではないかと判断したが、どうやら正解だったようだ。
これはおかしいだの間違ってるだのとギャアギャア騒いでいるアンナを連れ出すサジェは、一度振り返ると俺に対して大きく頷いて見せた。
どういう意味なのかよくわからんが、恐らくはよくやったという意味なんだろう。
とりあえずそう受け取っておこう。
事態が落ち着いたのを見計らったのか、楽団が軽やかなワルツを奏で始める。
それを聞いて一時騒然となっていたダンスホールは落ち着きを取り戻し、男子生徒がそれぞれペアとなる女子生徒の手を取り、ダンスが開始された。
俺も改めてエルフリーデの手を取る。
「お待たせしましたね。さぁ、参りましょう」
「ジークハルト様、私は……」
大丈夫、君の気持ちはわかってる。
俺はエルフリーデをリードしながら、今はただ推しとのひと時を楽しむのだった。
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