審判人のリゾルート(4)
「F・C・S・A・F・T・F・S・I・F・S・T・F・V・F・C・S・A――」
アンネリリィの高速詠唱、そのスピードはとどまることを知らない。それどころか、時間が経てば経つほど詠唱も早くなっているようにさえ感じられた。
「
「クドいようだけれど、私は拷問に特化した魔女だから。鎖を近づけられるくらいの隙さえあれば、口を縛り付けて止められるだろうけど――この様子じゃ、厳しいと思う」
「……逆に、口を縛る隙さえあればなんとかなるのね?」
「まあ、それなら。ヴァーレリアも身をもって知っているでしょ? 縛ってしまいさえすれば、相手が誰であっても――完全に無力化できる」
「分かった。それじゃ、私は
「どのくらい護ればいい? その切り札が使えれば、私がアンネリリィを縛れるくらいの隙は作れる?」
「六〇秒くらいかしら。ただ、時間に見合った効果は保証できるわ」
「……了解。任せたわ、ヴァーレリア!」
「任されましたっ。――
言うと、ヴァーレリアは切り札らしい、彼女の戦闘スタイルとは全くの正反対である、超長文の詠唱を始める。
「あまり出したくはなかったけれど……一人でヴァーレリアを護りきるには、出し惜しみはしてられないわね。――行きなさいっ!」
アンネリリィの放つ無数の魔術攻撃を迎撃するのに、さっきまでは手数の多い風の刃を放つヴァーレリアと一緒だったため、二本の鎖でなんとかなっていたが……そのヴァーレリアが長い詠唱を始めてしまった今、彼女が迎撃していた分も同時に、理瀬が何とかして止めなくてはならない。
特に、詠唱中の彼女に攻撃が当たってしまえば――積み重ねた詠唱自体が無駄に終わってしまうので、身を挺してでも守らなくてはならない。
そうなれば、鎖をもて余すなどといった余裕は、理瀬にも残されていない。故に、服のポケットから、最後の三つとなる『発動体』を取り出して、銀色の鎖を展開する。
《
だが、いくらこちらの手が増えようと。相手はさらに多くの魔術攻撃を放ってくる。
「F・S・T・F・C・S・A・F・S・T・F・C・S・A――」
砕けた岩と氷が、ありとあらゆる方向から降り注ぐ。
「――
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――ッッ!!」
今も長い詠唱を続けるヴァーレリアには、小石一つたりとも触れさせない。
理瀬は、五つの鎖をグルグルと回して円状の盾にする。四つはヴァーレリアの周りで、東西南北どの方向からの攻撃も防ぎ切る鉄壁の布陣を。あと一つの盾は、理瀬自身、動き回って避けてはいるが――それだけでは追いつかない攻撃から、致命傷となりうる部位を守るために最低限の防御をすべく使う。
ヴァーレリアに守りを集中させても、その盾を操る本人が意識を失えばそれまでなのだ。
「――っ、危ない所だった……」
詠唱開始からおおよそ三〇秒。ヴァーレリアへの守りに集中しすぎたせいか、砕けた岩が自分の脳天スレスレを通り過ぎていく。あと一センチでも背が高ければ、直撃していただろう。
「――
詠唱開始からおおよそ四〇秒。ヴァーレリアを守るのにはまだ余裕があるものの、理瀬はといえば、急所に向けた攻撃だけは盾一つで防いでいるが、それ以外は全て受けきっている。
当たり前ではあるが、小さく砕かれたにせよ土や氷の塊、火球が直撃すれば痛い。何度も受けているうちに、理瀬の表情にもすっかり余裕など、なくなっていた。
「F・T・F・C・A・F・S・T・F・C・S・A、F・T・F・C・A・F・S・T・F・C・S・A――ッ!!」
「
ヴァーレリアの詠唱が始まってから五〇秒。二人の詠唱が響く。心なしか、アンネリリィの詠唱に焦りが見え隠れしているようにも聞こえる。
より一層激しくなる攻撃にも、理瀬は何とか耐え続け――刻は来たる。
「理瀬、伏せてッ! ――|アクティビアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァレン《全てを吹き飛ばせ、私の魔法よ》――ッッ!!」
六〇秒。まるで、世界から一瞬だけ音が消失したかのような静寂の直後。
――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――ッッッ!!
あまりに圧倒的な暴風が、アンネリリィの放つ魔術攻撃、その全てを跳ね返した。それに留まらず、立っているのですらやっとの風の中で。
ヴァーレリアに言われた通り、理瀬は巻き込まれないように伏せつつも――動かしていた。
「……終わりね、アンネリリィ」
三つの鎖が、整えていたお団子ヘアの銀髪が、暴風によって崩れ、荒ぶりなびかせる魔女――アンネリリィ・ツァウバティカーの両手、手足、口元を堅く縛り付けた。
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