編者のアルフィーネ(3)
両手にそれぞれ鎖を握りしめた少女、
当然、緑色の砲撃が彼女を迎え撃つが――そのすべてをひらりと避ける。
ただ、本人が口癖のように言っている通り、他の魔女に比べて、この鎖は戦闘に応用の利きやすい魔道具ではない。
攻撃が来たら鎖をぐるぐる回して盾を出し、余裕があればムチにして相手を叩くか、縛り上げて身動きを封じるか。
だが、それは『鎖だけ』で戦っているからであって、その動きに理瀬自身が加わればどうなるか。
「……はあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
ある程度まで距離を詰めた理瀬は、ぴょんと小さく飛ぶと、握っていない残り三本の鎖、そのうちの一本を足下に潜らせる。
そのまま鎖に右足で着地すると、緩んでいた鎖が一気に張り上げられ――びゅうっ!! と風のように少女は一直線に突っ込んでいく。
そして、左手に握った鎖を、勢いよく上から振り下ろす。
「うおっと、危ないですね――」
ホウキに乗ったシュティーレンは、軽く横に動いて鎖を避ける。
確かに予想外の動きに、驚きはしたものの、結局はその程度か。そう考えた瞬間だった。
ガクンッ! と、ホウキが思いきり引っ張られ、シュティーレンはそのままバランスを崩して、地面に上半身から落ちてしまった。
「……な、なにが起こったのです……!?」
確かに、上から振り下ろされた鎖は避けた。
その鎖が、『ただの鎖』であれば、それで終わりだっただろう。
だが、その鎖は《
具体的には――鎖が通り過ぎた後に、ぐいっと上に戻して、ホウキを下から持ち上げるように叩いた。
物理法則だけなら、動きをよく見て避ければ良い。
理瀬の意思で、遠隔で動かしているだけなら、相手の思惑を読めば良い。
だが、その両方の力を、同時に作用させればどうなるか? 物理法則と、理瀬の意思が、たった一撃に、同時に働くとすれば?
「読めない攻撃の、出来上がり……ってね」
法則と意思が混ざり合い、メチャクチャな動きをする鎖が晴れて完成である。
続けて、その場で落ちて倒れるシュティーレンに向けて、理瀬は残り二本の鎖を飛ばし、それぞれ両前腕と両足首を強引に縛り上げる。
他の魔女が相手なら、真っ先に口を塞いでいただろうが、彼女は何とも厄介なことに、詠唱がなくともその『目』から攻撃を放つことができる。
物語の主人公の力、そのものを身体に宿しているからだ。
故に、ここで口を塞いでも意味はない。どっちみち、反撃される可能性を潰すことはできないのだから。それなら少しでも、彼女から自由に動ける時間を奪ったうえで。
「これが私の、
両手に握ったムチ、もとい鎖を、縛ったシュティーレンに向けて振り下ろす。
ゴスガスッ! と、鈍く重い二撃が叩き込まれる。
しかし、彼女の右目は当然、拷問の執行者である月成理瀬を鋭く睨みつけていた。
つまり――ギュゴゴゴゴゴオオオッ!! と、万全の状態から放たれるものとはやはり見劣りするものの、触れたものは例外なく消し飛ばす、緑色のレーザーが理瀬の横を掠っていった。
皮膚の表面が剥がれ、ぶわっと鮮血が舞い散る。ほんの一瞬ではあるものの、少女は怯み、後ろへ下がってしまう。
つい見せてしまったその隙を使って、次にシュティーレンは、自身の足を縛り上げる一本の鎖に視線を合わせた。ノータイムで緑色の線が、その鎖を容易く両断する。
「せっかくのチャンス、逃す訳にはっ!」
慌てて理瀬も、残していたあと一本の鎖を飛ばすが、足の自由を取り戻したシュティーレンはひょいと立ち上がり、軽い身のこなしでそれを避ける。
そして、前腕を縛っていた鎖も、やはり緑色のレーザーで――真っ二つに切り落とす。
「ま、まずい……! 完全に形勢が、逆転されて――ッ!?」
完全に身の自由を取り戻したシュティーレンは、その辺りに落ちていたホウキを拾って、再び空中へと飛び上がる。
逆に、理瀬はといえば――二本の鎖が断ち切られ、一度『発動体』に戻してくっつけないと使いにくい状態で。さらに、せっかくの相手への優位な状態を、すっかり手放してしまった。
振り出しに戻るどころか、マイナスの状態にまで再び追い詰められてしまったのだった。
「自分を、一瞬でも縛り上げるとは……。期待以上ではありましたが、それでも自分には及ばないようで。そこは残念でしたね、月成理瀬?」
そんな彼女に向けて、シュティーレンは言いながら、その右目から。
――ギュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッ!!
轟音を振りまきながら、あまりに無慈悲な一撃が放たれる。
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