第三章 審判人のリゾルート
審判人のリゾルート(1)
全速力とまではいかずとも、小走りで、屋敷まで向かう二人の少女。
ヴァーレリア・クラウノウトと月成理瀬、今では各派閥の当主としての立場にある二人が、手を取り合っていた。
二〇〇年続くクラウノウト一族の歴史の中で、初めての快挙――とさえ言えるだろう。それほどまでに、今までは派閥間での壁が分厚すぎた。
彼女ら、子供の世代でさえ。その親世代の影響もあってか、子供同士の繋がりはともかく、魔女として一つの目的に向かって手を取り合うなど、あり得ないことだったのだ。
「……《整理の魔女》はおそらく敵。私たちに、『魅瀬が母上を殺した』と吹き込んだのは、あの人だから」
屋敷に残っていたヴァーレリアとエンデメルン。二人が、母であるゼラフィールの死を知ったのは、《整理の魔女》アンネリリィ・ツァウバティカーの言葉からだった。
「なるほど。微妙に話が食い違ってると思ってたのよね。だって、あなたのお母さんを殺したのは……魅瀬ちゃんと私、
しかし、ヴァーレリアは、理瀬が自白するまではずっと『月成魅瀬が殺した』と思っていた。彼女と対面してからの第一声からそう言っていた。
……アンネリリィからそう聞かされていたから、それは当然のことだった。
「本当に見ていたのなら、わざわざそんな嘘をつく必要もないし……大方、クラウノウト家と月成家を対立させようとしたんでしょ」
「となると、アンネリリィを仲間に引き入れるのは厳しいわね。私が縛り上げて、無力化するしかないかしら」
「それさえできるか、未知数ではあるけれど。まるで、この時が来るのを待っていたかのように――《整理の魔女》は、周りに手の内を明かしてない」
断片的な情報ならある。魔導書を整理して扱いやすくするだとか、ヴァーレリアの詠唱よろしく、詠唱そのものを整理して短くするだとか。
ただ、それがどれほどまでの力で、どれだけ脅威になりえるかが分からない。誰も、彼女が戦っている所を見たことがないからだ。
「私が通したわがままだから。……何としてでもアンネリリィは止める。これ以上誰も死なずに、全てを終わらせることで――《焦煙の魔女》に対抗する」
「そっか。私も最後まで付いていくよ、理瀬」
「ごめん、ヴァーレリア。あなたの思いを踏みにじるようなことになって……。でも、どうしても私は……」
「分かってる、もう気にしなくていいわ。だって……私は一人じゃないんだって、気が付かせてくれたもの」
母も、妹も失った世界で。生きる希望なんて残されていないと思っていたヴァーレリアだが、そう切り捨てるには――あまりに早計だったらしい。
「……ヴァーレリアっ!」
「理瀬。……全てが終わったら――美味しいもの、期待してるからね。私をこの世界に残した責任、ちゃんと取ってよね」
「……ええ」
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