審判人のリゾルート(5)
「……そろそろ、大人しくなった頃合いかしら?」
「――F・て……ぶごふっ!?」
「話し合いで解決するような相手ではないわよ、理瀬? まあ、屋敷をあれだけ魔改造して、本気で私たちを殺しにきたくらいだもの、当然だろうけど」
「まあ、アンネリリィを縛ったままでも、私たちの目的、それ自体は達成できるものね。本当の意味で、派閥が三つ残っていると言えるかどうかはさておいて」
《
「問題なのは、あと一人厄介な相手が残っていることよね。アンネリリィと、グルの可能性が高いと見ているけれど」
「……んーっ! んぐんんーっ!!」
「理瀬、どうやらこの人、話したがっているみたいだけど?」
鎖を咥えながら、んがんがともがいて何かのアピールをするアンネリリィ。
再び鎖を緩めると、今度は詠唱ではなく、しっかりとした言葉を口にし始める。
「ママ……シュティーレン・ツァウバティカーは、あたしが幽閉した。もう、こっちの世界には戻ってこれない」
「……アンネリリィ、どういうこと?」
「ママは、『鏡映しの逆転世界』っていう魔導書の力を使って、安全な場所からこの争いを物語として記し上げていた。だから、閉じ込めてやったんだ。入り口になる鏡を、別の鏡で反射させることでね。F・あ――ごぼふっ!?」
どさくさに紛れて詠唱を始めたアンネリリィの口を、再び、鎖で強く縛りつける。
「それはつまり……《
「多分そうだろうけれど。――どうなの? アンネリリィ」
「えふ――ごぼっ、んぐあああああああああッ!?」
直接本人から聞かない限り、話が進まないので再び話せるように緩めるが――話す気はないからか抵抗しようとしたので、口を塞いだうえで残り二本の鎖をムチ代わりに、アンネリリィの身体に強烈な打撃を与える。
「大人しくッ! 吐いてくれればッ! 私もッ、こんなにッ! 心苦しいことをッ! しなくてもッ! 済むのだけれどッ!?」
「……あのとき、理瀬に抵抗しなくて本当に良かった……」
言葉の切れ目ごとに一発ずつ。金属であるが故に、さらに重みの増した打撃が、アンネリリィに苦痛を与えていく。
思わず、ヴァーレリアがそんな弱音を漏らしてしまうくらいには。得意と言っていただけあって、相手を苦しめるのが本当に上手い。
《
「んがっん、んぐがぐっ、んぐががあぁーーっ!」
理瀬
「ぶはあっ、はあ……。生きているんだろうけど、それも時間の問題だろうね。鏡世界といっても、所詮は部屋一つだけの密室。ママのトンデモ魔術で生き長らえたところで、あの世界からは絶対に出られない。本当、皮肉なもんだよね。自分の魔術で破滅するなんてさ?」
「ふうん。……というか、あなた――てっきり《撰述の魔女》とグルかと思ってたんだけど」
「そんな訳ないでしょ? そもそも、目的からして違う。ママは、最高の物語が執筆したいようだけど、あたしは単純明快、《焦煙の魔女》の魔力が欲しいだけ」
アンネリリィが嘘をついていない……と信じてしまえば、二人には新たな疑問が浮かび上がる。
「……なら、どうして母親の言いなりになって――私とヴァーレリアを、
「確かに、あたしはママの言う通りに動いたけど――そんなの、聞くまでもあるわけ? 利害が一致していたから利用させてもらったに決まってるでしょ。月成家とクラウノウト家を対立させて、共倒れしてくれれば、あたしが後々楽になる。それに、ママを
母親を捨ててまで、どうして莫大な魔力を欲しているのかまでは分からないが――それがアンネリリィの目的だとすれば、彼女の説明は十分に納得できるものだった。
となれば、《撰述の魔女》シュティーレン・ツァウバティカーが、まだ生きているが鏡の世界とやらに閉じ込められている――というのも、信じてしまって問題ないだろう。
「……それで、今、アンネリリィのお母さんはどこに閉じ込めているの?」
「はぁ? そんなの、言うわけないじゃ――んぐうっ!? んがい、んぐががあッ!?」
再び、二本の鎖がそれぞれ、アンネリリィの身体に砕くような激痛を与える。
拷問としてはシンプルではあるが、故に効果的で。鎖のムチを受け続けた挙げ句、たった一発でも恐怖へ怯えるようになってしまったアンネリリィは、すぐに観念したように。
「ばっ、はあ……。屋敷の地下室、物置部屋の鏡だよ……ぶごふッ!?」
せっかく話したのに、何故――と、どこか不服そうにしている少女をよそに、二人は。
「それなら、私が見てこようか? 理瀬は《
「そうだけれど……まさか、一人でシュティーレンとやり合うつもり?」
「それはないわよ。いくら、さっきまで命を投げ打とうとしていた身だとしても……今は違う。さっきの証言が正しいのか、ちょっと確かめにいくだけ」
「分かった。私としても、アンネリリィの言ったことを、そのまま鵜呑みにするのは危険だと思うし。頼んだわ、ヴァーレリア」
そう言葉を交わすと、ヴァーレリアは、屋上から屋内へ。ここまで来た道を引き返すのだった。
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