幕間 世界を整理せし魔女

 かつて、一一歳にして、この世界に失望した少女がいた。

 


 小説家である母親のような語彙ごいを持ち合わせていないため、少々安直な表現ではあるが――『学級崩壊』とでもいうべきだろうか。


 彼女が通っていた学校では、弱者に対するイジメが蔓延はびこっていたし、授業は誰も聞いていないどころか、周りを巻き込んで遊び始める生徒だらけで、ほとんど授業の体をなしていない。


 その様子を、教室の端で傍観していた彼女は、こう評価した。


(くだらない――でも、まあ、子供だから仕方がないのだろう)


 自分も子供ではあるのだが、弱い者をなぶり、愉悦に浸るほど子供ではない。周りよりも少し大人だから、この感性にはついて行けないんだと。


 率直に言って、つまらない……そんな学校生活を、ただ淡々と過ごしていたある日のこと。


 ――


 父は、勤めていた会社の中でも特に優秀だった。実力主義だったその場所で、まだ若いながらも頭角を表した彼は、故に妬まれ――同年代からは、イジメに近しい扱いを受けていた。


(でも、パパは……社会人は、大人……のはずなのに。どうして?)


 そこで少女、アンネリリィは気が付いた。子供が、ではない。人間そのものが、あまりにくだらない生き物だったのだ――と。

 

 

 ***

 


「んー、ここでもどっちかが脱落してくれるかと思ったんだけどなあ。まあ、さっき上振れた分、ここで戻っただけではあるんだけどさ?」


 アンネリリィは、屋敷の屋上、落下防止用の柵に手をかけ、呟いた。


 月成つきなり理瀬りぜと、ヴァーレリア・クラウノウト。二家の姉同士の戦いだったが、結果は月成理瀬の勝利。しかし、殺すどころか手を取り合ってしまった。


 ただ、さっきは《砲撃の魔女ベスティルング》と《崩悔の魔女ツーザンロイエン》が相討ちで終わってくれたため、人数的には二家の姉妹同士を敵対させるべく種火を蒔いた当初の予想通り。


 なんなら、いざ戦うとなれば両家ともに、妹のほうが厄介と見ていたので、まだ少しだけ上振れているとも言える。


 ともあれ。各家の母親世代の魔女は全滅し、残るはアンネリリィを含めて三人。奇しくも同世代の魔女だけが残されていた。


「まあ、妹ちゃんたちが二人がかりならともかく、姉二人なら警戒するまでもないか。最後に魔力を手に入れて――あたしはこの醜い世界を、整理する。そのためにこの五年間、常人には忌み嫌われる――魔女としての力を磨いてきたんだ」


 悪人を排除して、善人だけを残す。それできっと、この醜い世界は浄化されるはず。


 ……ああ。この世界には、『整理』されるべき人間が多すぎた。


 ―― Zaubertekar`s Memo  ――


 アンネリリィ・ツァウバティカー

 ゼラフィール・クラウノウト ✕

 ヴァーレリア・クラウノウト

 エンデメルン・クラウノウト ✕

 月成来瀬 ✕

 月成理瀬

 月成魅瀬 ✕

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