焦炎の魔女は死んだ(2)
「つまり、ここでケンカをおっぱじめて、派閥同士のくだらねえ争いにピリオドを打ってくれってワケか。くッ、ハハハハハハハ! 《
「……品がありませんね。仮にもこの円卓を囲む御三家のトップなのですから、少しは冷静さを身に着けてはいかがでしょう?」
「ふんッ、分家の、しかも極東の異端者がぬけぬけと吠える。遺言書の内容は《焦煙の魔女》が決めた絶対。それに即刻従わない方が、このクラウノウト家の恥じゃないかねぇ?」
「――見苦しいですねー、長が亡くなった時にまで、派閥争いとは――」
ゼラフィールと
三つに分裂した派閥の中でも、比較的中立の立場を保っている《
彼女は基本無口であるが、時々口を開けば、研いだ刃物のごとく鋭い言葉で正論を振りかざしてくる。どんなにヒートアップした状況であっても、たった一言で場を凍てつかせる――それが《
他二つの派閥――《
「……ハア、興が醒めた。乗り気じゃねえが、とりあえず話し合うとでもするか」
一度、しいんと静まり返った部屋で。《
「まず、この遺言書に書かれた内容を再確認しておきましょう。……書かれている内容が、あまりにも抽象的過ぎますし」
もっとハッキリとあれこれを書いてくれれば――とも思ったが、一族の長であった魔女が、
『資産とは、土地やそれに準ずる建物、物品はもちろんだが、同時にこの島には――私の全魔力を込めた『魔石』を隠している』
まずは遺言書の最終節。ここで注目すべきは、やはり。
「『魔石』には《焦煙の魔女》様が二百年かけて蓄えた、全魔力が眠っている。――つまり、魔石を手にするイコール、その力を継承すると同義。ここまでは全員の共通認識でよろしいですね?」
「ああ」
ゼラフィールが何を今更と退屈そうな返事を、シュティーレンは口を開かずに、ただこくりと一回、縦に頷いた。
ここはまだ、書いてある通りの意味で受け取れば良いので分かりやすい。
『私の所有する資産の全てを、最後まで残った派閥の代表者へと相続する』
遺言書の中節。一番大事なこの一節が、実に曖昧だった。
「『最後まで残る』――の定義が分からんな。アタシたち、トップの三人が殺し合って、勝ち残った家が《焦煙の魔女》の力を継げるのか? それとも――」
「――遺言書の初節」
爽やかな声でそれだけ言うと、シュティーレンはその部分を指差して。
『私は最後まで心残りだった事がある。それは、ここまで築き上げてきた一族が、三つの派閥へと分裂してしまった事だ』
「この文章と繋がっていることを考えれば、自ずと答えは一つに絞られるんじゃないですかねー?」
「……そうでしょうね。あの御方に、私ら三人という小さなスケールでは満足して頂けるとも思えませんし」
「家、派閥――そのものが最後の一つになるまで殺し合え――ってか。クっ、ハハハハハハハハハ! 《焦煙の魔女》、最後の最後まで本当にムチャクチャだな?」
「……それは同感ですね」
普段から対立している二人の意見が、奇しくも合った瞬間だった。それほどまでに、
死後の世界がどこにあるのかは分からない。意外とまだ近くにいるのかもしれない。……が、二百年以上生きた伝説の魔女――《焦煙の魔女》セルヴェラーメ・クラウノウトは、きっとどこかで三人が織りなす戯曲を子供っぽく、しかし妖艶な笑みを浮かべながら見ているに違いない。
それならば。一族の血筋を引く者として、応えるしかない。
「ま、せっかくアタシら三人が相まみえたんだし。家同士の戦いにしても、まずは上に立つ者が見本を示すべきだろうしな。――
「私は戦いこそ好みませんが、決して不得手ではありませんので――これが《焦煙の魔女》様のお望みであるならば、
ガタガタンッ! 静寂に荒い物音が二つ。ゼラフィールと月成来瀬、二人の魔女が、同時に椅子から立ち上がった音だった。
ゼラフィールは『いつでもかかって来い』と言わんばかりに、右手を広げて構えている。
対する月成来瀬は、懐から取り出した金色の石――『発動体』を取り出すと、ほぼ同時にそこから金色の槍を展開して、鋭利な先を相手に向ける。
一瞬にして、殺伐とした空気へと変わった――にも関わらず、火花さえ散って見える二人の睨み合いを前に、シュティーレンはあいも変わらずに爽やかな声で一言。
「
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