#124 お好み焼き『酔拳』




 駅前に到着すると駅の構内を通って裏手に周り、スマホのナビ頼りのツバキの案内で少し寂れた商店街に入った。


 100m程の通りには、お肉屋さんや八百屋さんなどの他にもお弁当屋さんや喫茶店に床屋さんなどの個人商店が並び、通りを歩く客のほとんどは年配の人ばかりで、地元民の私でもココに来るのは随分と久しぶりで懐かしさを感じる。



「こんなとこにお好み焼き屋さんなんてあったっけ?」


「ネットの情報だと2階にあるそうなんですけど・・・あ!ありました!あそこに看板が出てますよ!あの階段の上ですね」


「お好み焼き『酔拳』?聞いたこと無いな」


「あ!ココ!前にテレビで紹介されてたよ!ほら!夕方のスギちゃんのヤツ!」


「そうなんです!テレビで紹介されたお店だと聞きまして、それで一度食べてみたかったんですよ」


「いや、俺、テレビ見ないし」


「ほら!行こ行こ!」



 狭い階段を上ると右手に入口の扉があって、中に入るとカウンターの向こうに立って何かを焼いてる店員さんに「いらっしゃいませ~」と声を掛けられた。


「3名です」とツバキが伝えると「テーブル席にどうぞ~」と言われたので、窓際の4人掛けのテーブル席に私とツバキが並んで座り、ケンくんは向かいの席に座った。


 テーブルの中央には鉄板が設置されてて、目の前で焼くシステムの様だ。

 店内には、私たち以外にカウンターに2名とテーブル席に2名のお客さんが居るだけで、お昼時のわりには空いていた。

 テレビで紹介されてたのも1年くらい前だし、あまり繁盛していないのかもしれない。寂れた商店街の中でも分かりづらい場所にあるし、そんなもんなのかな。

 因みに店名の由来をテレビで紹介されてたときに店長さんが話してたんだけど、店長さんがジャッキー・チェンの大ファンらしくて、一番好きな出演作が『酔拳』なんだそうだ。



「お二人は何にします?事前のリサーチでは、オーソドックスな豚玉やイカ玉が美味しいそうなんですけど、焼きそばとかうどんなども追加で入れて貰えるそうなんです」


「モダン焼きとか広島風か。じゃあ俺は、豚玉にうどん追加とジンジャーエール」


「う~ん、ヒナはじゃが餅チーズとウーロン茶かな」


「では私は、魚貝ミックスに焼きそば追加の山芋マシマシとアイスティーで」


 メニューが決まって店員さんを呼んで注文した後、店員さんに焼いてもらうか自分で焼くかを確認されると、ツバキが食い気味に「自分で焼きます!」と答えていた。


「っていうかツバキ、マジでガッツリじゃん。そんなに食べて平気なの?」


「ずっと楽しみにしてたのに遠慮してては後で後悔してしまうんですよ。アレもトッピングすれば良かったとか、並であの量なら大盛でも行けたのにとか」


「いや、それ、女子高生の思考じゃないし。食べるしか生き甲斐の無いデ〇スの思考回路じゃん」


「桐山は抑圧された中学時代の反動で食べることに関しては一切の妥協が無いからな。でも六栗が言う様に、その内にぶくぶく太ってデ〇スになるだろうな。常に鼻息荒くて座ってるだけで汗だらだら流して首にタオル巻いてて汗の酸っぱい臭い漂わせてる桐山の未来が目に浮かぶわ」


「ヒナの予想だと、多分ツバキはUN〇がデカイから太らないよ。でも後で水じゃ流せないレベルの大物UN〇でトイレ詰まらせて、店員さんに怒られてる未来が目に浮かぶね」


「お二人とも何を仰ってるんですか?ツバキ姫と呼ばれたこの私がデブスとか大物うんちなどと、笑止な」


「折角伏字にしてたのに、一番言わなさそうなお前が言うのか」


「でも、UN〇がデカイのはマジでしょ?じゃないと、そんなにカロリー高いのばっか食べてて太らない説明がつかんし。ヒナなんてお弁当もウチのご飯もいっつも減らして毎日部屋で筋トレして週末はジョギングもしてて、それでも何とか今の体形維持してるのに、バカ喰いしてるツバキがろくにダイエットしないで体形維持出来てるなんてマジで納得出来んし」


「そもそも私はうんちなんてしませんよ?勿論オナラだって」


「いや、学校で一緒にトイレ行った時、普通にUN〇してたじゃん。臭いで直ぐ解るし」


「それ、私じゃないですよ。他の方じゃないですか? あ、もしかしたら六栗さん、ご自分のを・・・」


「はぁ!?だったら今度ケンくんちでツバキがトイレ行ったら突撃してUN〇してる証拠抑えるし!ツバキの産んだ大物UN〇絶対写メするし!」


「お前等いい加減にしろよ。飲食店でう〇こネタとかマジで迷惑すぎる。豊坂高校1年のツートップと呼ばれる美少女二人がう〇このことで喧嘩するとか恥ずかしすぎるわ。だからお前等二人揃った時は一緒に居たくないんだよな・・・」


「でも、ケンくんもツバキのUN〇はデカイと思うでしょ?絶対凄い臭いしそうだよね?」


 そんな話題で盛り上がってると、それぞれ注文したお好み焼きのタネが入ったボールが運ばれてきて、店員さんが簡単に焼き方を説明してくれて、いざ実際に焼き始めることに。


 ケンくんちはホットプレートでお好み焼きを焼きながら食べることが多いらしくて、ケンくんはコテを器用に使って慣れた手付きで裏返したりして綺麗に焼いていた。なので私の分も後はケンくんにお願いして焼いて貰った。


 ツバキは自分で焼こうと奮戦してたけど、どうにも手先が不器用の様で、なのにエビとかホタテとか大きい具材たっぷりの注文しちゃってたから、序盤から既に崩壊しつつあった。そう言えばツバキって、ケンくんちでおばさんの手伝いで一緒に料理した時とかもこんな感じだったわ。

 結局、見かねたケンくんが「手伝おうか?」と声を掛けると、「しゅみません・・・お願いします」と自分で焼くのは断念してケンくんに焼いて貰っていた。


 そうなるとケンくん一人だけが働いて、自然と私とツバキは二人でお喋りを続けた。なので、他愛もない雑談をしつつタイミングを見計らって、聞きたかった質問の言葉を投げかけた。


「で、二人はなんで喧嘩してたの?」


「うっ・・・喧嘩と言いますか・・・喧嘩と言うよりも、意見の相違・・・でしょうか」


「でも三日くらい口聞いて無かったでしょ?そういうのを喧嘩って言うんじゃ?」


「そ、そうかもしれませんけど、もう良いじゃないですか。全部私が悪かったんです。それでも石荒さんは私のことを許してくれて仲直り出来たんです。なのに今更ほじくり返すだなんて悪趣味ですよ」


「いや、別に許したわけじゃ・・・ただ、お互いそっぽ向いて口聞かないのは良くないと思っただけで」


 ケンくんは手を動かしながらもツバキの言葉に口を挟んできた。


「え!?そうなんですか!?私はてっきり、太平洋の様に広い心で私の愚行など些細な事だと許してくれたとばかり」


「そういう風に言われると許さないといけないみたいじゃん。まぁ別に怒ってたわけでも無いんだけど。俺も意地張ってた自覚あるし」


「っていうか、二人にしかわからん会話とか止めてくれる?二人ともヒナが分かんないの分かっててやってると思うとめっちゃイラつくんだけど」


「要は、桐山がいらんことしてそれに俺が混乱して、どういうつもりなのか聞こうとしたら桐山がツンとお澄ましして壁作りやがったから俺も意地になって壁作ってたの。そういうことってあるでしょ?お互いが意地になっちゃって引っ込みがつかなくなっちゃうこと」


「確かにヒナもよく引っ込みつかなくなるけど、二人の場合は気になるじゃん?普段漫才みたいなやり取り散々見せつけられてて、それが急に会話しなくなってたら気になっちゃうのは仕方ないでしょ?」


「そうかもしれないけど、俺だって色々聞きたい事あるけど、そういうのは全部飲み込んで何も聞かないことにしたの。だから六栗もこれ以上は聞かないで欲しいの。っていうか、六栗だって最初は「何も聞かないけど、仲直りしたほうが良いよ」って言ってくれてたじゃん」


「確かにそう言ったし、ケンくんがそう言うならこれ以上は聞かないけど」


 実際のとこ、最初は私も首突っ込む気無かったけど、なんか気になっちゃうんだよね。

 仲直りしたようには見えるけど、なんか二人ともお互いまだ遠慮してるっていうか、前は私の前でももっとベタベタしてたのに、二人の間の壁が無くなった代わりに淀んだ空気が流れてる感じ?


 私とケンくんが会話してると口数が減ったツバキが気になって視線を向けると、目をウルウルさせて蕩けた緩い表情でケンくんのこと見つめてる。

 こ、コレって、恋する乙女の表情!?

 やっぱ、ツバキもケンくんのことガチで恋してるじゃん!


「凄く美味しそうな匂いがしてきました❤もう口の中が唾液で一杯です・・・石荒さん、焼くのお上手ですね❤お任せして正解でした」うふふ


 って、ケンくんじゃなくてお好み焼きの方か。

 恋気こいけじゃなくてだったみたい。




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