第2話 バロン
秋葉原で聞いた話である。
コンカフェには様々な客が来る。
男女を比べるとやはり男性が多く、年代は、男性ならば学生から会社員、自営業、年金生活者、女性ならば学生、OLと非常に幅広い。珍しいと親子同伴で訪れたりする。また、同業他社の人が来ることもある。
彼ら彼女らがする話は、仕事か趣味の話がほとんどである。仕事ならば愚痴が多く、キャバクラやクラブで男性からよく聞かされる、独りよがりな自慢話は少ない。コンカフェでは、他の客とも距離が近く、場を盛り下げてはいけないと客同士が思っているからだろう。
趣味の話ならば、スマホゲーとか映画とか音楽とかアプリとかが多い。「キョンシーが登場する映画に異様に詳しい、ただし幽幻道士は認めない人」とか「コミカルなキャラクターが登場しつつもバッドエンドがある野球ゲームをこよなく愛する人」など非常に内容が特化した客も多い。なので、知らない話が聞けるのは、嘘でも本当でもとても楽しい。
さて、この話は20代後半ぐらいの、目鼻立ちはくっきりとした優雅な顔立ちの男性がしてくれた話である。店の場所は、メイド通りから少し離れた、雑居ビルの2階にあるコンカフェである。
彼は、人当たりは良く、ニコニコ笑いながら自分にまつわる話をしていた。ただ、内容がかなり荒唐無稽の印象を受けた。面白かったので、キャストも他の客も暖かく見守っていた。「生暖かく」かは、人それぞれでしたが。
以下は、彼がしてくれた話の要約である。
液からここに来るまでに、目があった・あわないで因縁をつけられ、ガラの悪いやつ10人ぐらいに取り囲まれた。格闘技は得意だが、人数が多かったため常備している警棒を使い、4人倒して相手が怯んだすきに逃亡した。相手が10人いても、本気で来る奴は3人ぐらいだし、慣れていないと同時に殴ってくるなんてできないから。格闘技としては、柔術とかいくつか学んだが、自分に合っているのはムエタイ。ちなみに因縁をつけたやつは、犯罪組織の人間かも。
犯罪組織の調査のため、別の国に行くため軍の飛行機に乗ったことがある。旅客機とは違い、輸送機だったので座席は向かい合わせで、窓が全然なかった。さすがにパラシュートで降下することはなかったけど、国境近くの飛行場で降りて、麻薬の売人として組織に潜入調査をした。ちなみに「クロヒョウ」と呼ばれていた。
なかなかの内容であり、どこから突っ込んでいいか分からない。でも、臨場感もあり話は面白かった。まさに「講釈師、見てきたような嘘をつき」である。他の客が軽く「本当に本当ですか?」と突っ込むと「ホントダヨ!」とニコニコ笑いながら返してくれた。キャスト達は、「すごいね!」とか「すごいじゃん」を連発し、否定も肯定もしなかった。
しばらくしたらその客は来なくなった。
客が来なくなる理由は様々である。転職や退職などの職場環境の変化や引っ越しや結婚などの家庭環境の変化、失業などの金銭面の変化である。推しの卒業とか他の店に移ったとか、他の店が面白いなどのコンカフェ側の理由もある。来ない理由は分からないので、キャストも他の客も特に詮索しない。ましてやネットで検索しない。
ところが、何年かぶりにその客をニュース番組で見た。コンカフェで見た時より少し老けていたが、目鼻たちのはっきりとした優雅な顔たちは変わっていない。ただ、画面の中の彼は、ニコニコしておらず厳しい顔をしていた。
彼は、東南アジアのある国を拠点としていた、特殊詐欺の犯人たちを連行する警察官だった。となると、格闘技を身につけていることや犯罪組織の調査など、彼が言っていたことは、本当かもしれない。
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