編者のアルフィーネ(2)
『緑呪の魔法少女』という小説の主人公が持つ力を、そのまま宿した魔女、シュティーレン・ツァウバティカー。
空を飛べる、魔法のホウキから降りた彼女は、最終的には仲間も、守るべき世界をも滅ぼしてしまう強大な力――『量子葬砲』を、見せしめと言わんばかりに放つ。
緑色に輝かせた右目、その視線をなぞるように、着弾した屋上の床面は消え去り、ぽっかりと大穴が開いてしまう。
詠唱を短縮した、どころの話ではない。
「詠唱すら、ないと言うの……?」
『緑呪の魔法少女』の主人公が使うように、詠唱といったワンクッションを必要とせずに、これだけの破壊力を生み出すことができてしまう。
それだけではなく。他の魔女であれば、口を封じることで詠唱を止め、攻撃を封じることができるが……彼女の場合は、声を出す必要もないのだから、
これが、シュティーレンの執筆した
「この程度で驚かれてしまうと、逆に、バカにされているのかと疑いたくなっちゃいますねー? まあ、せいぜい逃げて、逃げ続けてください。あっけなく死なれては、物語としても面白くないですからー」
続けて、二発目、三発目。それぞれ別の方向を、触れたもの全て、例外なく消し飛ばしてしまう。
屋上は三つの穴が空き、その周囲には瓦礫が飛び散り、すっかり荒れ果ててしまっている。たった一瞬で、このような惨状を作り出してしまった事実が、『量子葬砲』の凄まじい威力を語っている。
しかし、こうして穴だらけにされてしまうと。
ホウキに腰掛け、自由に空を飛べるシュティーレンには関係ないが、屋上に足を付き、動き回ってその攻撃を避けている理瀬にとっては死活問題だ。一撃、撃たれるごとに、使える足場が減っていくというのだから。
(仕方ない。まだヴァーレリアが戻ってきてないけれど……どうにか察して、逃げてくれる……わよね)
そこまで考えると、理瀬はそのまま屋敷の屋上から――当然、命綱もなしで、思い切って地上へとダイブする。
当然、なにも考えなしに飛んだ訳ではない。理瀬が遠隔操作で操れる五本の鎖は、すでに彼女の近くにはない。
飛び込んだ先――地上付近で、ほとんど網目のないハンモックのような形をつくり、待ち構えていた。
「――ん、んんんんんんんんんんーーーッッ!?」
四階建てとはいえ、無駄に天井も高く、装飾の凝った屋敷であるせいか。
即死しかねない高さからのダイブは、アンネリリィによって廊下に張り巡らされた、シギルの猛攻を走り抜けたときと同等――もしくはそれ以上の恐怖を、その身に植え付けてくる。
ガシャガシャガシャンッ! と、鎖に受け止められると、想像していたよりもずっと強い痛みが走り抜ける。
鎖自体、金属なので当然といえば当然だが――まだ動けるだけマシ。そう考えておくとして。
「……どうすれば、あの《
この飛び降りは、どんどん足場が削られ、なくなっていくという、時間に応じて積み重なっていくマイナスを打ち消しただけに過ぎない。
マイナスがなくなったところで、決してプラスではない。
「飛び降りたところで、状況はさほど変わらないと思いますけどねー? それって結局、試合終了のタイムリミットを、ほんの少し先送りにしただけですしねぇ?」
上空から、腹を括る覚悟を決めて飛び込んだ理瀬とは対象的に、ホウキでゆっくりと、優雅に降りてきたシュティーレンは言いながら。
――ギュゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ――ッッ!!
地上ならば、加減するまでもないと判断したのか。
さっきとは比にならないまでに太く、音も重く、比例して威力までもがパワーアップした、緑色の砲撃が理瀬に向けて放たれる。
間一髪のところで避けるが、今の一撃を、まさに肌で感じたうえで、理瀬は――覚悟を決める。
「少しのリスクも受け入れないで、倒せる相手……ではないわよね。私も見習わなくちゃ、ヴァーレリアを」
ヴァーレリアは、リスクを避けるどころか、真正面から突っ込んでいくかのごとく、シギルによる罠だらけの廊下を走っていった。あれだけの覚悟を決めないと、アンネリリィは超えられないと踏んだからだ。
屋上で、直接アンネリリィとやり合ったときもそうだった。自らの隙を晒し、理瀬に全てを委ねる代わりに、押され気味だった戦況を、まさに吹き飛ばすことができる大魔術を放つという賭けに出た。
一方の理瀬はどうだったか。アンネリリィに逃げられてからというもの、安全策として、すぐに身を守るような立ち回りをして、結果的には押され負けて。
シュティーレンに対しても、逃げてばかりで攻撃に打って出ようとはしなかった。結果、足場がなくなり決死のダイブをする羽目になったのだ。
もちろん、リスクを回避するという選択肢が間違っているという訳ではない。だが、時には柔軟に、そういった択を選ぶのも大事、というだけだ。
「ええ、今度は――こちらが打って出る番」
空にたたずむ、実の子でさえも、容赦なく殺してしまう――悪魔のような魔女、シュティーレン・ツァウバティカーを見据えた彼女の両手には、それぞれ一本ずつ、二刀流かのごとく、鎖が握られていた。
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