第22章 夏休

#123 豊高イチの美貌と坊主頭


 今回の章は六栗さんメインの日常パートです。

 特に重要なエピソードではありませんが、3人が一緒に居るとこんな感じだと言うのを楽しんで頂ければと思います。


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 明日は1学期最後の日でお昼で学校が終わったら、ケンくんとツバキの3人でお好み焼きを食べに行くことになった。


 豊高に入学してからは、授業について行くのに必死で部活にも入らずに放課後は真っ直ぐ家に帰って勉強ばかりしてたから、学校帰りに寄り道して遊びに行くのは初めてのことだった。


 昨日の夜、珍しくツバキの方から『明日の放課後、一緒にご飯を食べに行きませんか?』と連絡があった。

 ツバキとケンくんはここ数日、妙にギクシャクしてて、どうも喧嘩をしてるらしかったし、最初はそのことで私に相談でもしたくて、泣きついて来たのかと思った。


 あの桐山ツバキが私に泣きつくというのは、自尊心がくすぐられる。

 男女問わず誰もが豊高一の美貌の持ち主と認めてて、身長もあって同性の私から見ても憧れてしまうようなスタイルで、教室では真面目で落ち着いた態度で成績も良くて優等生ぶってて、何かと注目を浴びているハイスペックキャラで、でも中身は寂しがり屋でセクハラとギャグが大好きなくせにプライドだけは高い変人で、ケンくんのことでも私にとっては一番のライバル。


 その桐山ツバキがケンくんと変な空気になってるのを感じて、数日前に私の方から声を掛けた時は、何でも無い様な態度を取り繕っていた。

 でも、やっぱりどうにもいかなくなったのか、自分から私に泣きついて来た。と思ったから、私を頼ってくれたのが嬉しくて『いいよ。話ならいくらでも聞いてあげるよ』と返した。


『よかった。何か食べたい物などありますか?私としては、お好み焼きかしゃぶしゃぶに興味があるのですが、六栗さんもご希望があれば』


 んん?悩み相談なのにやけにガッツリ食事する気満々?女子二人で食べるにはカロリー高めじゃ?落ち着いて相談とか出来るの?


『私はどっちでも良いけど、落ち着いて静かにお喋り出来るトコのが良いんじゃないの?』


『落ち着いて静かにお喋り出来る食事ですか・・・懐石料理とかですか?高校生の私たちには敷居が高すぎますよ』


 んんん?


『何言ってんの?別にマックでもスタバでも良いけど、相談するなら落ち着いて話せるトコのが良いでしょ?』


『相談って何のことですか?もしかして六栗さん、夏休みに向けてロストバージンの再チャレンジでも目論んでいるんですか?今度は私にも一緒に作戦考えろとでも?未経験の私ではお役に立てるとは思えませんが』


『いやいやいや、私のことじゃなくてツバキの話でしょ?ケンくんと仲直りしたくて相談したいんじゃないの?』


『ああ、そのことでしたら無事に解決しました。六栗さんが仰ってた通り、石荒さんの方から仲直りの切っ掛けを作って下さって、今日は自宅まで送ってもらいましたよ』


 なんだよ!先にソレ言えよ!心配して損した!

 っていうか「自尊心くすぐられる」とかニヤニヤしながら言ってた自分めっちゃハズいし!



 それにしても、やっぱケンくんが自分でどうにかしてくれたんだ。


『そういうの先に言って。マジで心配してたんだし』


『それは失礼致しました。 それで、明日の食事の件ですが、石荒さんからはどこに食べに行きたいかは六栗さんとで相談して決めて欲しいと言われてまして、私としてはお好み焼き屋さんが一番興味があるんですが、バイキング形式のしゃぶしゃぶにも興味をそそられてまして悩んでいるんですよね』


『ちょっと待って。ケンくんも来るんかい!女子二人で食べに行くにはガッツリし過ぎって心配してたのに、そういうのも先に言ってよ!』


『もしかして六栗さん、ダイエット中でした? 普段石荒さんとお食事に行く時はラーメン屋さんとか牛丼屋さんが多くてもっとガッツリしてるので、これでも控えめにしたつもりでしたが。お好み焼きなら野菜も多く含まれてますしヘルシーだと思うんです』


 え?やっぱツバキってダイエットとかしてないの?ラーメンとか牛丼とかばっか食べててあのスタイル?

 そう言えば、前に回転寿司でアホみたいに食べてたって情報もあったっけ。やっぱツバキのUN〇デカイ説って、マジかもしれない。


 っていうか、ケンくんも来るならラーメン屋でも牛丼屋でも無理してでも行くし。


『もう何でも良いよ。ツバキが行きたいトコにして。 そんなことより、ケンくんとの仲直りの話、もーすこし詳しく聞きたいんだけど』


『3人で歩いて行ける所かバスで移動して駅近くのお店にしようかと考えてたのですが、折角明日は学校がお昼までなので、普段は行かない駅周辺に遠征してみましょうか。気になるお好み焼き屋さんがあるんですよね』


『食べ物の話はもーいいから!ケンくんの話聞かせろって!』


『石荒さんですか?いつも通りですよ? クールぶって格好付けて『言いたいこと沢山あるけど何も聞かないから部活くらいは顔出せ』とメッセージ下さって、部活でも帰りでも普段通りでしたよ』


 ケンくん、私が怒ってる時は「足舐めます」とかめっちゃ下手したてに出るのに、ツバキ相手だとそんな感じなんだ。


 そういうところは潔くサッパリしてて男らしくて格好いいんだね。

 普通の男子ならウジウジネチネチして中々そんなこと言えないと思うし、私がツバキの立場でそんなこと言われたら、確実にキュンキュンして尻尾振って喜んでる。間違いない。

 でも、ツバキの口ぶりだと、ただ格好付けてるだけにしか見えてないみたい。

 ツバキにはケンくんのそういう魅力がまだ分からないのかなぁ。

 あれだけケンくんとの仲良しアピールしてても、ツバキもまだまだだね。




 ◇




 翌日、終業式が終わると教室では1学期の成績表と夏休中の課題5教科分が配布されてめっちゃブルーな気分になったりもしつつ、明日からは夏休みだし、今日の放課後に遊びに行くのも楽しみでウキウキしていた。


 初恋相手とかライバルとか色々複雑な関係だと思うけど、なんだかんだ言っても、ケンくんやツバキとは気が合うし気兼ねなく話も出来るから二人と一緒に遊びに行くのは楽しみ。それに、学校帰りに遊びに行くのだってずっと我慢して勉強頑張ってたからね。お陰で1学期の成績は思ってたよりも悪く無かったし、1学期最後の日くらいパァ~っとはしゃいでも良いよね。



 で、3人で一緒に教室出て、学校前のバス停からバスに乗ることになった。

 私とツバキが横に並んでお喋りしながら歩いてて、ケンくんずっと大人しくて黙って後ろついてくるだけだった。

 それがバス停に付いた途端、急に喋り出した。


「六栗も桐山も目立つから、ジロジロ見られてて一緒に歩くの超嫌だったわ」


「六栗さんとはいつも一緒に登校してて私ともいつも一緒に下校してるのに、今更ですか?」


「一人だけならまだそんなになんだよ。でも二人が一緒だと「え?あの二人って仲良しなの?」とか「やっぱ可愛い子同士でつるんだりするんだ」とか目立ってるのに、そこに「あの坊主って二人に付きまとってるの?」みたいな勘ぐりとかもあるだろ? 二人とも全然気にしてないみたいだけど、二人が思ってる以上に注目集めてるからな?俺みたいなフツメンにはそういう視線は怖いの」


「いま、フツメンと仰りました?ご自分のことをフツメンと?いくらなんでもご自分の坊主頭を過大評価しすぎでは無いでしょうか?六栗さんはどう思われます?坊主頭の石荒さんがご自分の容姿をフツメンだと過大評価されていることについて何か一言言って差し上げるべきでは?」


「もう止めてあげて。ツバキはケンくんに何か恨みでもあるの?ヒナは坊主でもケンくんは充分フツメンだと思ってるからね?ツバキの言ってることは無視していいからね?」


「何気に六栗にフツメンって慰められるのも凹むな・・・どう頑張っても俺はイケメンにはなれないフツメン以下なんですね。ええ分かりました。髪ですか?髪があれば俺でもイケメンになれますか?」


「坊主でも大丈夫ですよ。ツバキ姫と呼ばれて数多の男子からの告白を全て断って来た私と足して2で割ればちょうど平均レベルでしょうし、今なら豊坂高校人気ナンバーワンの六栗さんも居ますので、底上げされて平均を上回ることが出来るでしょう」


「俺が足引っ張ってるって言いたいのかよ!?っていうか、それが分かってるから一緒に歩きたくないって話だったんだけど???」


「え?もしかして二人って普段からこんな感じなの? それで喧嘩してたとか?なのにケンくんから仲直りしたの?マジ凄くない?こんなこと言われたらガチギレしても可笑しく無いのに仲直り出来ちゃうなんて。私なら確実にグーで殴ってるよ?」


「う・・・」

「う・・・」


「あれ?喧嘩の原因って他にあるの?」



 むむむ?

 ケンくんもツバキも急に黙ってしまった。

 やっぱり他に何かあるのかな。


 けど、このタイミングでバスが来てしまったので乗り込むと、私とツバキが二人で座り、ケンくんは前の席に一人で座った。

 バスが出発したので二人が喧嘩してた話をもう少し詳しく聞こうとしたら、ツバキが急に「そう言えば!六栗さんと石荒さん、成績表はどうでしたか!?」と言い出した。

 すると、ケンくんも前の席で前を向いたまま「選択科目以外全部5だった俺に勝てるとでも?」と返事した。

 明らかに二人して話題を変えようとしている。


 成績が良い二人に成績の話されるのはイラっとするし、こういう時は妙に息の合った二人のやり取りもイラっとするし、二人の間で私には言えない様なことがあったと言うのもイラっとする。


「っていうか、選択科目以外全部5ってバケモノ!?ヒナなんて選択科目だけ5だったんだけど!?」

「ぐぬぬぬぬ・・・坊主頭のクセに生意気ですね」


 すると、ケンくんは自分のリュックをゴソゴソして成績表を取り出して、「ほい」と言って渡してくれた。

 受け取った成績表を開いてツバキと二人で確認すると、マジで5ばかり並んでる。主要教科が全部5も凄いけど、体育も5なのは流石ケンくんだ。


 自分から成績表を見せてくれるということは、よっぽど自慢したかったのだろうね。

 まぁ、確かにこれだけ成績が良ければ自慢したくなるのも分かるし、見せられたコチラとしても揶揄うことも出来ずに黙るしかない。さっきまでケンくんのことを散々イジり倒してたツバキですら能面の様な表情で黙ってしまったから、相当悔しいんだと思う。



 なんだかんだ言って、豊坂高校では容姿よりも学力だ。

 成績上位者は何を言っても説得力があるし、クラスでは発言力も強い。逆に、いくらイケメンでも化けの皮が剥がれて成績が悪いのが知られれば、相手にされなくなる。

 だから、ケンくんは豊高1年男子の中ではカーストのトップに君臨してると言ってもいい。


 ただ、ケンくん本人にはその自覚はあまりないからクラスでは大人しくしてるし、私とかにも下手したてに出てるのだろう。



 それにしても、美術部なのに選択科目の美術だけが3というのはどうかと思う。





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