幕間 イレギュラーな現実へと降り立つ

 魔女であり、小説家でもある女性。シュティーレン・ツァウバティカーの著書に、『緑呪の魔法少女』という物語がある。


 彼女にしては珍しく、どちらかといえばライトノベル寄りの作品ではあるが――魔女として異能の力を目の当たりにし、自身でも振るってきた彼女だからこそ書ける、本格的な異能バトルモノの作品だった。


 シュティーレンの作風よろしく、全八巻まで続いた挙げ句にバッドエンドで、普段とは読者層が違ったのもあってか、少々荒れてしまった……曰く付きの作品ではあるのだが。


 しかし、書いた本人は、そんなことを気にしてすらいない。


 そもそもの話、彼女は世間の評価などどうでもよく、自らの満足する物語さえ書ければそれでいい。


 それに、彼女が小説を執筆するもう一つの目的は、しっかりと果たすことができたので問題ない。



 ***



 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――ッッ!!


 SFモノの宇宙船なんかが放っていてもおかしくないまでの……圧倒的な緑色の砲撃が、視線の先で少女が放った大岩を、粉々に撃ち砕く。


 砲撃が止んだそこには、何も残ってさえいない。あれだけの大岩が、かけらも残さずに、すっかり消えてしまったのだった。


 砲撃の放たれた先には、自由自在に空を飛べる道具――『魔法のホウキ』に腰掛けて、屋敷の屋上を見据える、女性の姿があった。


 黒いゴシック調の衣服を纏う、紫髪のポニーテールを長く下ろし、風になびかせた――小さな、しかし不思議と威厳が感じられる女性。


「我ながら、便利な力ですよねー。この魔眼も、ホウキも。さて、本来、物語に自分が介入するのは野暮ってものですけど……ここで手を出さなれけば、物語として瓦解しかねませんでしたし、仕方がありませんねー?」


 途中までは、確かに、シュティーレンの思惑通りに物語は進んでいた。


「……まさか、形勢逆転して、アンネリリィが優位に立ってしまうとはー。流石に予想外でしたよ」


 しかし、物語と違って、現実はイレギュラーが起こり得る。イレギュラーがあるからこそ、物語として面白くなる事だってある。が、それが原因で、理想とはかけ離れた結末を辿るなら。


「そうですねー、自分が――矯正しなければ、ですね?」


 

 ―― Zaubertekar`s Memo  ――


 アンネリリィ・ツァウバティカー

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 月成理瀬

 月成魅瀬 ✕



 シュティーレン・ツァウバティカー

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