#117 ドツボにはまる優等生
またやってしまいました・・・
今日も私、おかしいです。
石荒さんに昨日のデートでの不甲斐なさを自覚して貰う為にお説教をして、親密な男女についてのアレコレを実演してたはずなのに、どうして抑えられない程の欲求が湧いてしまうのでしょうか。
確かに『親密な男女の甘い行為』を具体的に教えるとかこつけて、膝に載ったり「あーん」したりギュと抱きしめて貰ったりしました。
昨日、六栗さんからデートでの話を聞いてたら少し羨ましくなってしまったんです。だから、少しくらい石荒さんに甘えたくなるのも仕方ないですよね。
それに石荒さんは、頭は良いのに何故かこういう事に限っては言葉でいくら言って聞かせても正しく理解してくれない朴念仁ですので、実際にやってみせるしか無いんです。
でも、だからと言ってキスまではするつもりなんて無かったんですが。
美術準備室を飛び出した後、一人で教室に向かいながら何とか気持ちを落ち着けて冷静さを取り戻そうと今日の自分の態度や言動を思い返してみましたが、今日は普段よりも浮かれてた様に思えます。
昨日六栗さんと色々と語り合って、私が六栗さんと石荒さんが交際するのに賛成してて、応援するスタンスであることを六栗さんにも理解して貰えたことが、私にも心を開いてくれた様で純粋に嬉しかったですし、今後のビジョンがより現実的になったことで、強い使命感を感じていました。
それに今日だって、六栗さんに誘われて一緒にお手洗いに行った時には教室では話せない様な、惚気や悩みや愚痴も話してくれました。
「相変わらず朝からケンくんに謝らせてばっかで、自分が情けなくなっちゃう」
「それに、ケンくんが幼馴染ってこと強調するの聞いてると、なんか悲しくなってくるし」
「でもケンくん、めっちゃ日焼けしてて鼻が真っ赤なの、なんか可愛いよね」
こんな風に話してくれることが嬉しくて、だから私は、いつも以上に石荒さんをしっかりと自覚させて反省して貰おうと考えたんです。
いつもの様に美術準備室で石荒さんと待ち合わせて二人きりになると、昨日のクローゼットに隠れてた件で問い詰められると思いましたので、先手必勝で私の方からデートの反省会と言って叱責を始めました。
案の定、石荒さんは自分が責められるとは思って無かった様子でムキになって反論を始めたので、隙を見せればクローゼットに隠れてた件に言及されると思い、強い言葉で叱責を続けたのですが、流石は石荒さん、『親密な男女の甘い行為』とは何なのか具体的に説明しろと恋愛初心者の私のアキレス腱を突いてきました。
もうここまで来たら後には引けなくなった私は、強気の姿勢を崩さず、寧ろ積極的に『親密な男女の甘い行為』を実演したわけです。
胡坐で座る石荒さんの膝上に腰を降ろして密着して、お弁当を「あーん♡」と食べさせるという定番のイチャイチャプレイをやって見せたんですが、これがいけませんでした。
石荒さんの膝の上、そして「あーん♡」して貰った時の表情。
自ら作り出したこの状況に、私のハートがキュンキュンしてしまったのです。
こうなってしまうと、さらなる欲求が沸き上がってしまいまして、ギュッと抱きしめることを強く要求してしまい、抱きしめられながら石荒さんの表情を間近で見てしまった時には手遅れで、もう正気を保てなくなってしまいました。
石荒さんに付き飛ばされるまで自分でも何をしでかしたのか自覚は無くて、気付いた時には、唇に残る感触に血の気が引く思いでした。
正しく、ミイラ取りがミイラにとはこのことでしょう。
六栗さんに対して積極的になるように後押しするつもりだったのに、結果的にそれを邪魔するかのように私自身が積極的になってしまったわけですから。
初めてのキスはもっと大人になってから、それこそお見合い結婚でもしてつまらない結婚式にでもするんだろうと諦めてたので、まさかこのタイミングで経験してしまうなんて考えてもいなかったのに、そんな私が衝動的に体が勝手に動いて自分からキスしてしまうなんて、恋とは本当に恐ろしいです。
『してしまった事は仕方が無い』と割り切ることが出来ればこんなにも動揺して落ち込むことも無いのでしょうが、私の立場と今後のことを考えると、絶望的なまでにこの状況の打開案が思い浮かびません。
石荒さんには私が好意を寄せてることは秘密なので、キスした意味や理由を納得させるだけの説明が出来ません。
そして、それは六栗さんに対しても同じで、散々応援しますと言っておきながら、横取りでもするかのような振る舞いを知られてしまえば、私が石荒さんに恋心を抱いていることがバレてしまいますし、応援する気持ちまで疑われ、折角心を開き始めてくれたのに信用を失ってしまうでしょう。
そして何よりも頭が痛いのは、石荒さんに対して気不味いこと。
実際に、石荒さんが教室に戻って来ても、顔が見れませんでした。
自らキスをしておきながら動揺する姿を見せるのは悪手だと思いましたので、必死に気丈に振舞う様に装いましたが、ずっとドキドキしっぱなしで内心では逃げ出したくなるほど羞恥心と後悔で押しつぶされそうです。
石荒さんだって私と同じように動揺してたでしょうし、私以上に混乱されてたと思います。
ですが石荒さんは、日焼けした鼻の痛みを訴え怒ってましたがキスのことには言及せずに、そんな状況でも私の忘れ物の弁当箱と水筒を持って来てくれて、教室では気不味いながらも取り乱した様子はありませんでした。
その様子に少しだけ安堵して、なんとかお礼と謝罪を伝えようとスマートフォンで手短にメッセージを送った訳ですが、送ったあとになって(キスを無かったことにして貰う様なコメントは、よく無かったかもしれない)と更に不安に陥ってしまっているのが今現在の心境です。
もし私が逆の立場だったらどう思うでしょう。
石荒さんにキスされて、『やっぱり今のはナシで』なんて言われて、はいそうですかとは絶対になりませんよね。
ふざけるな、バカにするな、と思いますよね。
私からのメッセージを見て、今石荒さんはどんな表情をしてるのか気になります。
でも、怖くて見ることが出来ません。
いくら冷静になろうとしても、やる事なす事ウラ目に出ている様な気がしてなりません。
第20章、完。
次回、第21章 蝉時雨、スタート。
の予定。
_________
【お知らせ】
いつもご贔屓にして頂きまして、ありがとうございます。
ここまで4カ月弱毎日欠かさず1話更新を続けてきましたが、流石に息切れ気味で筆の進みが悪い状況に陥っておりまして、余裕があったはずのストックもあっという間に溶けてしまいましたので、更新ペースを落とそうかと思います。
GW中で時間もあったので本当はギリギリまで何とかストックを増やそうと思って書いてはいたんですが、これがまたつまんないことしか書けなくてですね、某エルフ先生が言ってた「やる気無い時に面白く書いた文章より、やる気MAXファイヤで書いた文章の方が絶対に面白いに決まってるでしょ!」「やる気MAXファイヤの時以外、死んでも原稿なんか書くなよ!」と言ってたのが身に染みてる今日この頃でして、開き直ってしばらくは魔力の充電期間にすることにしました。
次章の内容は脳内に薄っすらありますので、魔力が充電したら書こうと思います。
毎日更新を楽しみにして頂いてました常連読者さんには申し訳ありませんが、ちょっぴりお待ちください。
因みに、気分転換に、新作を書きたいという欲求もありまして、まだ全く手を付けてはいませんが、硬派なヒューマンドラマか、もう遅い系の恋愛物か、それともノクターンで特殊性癖物のエロ小説か、と薄くなった頭で薄っすら考えてはいます。
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