コンカフェで聞いた話

ニシムラケイ

第1話 衣装

 秋葉原で聞いた話である。

 修道院なのかデストピアなのかメイドなのかコンセプトが、すごくぶれているコンカフェである。店の場所は、メイド通りから少し離れた、雑居ビルの2階である。

優しげな眉に大きな瞳を持った、小柄な前世持ちのキャストがしてくれた話である。


 とあるコンカフェでは、月の売り上げが1位になると、煌びやかな衣装を纏う決まりであった。

 ナンバー1を客や他のキャストに知らしめるためである。

 その店は立地とキャストに恵まれ、界隈でも人気となりとても繁盛した。雇われ店長のちょっとした食事も美味しく評判だった。キャスト同士も仲が良く、実家の様な雰囲気の非常に居心地の良い店だった。キャストの生誕祭となれば、他キャストも必ず参加し場を盛り上げ、ドンペリが何本も空となった。

 しばらくたって、変な噂が流れた。

 ナンバー1の衣装を纏うと「不幸になる」と。

 一人目は、ガチ恋勢おかげで長期療養。その後の仕事で精神の平衡が保てなくなった。

 二人目は、不慮の事故。その後の生活がひどく不自由なものとなった。

 三人目は、飛んで音信不通。その後に自死したとの噂が流れた。

 同時に他のキャストも辞め、客の足も遠のき、売り上げも落ちた。

 店長は、噂を払拭し店の雰囲気を変えるため、お祓いをしてもらうことにした。

 お祓い決めたその夜、厨房から失火、キャスト達は逃げたが、遅れた店長が焼死した。

 キャスト達は、火事の炎にあおられた衣装が、夜空を舞っているのを見た。


 この話を聞いて思い出したのは、「明暦の大火」、いわゆる「振袖火事」である。同じ振袖に袖を通した若い女性が、次々と病死。そこで振袖の供養を行い、火に投じたところ、折からの強風にあおられ、江戸中に飛び火し大勢の死者がでた大火事である。

 衣装が原因であることや三人の女性に不幸が訪れるなど、この「振袖火事」がこの話の原型と思われる。ちなみに、火事があったコンカフェの場所は池袋、振袖火事の火元である本妙寺は、豊島区巣鴨にあり近い。

 問題は、誰が何のためにこの噂を流したかである。実際は、厨房からボヤは発生したが、死者もでていない。

 競合店からの「悪い噂」とも考えられるが、それならば「金額が高い」とか「キャストの質が悪い」で十分である。それだけでSNSや某掲示板で噂となり、人は来なくなる。

 不幸になるのがキャストであることから、どうやらキャスト向けの噂であると考えられる。おそらく、新たなキャストの採用を困難にするために流したものと考えられる。

 キャストの採用は、随時行っている店がほとんどである。キャスト自体が学生だったり、昼職と掛け持ちだったりで、常に不足しているためである。そのため、オーナーが採用募集をSNSで行っている。

キャストの応募動機は通常、時給や客層、制服等である。コンカフェ自体、きのこたけのこのようにたくさんあり閉店しては開店を繰り返している。サービスに多少の差はあれ、内容はどこも変わらない。それならば、変な噂がないところを選ぶ。

 おそらく、キャストや店長、キャスト同士の結びつきが親友か家族の様に非常に強かったようだ。誰でも、家族の様に雰囲気の良い職場に、他人が入ってくるのは歓迎しない。それが、応募してきた新たなキャストであっても。新たなキャストが来て関係を壊したくなかったのだろう。

 そのため、店の立地から「振袖火事」をモチーフにした「悪い噂」を流した。噂を作り流したこと自体、店長とキャスト達が一緒になって行ったのだろう。「噂」を作ることは、「悪い噂」であれ非常に楽しかったに違いない。ただ、オーナーにとっては、迷惑なことである。


 噂には続きがある。

 しばらくたって、そのコンカフェは閉店した。

 既婚者である店長とキャストの不倫が発覚、そのキャストは精神を病んでしまった。

 別のキャストは、出勤途中で事故に遭い、一命をとりとめたが半身不随になった。

 半身不随となったキャストと付き合っていたキャストは、将来を悲観して、ともに自死した。

 噂を作り流したのが、本当に店長やキャスト達であったかは分からない。

 ただ、どのキャストも人気があり、一度はナンバー1の衣装を纏ったことがあったそうだ。

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