#114 二人きりでの反省会
お昼休憩の美術準備室。
流石にお昼ご飯までは六栗とは別々らしく、桐山は一人で待っていた。
桐山に昨日のことを問い質そうと思ってたので、六栗が居なくて少しホッとした。
一声かけて床に敷いたダンボールに俺も腰を降ろして弁当のフタを開けると、俺が何か言う前に桐山が鋭い視線を俺に向けながら「正座して下さい」と命令してきた。
「昼飯食べる時くらいリラックスさせてくれよ」
「石荒さんにリラックスするような権利があるとでも? 今から昨日のデートの反省会しますので神妙に正座して下さい」
「は?なに言ってんの?朝から俺には妙にツンツンしてるしなんなの?なんで機嫌悪いの?怒りたいのは俺の方なんだけど?」
「昨日のデートの様子を六栗さんから聞きましたよ。事細かに全て包み隠さず六栗さんは話して下さいました」
な、なんだと!?
全て包み隠さずってことは、バッキバキちんこを観察されたこともか!?
っていうか、俺は怒られる様なことは一切してないぞ!?
全部六栗からしてることばかりだったからな。
「だ、だからって、俺は怒られる様なことはしてないぞ?ちゃんと桐山の言いつけ守って六栗さんファーストで頑張ったし、エロイ目で見ない様に何度も円周率唱えて性欲を滅却したからな。あれだけの誘惑に全て耐えきった俺を褒めて欲しいくらいだ」
「ソレですよ!ソレ!バカなんですか?アホなんですか?年頃の若い女の子が積極的にボディタッチしたりキスしたり、挙句の果てに全部脱ぎ去って裸を晒してたんですよ?なのにどうしてナニもしないんですか!女性に恥をかかせてそれでも男ですか!やっぱり女の子だったんですか?ケンサクじゃなくてケン子ですか!?もう私は情けなくて情けなくて、ガッカリですよ」
「ちょっと待て。言わせておけば言いたい放題言ってくれたけど、そもそもエロイ目で見るなって言ったのは桐山だそ?俺は必死に耐えて言いつけを守ってたんだぞ?言ってること矛盾してるぞ?お前こそ自分の言ったこと忘れるアホなんじゃないのか?」
「あのですね、私は確かに『スケベ心丸出しのニヤニヤした表情を見せないように』とは言いました。ですが、エッチなことを考えてはダメとは言ってません。それに年若い男女のデートなんですよ?その場の雰囲気やタイミングによっては男女の甘い行為に及ぶことも当然ありますよ。なのに石荒さんは頑なに殻に閉じこもって指を咥えてたんですよね?それが私は情けないって言ってるんです」
「そんな微妙なニュアンスの違いなんて分かるかよ!普通誰だってエロイこと考えたらダメだって意味って理解するわ!だいたい甘い行為ってなんだよ!具体的に言えよ!」
「はぁ、仕方ないですね」
桐山は呆れた表情で溜め息を1つ付くと、立ち上がって俺の正面に来て、俺が手に持ってた弁当と箸を奪い取ると、胡坐で座ってる俺の懐に収まる様にストンと腰を降ろした。
昨日は六栗に抱き着かれたりして散々同じような事をしていたが、六栗に比べて桐山は軽く感じる。
やはり胸とお尻のサイズの差だろうか。
いや、そんなことよりも
「お前、なにしてんの?」
「今からその甘い行為を教えて差し上げるんです」
桐山は俺から奪い取った弁当から玉子焼きを箸で掴むと、「あーんして下さい」と言いながら俺の口元に持ってきた。
桐山の表情をジッと見つめると、ツンツンとした表情のまま俺を見つめ返して来た。
夏の暑さにも汗1つ無い表情に、長いまつ毛をパチクリさせる瞳で真っすぐ見つめられると、やはり生気が吸い取られてる錯覚に陥りそうになる。
言われたまま玉子焼きを食べると、今度はごはんを一口分つまんで「あーん」と言いながら再び俺の口元に持ってきた。
「なんなのコレ?」モグモグ
「甘い行為です。所謂イチャイチャですよ。親密な男女が良い雰囲気になったら、こうやって甘い行為をするんです。 多分ですが」
「多分って、お前もやっぱ知らないじゃん。知ったかぶって偉そうなこと言って、お前だって甘い行為がなんなのか分かってないじゃん」
「確かに仰る通りかもしれませんが、朴念仁で超絶鈍感男の石荒さんよりはマシです。ほら続けますよ。あーんして下さい」
仕方なくしばらく続けたが、俺の弁当を食べ終わるまで続いた。
けど、これで漸く終わるかと思ったが、まだ終わらなかった。
「次は石荒さんの番ですよ。私にも「あーん」して下さい」
桐山はそう言って、自分の弁当を俺に渡して来た。
「桐山が乗ったままだと無理なんだけど」
今の俺たちの体勢は、胡坐で座ってる俺の脚に桐山がお尻を乗せてて、桐山は俺からみて左方向に体を向けてて、俺は右手で桐山の背中を支えてて左手で渡された弁当を持っているから両手が塞がってて箸が持てない状態だ。
お姫様だっこの座った状態に近いと言えば解るだろうか。
「仕方ありませんね・・・私にもあーんして欲しかったんですが、それはまた次の機会にしましょうか」
桐山はそう言って俺に渡した自分の弁当を引き取り、先ほどから使ってた俺の箸を使って食べ始めた。
「いや、俺の上から降りろよ!脚が痺れてきてんだよ!それにその箸オレの!っていうか、ココ学校だぞ!?こんなとこ誰かに見られたら誤解されるだろ!」
「関節キスとか他人の目なんて気にしてるからデート中に良い雰囲気になってもウジウジして消極的になってるんじゃないですか?」モグモグ
「他人の目を気にして教室では猫被ってる桐山にだけは言われたくないんだけど?」
「・・・確かに、言われてみれば仰る通りですね」モグモグ
何なんだいったい。
最近の桐山はやたらと距離が近かったが、その時その場面で事情なり雰囲気なりあって、流れでそういう距離感になってたのに、今日の桐山は雰囲気とか関係なく意図的にそうしてる様にしか見えない。
中学の頃に読み漁った幼馴染を題材にした文庫本では、確かにこんな風に「あーん」って言いながら食べさせ合うシーンが定番であったけど、
いや、大胆と言うか、学校でこんな風に膝に乗っかって来るなんてクレイジーだ。
それに、ぶっちゃけ、甘いと言うよりもエロイ。
桐山の女性らしいお尻の柔らかな感触と体温に程よい重量感のせいで妙に股間がムズムズするし、黒のストッキングに包まれた美脚が相変わらず
「あら?石荒さん今イヤらしいこと考えてます?また顔がニヤニヤしてますよ?」モグモグ
「ち、ちちちげーし!エロイことなんて考えてねーし!」
「はいはい、私はもう慣れたから平気ですけど、教室では気を付けて下さいね」モグモグ
「桐山がお尻ぷりぷりさせて俺に乗っかってるからだろ?だいたい距離感に気を付けて欲しいって言ったよな?なのになんで膝に乗ったまま弁当食べてんの?こんなのムラムラするに決まってるじゃん」
「ほら、やっぱりエッチなこと考えてるんじゃないですか」モグモグ
でもな、桐山。俺には全てお見通しだ。
男女の甘い行為を教えるとか言いながら、本当は俺が襲い掛かるように煽ってるんだろ?
で、目論見通り俺が手を出すなり襲い掛かるなりすれば「性犯罪者!」とか言って、またしばらくそれをネタにイジリ倒そうって魂胆なのは分かってるんだからな。
お前の思い通りにはならないからな。
童貞の意地、とことん見せてやるぜ。
「それにしても石荒さん、結構日焼けしましたよね?鼻の頭が赤いですけど痛くないんですか?」モグモグ
「ああ、ヒリヒリしてて結構痛いぞ」
「少しだけ触ってみてもいいですか?」うふふ
「ダメに決まってるだろ!良いから早く食べろって」
結局桐山はマイペースを崩さず、自分の弁当を食べ終わっても俺の膝から降りてくれなかった。
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