#112 一人になって思うこと




 六栗ヒナの場合。



 ケンくんちの前でツバキとおばさんにお礼言って別れて、今お家に帰って来た。


 2階の部屋に上がって肩に掛けてたバッグを放り投げる様に降ろすと、ベッドに仰向けになって倒れ込んだ。



 左手を上に伸ばして見上げると、手首にはケンくんから貰ったブレスレット。


 ケンくんとは長い付き合いになるけど、今まで誕生日のお祝いとかして貰ったことが無かったから、コレがケンくんから貰った初めてのプレゼント。

 ケンくんは私の誕生日をしっかり覚えてくれてて、事前にツバキに相談して用意してくれた物。

 きっと私を喜ばせようと、誕生日プレゼントを用意してたことは内緒にしてて、プレゼント選びだってちゃんとした物を選んでくれた。


 その気持ちが何よりも嬉しかった。

 思わず目頭が熱くなって、抱き着いてしまった程だった。

 いつも自分ばかりが好きで一方的にアプローチしてたから、ケンくんから私の為にしてくれたことが泣きたくなる程うれしかった。

 今、こうしてブレスレットを見ているだけでも、胸が高鳴るのがわかるくらいに。


 因みに、去年のクリスマスに図書券くれたけど、あれはノーカンってことで。





 今日一日、本当に色々あった。

 一番の目的だったロストバージンは達成出来なくて、悔やむ気持ちが無いと言えばウソになるけど、今はそれほど悪い気分じゃない。


 朝から、形振なりふり構わず積極的に攻めた。

 初めてハグしたし、ボディタッチしまくって初めてキスもした。

 それから裸になって体を洗ってあげたり、初めて男の人のアレを生で見た。

 その仕上げとしてケンくんの部屋で二人きりになって、ベッドで肩を寄せ合う様にしてキスを迫り、そのままの勢いで押し倒す計画だった。

 なのに、結果は失敗。

 失敗の直接の原因はツバキの登場だったけど、後で客観的に思い直すと、ツバキが邪魔しなくても上手くいかなかったように思える。

 ケンくんちのおばさんがいつ部屋に来てもおかしくない状況だったし、ケンくんだって相当疲れてたみたいで、私がツバキと話してる間に寝ちゃったくらいだから、初めてのセックスなんてする体力も気力も残ってなかったと思う。


 ここまでしてもケンくんの気持ちを掴むことが出来なかったことは『無念』の一言だけど、でも、遠慮して何もせずに大人しいデートをするよりも、絶対に良かった。


 純粋に楽しかったんだよね。

 普段なら出来ない様な大胆なことをしちゃうのは、ドキドキと恥ずかしさと、それを上回る興奮の連続だった。



 恋人で無くてもこんなに楽しいんだから、本当の恋人になれたらもっともっと楽しくなるんだろうね。


 やっぱ、私はケンくんと恋人になりたい。

 ハグだってキスだってセックスだって、ケンくんといっぱいしたい。

 もっと贅沢言えば、私からばかりじゃなくて、ケンくんからも迫られたい。

 多分、押し倒されたりしたら、私、鼻血出すほど興奮しちゃいそう。





 それと、ツバキ。


 今日色々話したことで、ツバキの目的や恋愛観を知ることが出来た。

 ずっと何を考えてるのか分からない怖さがあったけど、今はそういう印象は薄れたと思う。


 まぁ、変な子っていう印象は相変わらずだけど。

 めっちゃお喋りだし、距離の詰め方おかしいし、ずっと敬語でお上品ぶってるクセにセクハラとジョークが大好きで、やたらとお姉ちゃんぶってて、でも、なんだかんだ言っても、ツバキと二人きりで色々語り合ったり遊んだ時間も楽しかった。


 教室でももう少し話しかけてみようかな。

 猫被ってお澄まししてるツバキをイジるのも、楽しそうだよね。







 __________



 桐山ツバキの場合。



 お母様に送って頂いて自宅に帰ると、父も母も留守だった。


 週末に父が留守なのはいつものことですが、母が留守なのは珍しいです。

 でも、帰りが遅くなったことで咎められる心配はなくなったので、それはそれで安心です。


 夕飯を確認しようとキッチンに向かうと、食卓の目立つ場所に母から『今日は帰りが遅くなるから、夕飯は温めて一人で食べるように』と書かれたメモが置いてあった。


 一度部屋に戻って着替えてからにしようかとも思ったけど、お腹が空いてたのでそのまま食事をすることにした。

 コンロの鍋にはお味噌汁が作ってあったので、そのまま火を付けて温め、冷蔵庫を開けるとラップに包まれたおかずが用意してあったので、取り出してラップを剥がしてから電子レンジで温めた。

 待ってる間に、保温モードの炊飯器からご飯をよそおい、温め終わった味噌汁もついでおかずと一緒に並べて一人で席についた。


 手を合わせて「頂きます」と声に出した。

 独りで声を出すと、反応が返ってこない分、余計に寂しくなるだけでした。

 先ほどまで六栗さんとガールズトークに花を咲かせていた時間との落差に、気持ちが沈みます。


 一人で居ることが寂しいと思う様になったのは、石荒さんと交流するようになってからでしょうか。

 中学生の頃は、むしろ一人で過ごす時間のが気が休まってた様に思います。


 それが今では、積極的に石荒さんや石荒さんのご家族、そして六栗さんとも関わろうとしています。


 今日の六栗さんは、6月に喧嘩した時とは明らかに違いました。

 あの時は、ただ気に入らないから怒ってるだけの我儘にしか見えませんでした。

 そんな六栗さんを見て、覚悟が足りないと思ったものですが、今日の六栗さんからはその覚悟が溢れていた。

 そのパワフルさに圧倒され、そして眩しくて羨ましくもなりました。


 アレが『恋する女の子』の姿なんでしょうね。

 真っ直ぐに好きな人のことだけを想って、どんなことでもやって見せる覚悟を見せつけられました。


 いずれ、その想いは石荒さんにも伝わると思います。

 その時、お二人の傍に私の居場所があれば良いんですが。

 私の恋を終わらせて、この先も石荒さん、そして六栗さんの傍に居ることを叶える為にも、お二人の恋が成就することを応援するのが私の役目です。




 食事を終えて自室で部屋着に着替えると、ベッドに横になった。


 一人で居ると、やっぱり寂しさを感じます。

 こういう時は、楽しいことを考えるべきでしょう。


 スマートフォンの画像フォルダを開いて、今日撮影したばかりの六栗さんとの写真を一枚一枚めくる様に眺めた。


 やっぱり可愛いです。

 同じ西中ジャージを着てお揃いの髪型にしてても、私と違って六栗さんの笑顔はチャーミングで眩しいです。


 そうなんですよね。六栗さんは可愛いんです。怒ると怖いですが可愛いんです。

 石荒さんが長年想いを寄せるのも当たり前ですよね。


 やっぱり、石荒さんの恋人には六栗さんが相応しいと思う。


 だから、私の石荒さんへの想いは話しませんでした。

 あくまで私にとって、友人。そして家族同様の存在。

 そこには恋心は無いと突き通しました。

 これが最適解なんですから。



 そんなことよりも、夏休みですよね。

 石荒さんと二人で過ごすつもりでしたけど、六栗さんも加わりそうで、今から楽しみです。


 明日にでも、六栗さんと夏休みの相談したいですね。

 たまには教室でお話ししてみるのも良いかもしれません。ふふふ






 _________




 石荒ケンサクの場合。



 部屋の電気を点けないままベッドに寝転んで、外からの明かりに薄っすら照らされた天井をぼーっと眺めていた。



 日焼けしたのか鼻の頭がヒリヒリして、体中が火照って気が落ち着かない。


 気が落ち着かない原因は、今日のデートのことだ。

 ぶるんぶるんと暴れる胸とぷりぷりと弾む尻たぶ。ズレたビキニを指先で引っ掛けて直す仕草に、はみ出しそうになった胸のお肉をブラに収め直す仕草。

 エロイ目で見るなと自分に言い聞かせ続けて来たが、ドレもコレも刺激的だった。

 けど、海で遊んでた時以上に、更衣室での出来事が強烈すぎた。


 六栗の生全裸を見てしまった。

 事故とかラッキースケベとかでは無く、六栗が自ら素っ裸になった。


 ロケットの様に付き出た胸。

 綺麗に整えられた股間の毛。

 ぷりぷりとボリュームたっぷりのお尻。


 薄目でこっそり見ただけだったけど、女の子の裸があれほど刺激的な物だとは思いもしなかった。

 いや、ただの女の子ならあそこまでの刺激的に感じなかっただろう。あれは六栗だったから余計に強烈で刺激的だったんだろうな。天使のような赤いビキニ姿が霞んじゃったくらいだし。

 今までずっと六栗の魅力は俺が一番分ってたつもりだけど、その俺ですらまだまだ六栗の知らない魅力があったということだろう。


 そんな刺激的な六栗のフルヌードを前にしても、俺は耐えた。

 壁に向かって膝を抱え、必死に円周率を唱えて、耐えた。

 六栗の信頼を裏切る訳にはいかないからな。



 そしてもう一つ。

 そんな刺激的な体験に反して、ショッキングな出来事もあった。

 俺のちんこもじっくり観察されたことだ。

 しかもバッキバキに勃起した状態でだ。


 六栗が何を思って俺のちんこを見たかったのかは分からない。

 無理矢理水着を奪われ、兎に角恥ずかしかった。

 直ぐに更衣室を飛び出して逃げ出したかったくらいだ。


 でも、今日は六栗さんファーストだったから、俺は耐えた。

 気を付けしてちんこ丸出しのまま、涙を滲ませながら耐えた。



 今日の俺は、耐えてばかりだ。

 これも誕生日の六栗が満足するデートにする為であり、そして幼馴染関係を守る為、俺には耐える事しか出来なかった。


 だが、今は違う。

 俺の部屋で俺一人。

 誰にも見られてなければ、俺がこれからすることを咎める人も居ない。



 これまで六栗をエロイ妄想の対象とすることを禁忌として避けて来た。

 しかし、今日だけは我慢出来ない。

 何て言ったって、六栗の生おっぱいに生お尻に生陰毛見ちゃったからな!

 だから今日だけは禁忌を犯すことを許して欲しい。

 あくまで妄想の中でだけで、本当に今日だけだから。

 明日からはまた今まで通り、六栗の天使の様な可憐な笑顔を穢すような妄想はしないと誓おう。





 履いていたハーフパンツと下着を一緒に脱ぎ捨てるとベッドに仰向けになり、左手でちんこを握ると静かに目を閉じて、六栗の暴れる胸、弾むお尻を思い浮かべた。





 第19章、完。

 次回、第20章 盛夏、スタート。

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