幕間 黒く変わりゆく魔石

 島の中心部、林の奥。白い光柱の根本まで、月成理瀬とヴァーレリアの二人はやってきた。


 光の根本を掘れば、《焦煙の魔女》の全魔力を封じた魔石がある。――紛れもない、魔力の持ち主、本人からの言葉だった。


 二人を除き、魔女は全滅――そんな惨状を引き起こした、最低最悪の魔女ではあるが、そんな彼女の言葉をも二人は簡単に信じてしまった。


 それは、彼女がわざわざ、そんなにくだらない嘘をつくような魔女ではないと分かっていたからこそだ。


「……何か考えがあって、私たちに、魔石の在り処を教えたんだろう、とは思うけれど」

「同感ね。魔石の在り処を教えて、もう一度私たちを争わせよう――とか。流石に考えすぎかしら?」


 当然、二人の魔女も、なんの考えもなく、魔石の元へと向かった訳でもないのだが。


「なんにせよ、私たちが魔石を見つけて為すべき事は、もう決まってるわよね?」

「ええ、もちろん。今度はもう、食い違わないはずよ」


 全員殺すか、争いを止めるか。


 同じ目的で、しかしその方法が全くの真逆であり、対立してしまった二人。


 だが、もう同じ失敗はしない。


「「――?」」


 二人の声が、まるで優美な二重奏デュエットのように――この島へと響き渡る。



 ***



 場所さえ分かれば、魔石を掘り出す事自体はそう大変な作業ではなかった。


 特別深い所に埋まっている訳でもないので、理瀬の鎖を操り、ドリルのように先を回転させて穴を掘るだけで、人の頭蓋骨程度の大きさをしたそれは、簡単に取り出す事ができた。


 宝石で言えばルビーに近いだろうか。深紅色がうごめく塊は、魔道具を作る材料として、魔石によく触れている理瀬ならば――いや、普段から触れている訳でもないヴァーレリアでさえも――少し触っただけでも分かる。


「大体、こんなに大きな魔石なんて初めて見るというのに――今にも弾けてしまいそうなまでに充填された魔力。《焦煙の魔女》の魔石で間違いないわ」

「私は特に、魔石に馴染みはないけれど……それでも、ただの魔石じゃない事は一目瞭然ね」

「理瀬、あなたは魔石を持ち上げて。私はあれを……

「ええ、お願い」


 言うと、そこそこ重い魔石に鎖を二本、クロスさせて巻き付ける。そのまま、ヴァーレリアの狙いやすい正面へと持ち上げて。


「――万物を貫きドゥルヒシーエン吹き抜けよヴィシュトルムッ!」


 詠唱を省略していない、本来のヴァーレリアが持つ、破壊的な風の刃が、魔石の中心を穿つ。


 ――キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン――ッッ!!


 まるで世界を凍てつかせる、甲高い金属音と共に。


 理瀬の縛り上げていた魔石が、砂粒のような破片を除けば、大きく分けて五つへと、バラバラに砕かれる。


 呑み込まれるように赤かった魔石の破片は、どんどんと色を失っていき、やがて……燃え尽きたかのように、黒一色へと変わっていく。


 誰もが違いを感じ取れるほどだった魔石の姿はどこにもなく。それは、二〇〇年生きた魔女の魔力が、この世界から消滅した事を指し示す。

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