月風のディソナンス(2)
『
ゼラフィールから聞いた、母親の最期の言葉を、
それを聞いた少女は、どういった反応をすれば良いかも分からず、言葉が出て来ないながらも……『こうしちゃいられない』、そう思えたのだろう。
「ミゼは、これからどうすればいいかわからない。お母さんがいないなんて、考えられない。でも、何よりミゼは……お母さんを悲しませたくないよ」
完全にではないにせよ。このままではお母さんを安心させられないという思いからか、魅瀬の『本気』は一段と落ち着きつつある。
このままの調子であれば、これ以上誰かを犠牲にせずとも、魅瀬のストレスを解消できそうだ。
「そうね。私も、天国でお母さんが安心できるように、しっかりしないと」
「……うん」
こうして姉妹二人、言葉を交わしながら。屋敷への道中、うっそうと草木が生い茂る林道を歩いていた最中だった。
「
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
地を揺らすような
それこそ、バランスボールなどとは比べ物にならないまでの、巨大な球体が。
「んッ、……リゼ姉!!」
魅瀬は、自慢の瞬発力によって、ギリギリのところで魔力弾を避ける。
だが、
吹き飛ばされ、何度も地面を転がった挙げ句に。立つ木の一本へと、思いっきり叩きつけられる。
流石に骨のいくつかは折れただろうな……と、力も入らずに倒れる本人は、遅れてそう、呑気な感想を抱く。
姿を見なくとも分かる。こんなに特徴的な砲弾を放つ魔女なんて、ただ一人。
「あらあらあらぁ。思わず、狙いを誤ってしまいましたわ。ワタクシもまだまだですわねぇ? くっふふふふふっ!」
「《
白と橙で彩られたドレスを纏う、魅瀬よりも一つ年上ではあるが、魅瀬と比べて少し背恰好の小さな少女。
「《
一瞬、ずきりと。魅瀬の胸に、槍を突き刺すような痛みが走る。だが、それなら。こちらにも言い分はあると言わんばかりに、少女は奮い立ち。
「それなら、おまえの母親は……ミゼのお母さんを殺した!」
「そんなの、ワタクシは知りませんの。存在するのは、ただアナタがお母さまを殺したという事実だけですから」
「話にならないね。その言い分が通るなら、こっちだって同じだもん。……それよりさ」
理瀬に危害を加えられて、『本気』が再燃した魅瀬は、再び回転の早くなった頭で、一つの疑問を導き出す。
「おまえの母親を殺したって――
あの場に《砲撃の魔女》がいなかったのは確実だ。もし、あの状況を見ていたのなら、彼女の性格上、必ず助けに出てくるはず。
しかし、ゼラフィールを殺してから――正確には魅瀬が追い詰めて、理瀬がトドメを刺したのだが――エンデメルンがこちらを見つけるまで、あまりにも早すぎた。誰かからの情報がなければ、よっぽどの偶然だろう。それこそ、天文学的な確率の。
「……答える義理はありませんわね」
エンデメルンは少し黙った後に、ツンとした態度でそう返す。
まあ、普通に考えれば、クラウノウトでも月成家でもない。ツァウバティカー家の当主と娘、そのどちらかであろうことは言うまでもないのだが。
なので、返答は、エンデメルンのその態度だけでも十分だった。
「まあいいよ、おかげで決心がついたから。……この島にいる、リゼ姉以外を全員――殺してしまえば、全部解決だってさ」
「笑わせてくれますわ? アナタ、このワタクシに勝負を挑んでは負け越しているのをお忘れですの?」
「レギュレーションに縛られた戦いなんかで、実力を測ろうってのがもうナンセンスだよね。見せてあげるよ、ミゼの『本気』をさ」
さっきの海岸での模擬戦。あの時のように、審判はいない――勝敗を告げるのは生と死だけの、本当の殺し合いが――冷酷にも、はじまりの合図を告げる。
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