審判人のリゾルート(8)
アンネリリィを一方的に縛り付け、圧倒的な優位に立っていた
縛るものがなくなった今、二人は再び、対等な立ち位置へと戻ってしまう。
……いや、そもそもアンネリリィは――理瀬の拷問を受けて苦悶の表情を浮かべていた間も、心の奥底では『いつでも形勢はひっくり返せる』とほくそ笑んでいたのかもしれない。
まんまと、彼女に再び自由を与えてしまった理瀬は、せっかくヴァーレリアと共に作ったチャンスを崩した罪悪感に苛まれながらも、打ちひしがれている暇はない。
「アンネリリィ……ッ! それならもう一度、縛るだけのことッ!」
二つに切られた鎖を手繰り寄せ、一度発動体へと戻したあと、再び。一本に繋がった鎖を起動して、理瀬の最大コントロール数である五本の鎖、その準備を整える。
「ヴァーレリアの援護もなしで、このあたしを縛れると? ――F・S・I」
火球が飛ばされ、理瀬の目の前まで迫ってきたところで弾け、分裂する。
結局、やっているのは基礎であり、速い以外にはこれといった特徴のない攻撃魔術。
しかし、そもそもが『拷問』に重きをおいた魔女を追い詰めるには、あまりに十分だった。
後ろに下がって、なんとか直撃を免れるものの、その隙を突いてアンネリリィは追撃する。
「F・S・T――よくもまあ、『世界なんて変えられない』だのなんだの、言ってくれたけどさあ?」
後ろに下がりつつ、鎖の制御を取り戻した理瀬は、グルグルと鎖を回して、五つの自由に動かせる盾を展開する。
飛んでくる崩れた岩の雨をなんとか耐え凌ぐが、それは――盾を展開するということは――防戦一方の展開を受け入れるようなものだ。
そうなってしまえば、あとはアンネリリィの高速詠唱から織り成す追撃によって、少しずつ削られ続けるだけでしかない。
「F・S・I・F・C・S・A――あんたの考えなんて、所詮は綺麗事でしかないんだ。『誰かにとっての悪人は、誰かにとっての善人かもしれない』だって? そんなもの、知ったことじゃないッ!」
弾け散った火球と、砕け散った氷塊が、それぞれ理瀬へと襲いかかる。
五つの盾を展開しながら後ろへ下がり、なんとかやり過ごすが、アンネリリィの猛攻は止まらない。
「F・S・T・F・C・S・A――あたしの感覚で、善悪を区別して整理する……これのどこが悪いんだッ!? 上から分かった風に説教垂れやがってええッッ!!」
初撃から相手のペースに乗せられたのが原因か――次々と放たれる攻撃に、理瀬は押され続け、ついに。
あと一歩後ろに下がれば地上へ真っ逆さまの、屋上の角という窮地まで追い詰められてしまう。
「……こ、このままじゃ……っ」
さっきまでのアンネリリィの攻撃は、まだ、狙いが二人に分散していてかつ、主な狙いはヴァーレリアに向いていたため、ここまで押されることもなかったが……今は違う。
全ての攻撃が、理瀬だけを追い詰めるべく、次々と襲いかかってくる。
律儀に盾で防げる位置に飛んでくるはずもなく、その分、機転を利かせて対応しなければならない。
……となれば、マトモに正面から向かい合って、防ぎ続けられるはずもなく。
「終わりだよ、《
理瀬に向けた、トドメの一撃。大きな岩が、勢いよく放たれようとした――そのときだった。
――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――ッッ!!
アンネリリィの魔術ではない。もちろん、理瀬のものでもない――とある
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます