編者のアルフィーネ(5)

 シュティーレンの戦う、その動きを観察した結果と。『弱点』を告げた際に否定はしなかったことから、二つの小説の力を同時に使うことはできないのは、確かだろう。


 だが、そうであったとしても――彼女の小説『緑呪の魔法少女』の力が並外れた物であることには変わらない。


 いきなり見知らぬ力で不意を突かれる心配をしなくても良くなった分、本当に若干ではあるものの、余裕はできたのだが……それでも月成つきなり理瀬りぜは、相変わらず苦戦を強いられていた。


(まあ、あの程度で動揺してくれる相手ではないのは分かっていたけれど。というか、最初から相手に弱点を知られても構わない、といった調子だし)


『そうだとして、と言うのです?』――あくまで予想ではあったが――シュティーレンの弱点を、言葉で突きつけた際に返ってきた言葉。


 強がりにも聞こえる台詞だが、少なくとも彼女の場合は、ただ本心から出てきただけの言葉なのだろう。


 左手に握っていた鎖を放し、元々足場にしていたものと合わせて計二本。飛び上がった先で掴まってその場で留まったり、二連続で飛び上がって急上昇したりと、これまで以上にアクロバティックな動きを交えつつ、理瀬は何度も右手の鎖を振るう。


 しかし、相変わらず縦横無尽にホウキで飛び回り、視た先を消し飛ばす『量子葬砲クァンラーヴェン』による迎撃は、簡単には突破できない。


 何度か、鎖による攻撃が届きそうにはなるものの、それ以上には至らない。そんな一進一退の攻防が続いていたが、戦局を左右する転機は、あまりに突然訪れる。


「――行けるッ!」


 シュティーレンはここまで、近付いてくる理瀬や、振るわれた鎖に対して後退し、一定以上の距離感を保ち続けていた。


 だが、ついさっき放った攻撃をシュティーレンは、左にそれるように回避した。……つまり、距離がそこまで離れていない。


 この機を逃すまいと理瀬は、足場から正面に向けてまっすぐに飛び、一気に距離を縮めて――ついに。


 鎖を振れば、イレギュラーさえなければ、確実に当たるであろう距離にまで近づいた。


 しかし、シュティーレンは、驚きの表情を見せるどころか――さらに邪悪な笑みを浮かべて。


「まさか、こんなにも簡単に釣られてくれるとは……その勝機に満ちた表情、とっても記し甲斐がありますねー?」


 シュティーレンは、あえて理瀬を接近させた。近距離で、恐怖に歪む顔を目に焼き付け、物語の糧としたうえで――確実に殺すために。


 一度、攻撃しようとすれば、咄嗟の回避行動は難しくなる。先走り、避けられないところを、その『量子葬砲』で撃ち抜くために、わざと隙を見せたのだ。


「さあ、ここで果てて、自分の思い描いた物語――その一ページとなってください、月成理瀬?」


 言いながら――ギュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッ!!


 と、月成理瀬がいた場所が、緑色の砲撃によって上書きされていく。


 そこにいた人、髪の一本さえも残らず――その全てが跡形もなく消し飛んでしまうだろう。


 現に、その場所に、少女の姿はなかった。



 ***



 月成理瀬が、その場にいないのも当然だ。


 そもそも彼女は攻撃しようとしていないし、ここに攻撃が来るのを知っていたので、ひと足先に退避していたからだ。


 もちろん、彼女は予知能力が使える訳でもないので、シュティーレンの放つ『量子葬砲』を見据えた訳ではない。


「――ヴァーレリアッ!!」

「――はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――ッッ!!」


 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!


 シュティーレンの放った砲撃でさえ、凄まじい轟音だったにも関わらず。それすらも上書きする、もう一つの轟音が、別の方向から放たれる。


 本来、視認できるものではないはずではあるが、一点に限界まで凝縮され、全力を乗せて放たれたそれは――蜃気楼をより歪ませたような一撃へと昇華して。



 ――万物を貫く『風』が放たれる。

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