編者のアルフィーネ(7)
万物を貫く風が、シュティーレンを射抜き、全身をズタズタに引き裂いて。
いくら、自身で執筆した小説の力を自由に扱える彼女とて、人間である以上、不死身ではない。
――終わったのだ。《
戦いを終わらせた帳本人が、ついさっきまでの激戦を経て、ついに放心状態となってしまった少女――
「……無事、みたいね。理瀬」
「ええ。助かったわ、ヴァーレリア」
***
「……理瀬。あなた、あの瞬間――私のために、誘導してくれたわよね。もしかして、私が詠唱しているのに、気づいていたの?」
「流石に遠かったから、何をしているかまでは流石に分からなかったけれど。……限りなく確信のある予想ってところかしら」
『《
あれは、希望的観測ではなく――逃げ出さずに、屋上から加勢するヴァーレリアの姿を見たうえで言い放った、紛れもない事実だったのだ。
もちろん、ただ屋上から二人の様子を伺っているだけの可能性も否定しきれないが、ヴァーレリアに限って、その可能性はないだろう……そう信じた結果だ。
「まあ、これで派閥が一つ、消滅した事にはなるけれど。……それでも、
「ええ、十分過ぎる結果でしょうね。《焦煙の魔女》の望みは、派閥を最後の一つにまで絞る事。対して、残った派閥は二つ。そして、私たちはもう、争うつもりはない。これが『勝利』でなくて、何と言い表すのかって話でしょ?」
「そう、よね……」
「……理瀬……?」
最後に、この島に残されたのは《
この下らない相続争いにピリオドを打った時点で――二人の勝利は確定した。
それなのに、どうして――。
「私たち、勝ったのに……どうして、こんなにも、虚しく感じてしまうのかしら……」
目的は達成した。そのはずなのに、心にぽっかりと穴が開いたような、空虚な気分が晴れる事はなかった。
理由はもう、言うまでもなく分かってはいるが――ヴァーレリアは再確認するように、口に出す。
「……私たちは、大切な物を失いすぎた」
この島には来られなかった父親を除いて、他の家族をもれなく失ってしまって。
そんな、重すぎる代償と引き換えに、手に入れたのは《焦煙の魔女》に対する、一時の愉悦だけ。
……こんなの、あまりに――釣り合わなさすぎるだろう。
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