崩悔のプレリュード(10)
『
「――っぐ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
《
「ふっ、はは、あははははははははははははははははははははははははははははははッ! 世界の絶対的なルールを変えられるほどじゃないにせよ。簡単な法則程度なら、今のアタシには手を取るように生み出せる。そう、例えば――『自分に向けられた魔術は、例外なく使用者に跳ね返る』――とかなッ!」
そう。魅瀬の詠唱は、ゼラフィールの左手を崩すよう狙いを定めていた。それがそのまま、詠唱した少女の元へと返ってきたのだ。
あれがもし、相手を仕留めるべく、急所を狙った一撃であれば……結果は言うまでもなく、自分自身が死んでいた。
こうなった以上、ゼラフィール本人は狙えない。魅瀬の持っていた優位性が、一気に失われてしまう形となってしまった。
「んで? 壊すことしか能のないお前が、法則を新たに、いくらでも生み出せるこのアタシに――どうやって足掻くつもりなのかねぇ? ククッ、ハハハハハハハハハハハ!!」
「くっ……、――
魅瀬は、ゼラフィールの立つ地面を崩す。が、
「――
地面を蹴った威力を増幅させる、強引な方法ではなく。本来は翼だったり、空気抵抗だったり、空を飛ぶために必要な条件を新たに追加して――ゼラフィールだけが生身で翔べるような法則を追加した。
事実、翼も、なにも持たない魔女が、他の誰にも見えない翼でも手に入れたかのように、自由に
「――
続けて。辺りを吹き抜ける風が、特定の相手だけを裂き、傷付けるように定義した。
グサグサグサッ! と、見えない刃と化した風が、月成魅瀬に次々と突き刺さり、全身から赤い鮮血をまき散らす。
「――
さらに詠唱し、天から降り注ぐ太陽光が、特定の相手だけを焼き焦がすよう定義した。
まるでオーブントースターの中へと閉じ込められたかのような、ジリジリと焼ける感覚が月成魅瀬へと襲いかかる。
あまりに過酷な状況で、しかし魅瀬は――余裕の表情を崩さない。
「それならミゼは、その法則を崩すだけ。――
少女の詠唱が響き渡った直後、法則の翼を崩されたゼラフィールが、上空から落下をはじめる。万物を崩す、月成魅瀬の魔術は、新たに定義された法則も例外ではない。
「ハッ、んならもう一度、定義すりゃいいだけだろうが。――
ゼラフィールが詠唱を紡ぐ、その口が塞がれた。冷たく、無機質なそれに、彼女は既視感があった。
(……《
いくら傷の手当さえできない状況で、従わざるを得なかったにせよ――『生き死にに興味はない』『質問に答えてくれさえすれば、ここは見逃してあげてもいい』――そんな魔女の言葉を、簡単に信じた自分の失態だ。
ほんの少しでも、彼女の言葉に裏がある可能性を考えていれば。
さらに言えば、『ゼラフィールの命には興味がないものの、妹である月成魅瀬が関わってくるとなれば話は別』――というところまで読めていれば。
全く同じ方法で、こんなにもあっけなく詠唱を防がれることはなかったのだろう。
だが、最後に一矢報いることくらいはできる。そう、彼女は詠唱ができなくとも、別の武器を携帯している。
(拳銃を……チッ、間に合わねえか――!)
だが、右手で即座に取り出して構えられるように、ドレスの内側へと隠していた拳銃だったが……その右手は月成魅瀬に崩された。
それなら左手で取り出そうとするものの、慣れない動きに手間取ってしまう。当然、間に合わずに――バアンッ! と、生々しい音と共に、ゼラフィールが地面へと叩きつけられる。
いくら法則を捻じ曲げて、新たに定義までできてしまう魔女だとしても。大前提として人間である以上、為すすべもなく高所から地面に落ちれば、いったいどうなるかなど――その末路を言葉にするまでもない。
端的に表すのなら。《
***
「……り、リゼねえ……?」
少女が、呆然とした表情で見つめる先には、その姉である月成
「ごめんね、魅瀬ちゃん……私も、こんな形で終わらせるつもりはなかったの。横取りなんて、そんな……」
マズイことになったと、理瀬は後悔する。
あのとき、理瀬が手を出していなければ、逆に魅瀬がやられていただろう。だが、トドメを彼女自身で刺してしまったのがダメだった。
「そんなこと気にしないで、リゼ姉。助けてくれてありがとう。
だって、これでは――。
「
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