#116 少年のいつもの微妙な推察





 午後、5限の授業中。


 世界史の教科担任が話すワーテルローの戦いに関する退屈な講義を聞きながら、昨日今日と度重なる衝撃的な出来事について改めて整理することにした。


 


 まず昨日、海での出来事。


 六栗の誕生日と言うことで、前々から約束してた海水浴のデートに六栗と俺の二人で出かけ、桐山は俺の家で留守番していた。


 海水浴場までの移動中から浜辺で遊んでる間も、手を繋いだり抱き着かれたりと六栗は普段よりもスキンシップが激しく、挙句『恋人プレイ』を言い出して、俺に一日恋人代理になるように要望してきた。


 ここまではまだ良かった。

 特別な日だし二人きりで遊ぶのも久しぶりだったし、主役の六栗に楽しんで貰うことが俺の役目で、出来る限り頑張ろうと思ってたから。


 しかし、この『恋人プレイ』なるものが問題だった。

 俺としては、恋人代理になることで、六栗にライト感覚で恋人気分を満喫して貰うつもりだったのだが、六栗はもっとハードなことを考えていたようだ。


 六栗は、海水浴場という公共の場で、自ら胸を触らせキスをした。

 本当の恋人なら、人前でもそういう行為もありうるかもしれない。

 しかし、俺達はあくまで恋人のふりして遊んでいるだけであって、そこまでの行為をするのは如何なものかと思う。

 その認識の差に俺は戸惑い混乱してしまった。


 そして更に六栗の暴走は止まらず、更衣室で一緒に着替えることを要求して、俺の目の前で水着を脱ぎ捨て全裸になってしまった。

 六栗の常軌を逸した過激な振る舞いに俺はパンク寸前に陥りながらも必死に抗う様に目を瞑り、六栗の全裸を見ない様にした。

 しかし、それが裏目に出て六栗に俺の水着を奪われてしまい、俺は勃起したちんこをじっくり生で観察されてしまった。


 ここまでが1つのポイントになると思う。

 六栗にとって、異性へのボディタッチやキスにどういう意味があるのか、その行為への慣れ度合はどの程度なのか、それを考えると、1つの可能性が見えてくる。


 六栗にとって胸を触らせたりキスをするのは、大したことではなかった。


 俺にとっては初めてのことだったが、六栗は既にそれらの行為は経験済みで、挨拶程度のことなのかもしれない。

 そして、考えるだけでも胃が痛くなるが、六栗は既にセックスの経験を済ませており、異性の前で裸になることやちんこを見ることに慣れているのではなかろうか。


 あくまで1つの可能性であって、本当にそうだとは思えない。

 いや、思いたくないだけなのかもしてないが。


 俺にキスをした後、六栗は顔を真っ赤にして動揺していた。

 あの時の表情は、とても初心に見えた。

 キスやセックスに慣れてるようには見えなかった。 


 だからこそ、その後の暴走に混乱してしまったが、やはり、六栗が経験済みだとは思えない。


 うーん

 六栗の一連の行動の目的は、やはり俺には全く分からない。

 本当は何も考えて無くて、ただはしゃぎ過ぎただけのようにも思えるな。




 次に、海から帰って俺の部屋での出来事。


 疲れたから休憩しようということになったのだが、なぜか六栗はベッドで休むことに執着していた。俺が着替えようとしても隣に座ることを命じて、そして再び自分だけ服を脱ぎ捨て裸になろうとした。

 下着までは脱がなかったが、やはり六栗はこの時も暴走気味だった。

 いくら裸を見せ合った後だとはいえ、異性の部屋で二人きりだというのに服を脱いでしまうのはクレイジーだ。

 しかも、大人の女性が着るような上下黒のアダルティな下着。ぶっちゃけ、赤いビキニよりもずっとセクシーでエロかった。


 そんなセクシーな下着姿の六栗は、『ヒナはケンくんと二人だけの時間を大切にしたいだけ』と言っていた。

 そう思ってくれるのは凄く嬉しかったし、俺も同意だ。

 しかしだ、二人だけの時間を大切にするのに、なぜ服を脱ぐ必要があるのか、全く理解出来なかった。


 もしかして六栗は、自宅では裸族なんだろうか。

 俺の部屋を自宅と同じくらい寛げる空間にするつもりで、服を脱いだのだろうか。

 六栗にとって大切な時間を過ごすのに必要な条件として、自宅同様に裸になって寛げる場所ということなのだろうか。


 そして、もっと解せないのが、六栗は二人だけの時間を大切にしたいと言いながら、目を瞑り、まるで俺にキスをして欲しそうな表情を見せた。


 ココが大きなターニングポイントだったように思う。


 あのままキスしていたら、どうなっていただろうか。


 ほっぺとは言え、既に海で一度キスしてたから2度目となると大したことでは無かったかもしれない。

 もしかしたら、やはり六栗にとってキスは挨拶程度の行為で、二人きりの時間を大切にする条件的な意味で、挨拶代わりのキスというのもあるのかもしれない。


 けど、このタイミングで起きた予想外の展開を考慮すると、キスしなくて良かったと思う。


 そう、クローゼットから桐山が登場したからだ。

 もし俺と六栗がキスしてるのを桐山に見られていたら、どうなっていただろうか。

 考えるだけでも面倒で厄介だ。


 客観的に状況だけ見ると、俺が自分の部屋に六栗を連れ込んで、服を脱がせてベッドの上でキスを迫っている様にも見える。その様な状況でキスしていたら、次に何をしようとしてたのか、桐山の目にどう映るだろう。


 俺が六栗を押し倒して、性行為に及ぼうとしてた様に見えるだろうな。


 恐ろしい。

 完全に誤解なんだが、桐山にいくら「誤解だ」と言ったところでただでは済まないだろう。

 それに、その状況で「六栗自ら服脱いでキスして欲しそうにしてた」なんて責任逃れみたいなことは、言えるわけがない。

 俺は六栗を2度と悲しませないと誓ったんだ。

 だから、誤解だろうと何だろうと、俺は責任を全て被ることになってただろう。


 そうならなかったのは、俺にとっては奇跡だったと思える。



 しかしそれは結果論であって、俺はこの時、またやらかしてしまった。

 六栗の一連の暴走に俺の脳内は混乱していたのだが、そのような状況で桐山が突然クローゼットから出て来たのを見て、俺の脳ミソは高負荷にショートしてシャットダウンしてしまった。

 そうなると、俺の悪い逃げ癖が出てしまう。


 六栗は、二人きりになって俺に何を求めているのか。

 桐山は、なぜクローゼットに隠れていたのか。

 と本当なら思考を巡らせ、それらの事実確認をするべき状況だったのだろうが、俺はそれから逃げてしまい、気付いた時にはベッドで横になって寝ていた。




 って、そういえば!

 なんでクローゼットに隠れてたのか問い質す為に昼休みに桐山呼び出したのに、全然その話出来てないじゃん!


 まさか、それを聞かれるのを避ける為にキスして誤魔化そうとしやがったのか!?






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