#109 少女に語る優等生の恋愛観



 ツバキは小学生や中学時代に如何に自分がモテたかを話し始めた。

 以前ケンくんが、『その内モテ自慢とかも始めるから、かなりウザイぞ』って言ってたけど、ツバキの表情や口調のせいなのか、モテ自慢をしてる感じは全然無くて、ツバキにとっては迷惑で面白く無い過去の体験談って感じだった。


 それに、別の子がこの話を聞いてたら『嫌味か!?』って怒るかもしれないけど、私にはツバキの気持ちが理解出来た。

 私もツバキほどじゃないけど、似たような経験をしてきたからかもしれない。



「だいたいですよ?ひと目惚れって見た目だけ好きってことですよね?人間性とか価値観とかどうでも良いって言ってるのと同じことですよね?ソレって凄く失礼なことだと思いませんか?そんなこと言われて喜ぶとでも思ってるんでしょうか?私、男の人から『ひと目惚れした』って言われると物凄く不愉快な気持ちになるんですよ!」


「うん、まぁ、分からんでもないけど・・・でも、ブスって言われるよりはマシじゃない?」


「私、他人からブスって言われたことありませんので。  あ!一度だけありました!六栗さんに言われた事ありましたよね!性格ブスって」


「確かに言ったけど、そのブスとは違うんだけどね・・・でもあん時はごめん。言い過ぎたよ」


「いいえ、謝らないで下さい。私も自分で性格ブスだって思ってましたから」


 ツバキも私がツバキと似たような経験をしてきていると判ってるのか、『六栗さんなら私の気持ち分かりますよね!』と言いたげに興奮気味に喋り続けていた。

 っていうか、コレ前置きだよね? 話が長い・・・

 教室で猫被ってるツバキとは別人みたいに、ホントよく喋るな・・・



「だから私は恋愛が嫌いでした。異性を好きになったことなんてありませんでしたし、異性から告白されるのは苦痛でした。それに同性の友達から恋愛の話をされるのも苦手でした。『誰々くんがツバキちゃんのこと好きなんだって』とか『誰々先輩カッコイイし、付き合えばいいのに』とか言われると、角が立たない様に愛想笑いで流してましたけど、内心では『こんな話のドコが面白いんでしょうか?』と思ってましたからね。だから六栗さんが仰ってた通り、私は性格ブスなんです」


「いや、それくらいじゃ性格ブスとは思わんし。私だって似たようなもんだったよ」


「ですよね! だからずっと『みなさん、どうして恋人なんて欲しいんだろう?』って理解出来なかったんです。恋人を作りたがる人って、ただセックスする相手が欲しいだけなんだろうって思ってたくらいで」


「それって私への嫌味?」


「違います違います。確かに以前の私ならそう思って軽蔑してたかもしれませんが、今はそこまでは思ってません。寧ろ、石荒さん相手ならそれくらいしないと通用しないと思ってますので」


「そうだねぇ。ケンくん、告白してもダメだったし、積極的にボディタッチとかキスしても全然だったし、あとは既成事実作るくらいしかないんだよねぇ」


「そうなんですよねぇ。本当に先が思いやられますよねぇ」


「って、ツバキの話でしょ? 恋愛が嫌いってのは分かったけど、それがどうしたら今の状況に繋がってるの?」


「えーっと、中学まではずっとそんな考え方で異性に対して警戒して距離を置く様にしてたんです。強く拒絶するのでは無くて波風立てない様に、穏やかな態度で『ごめんなさい』と。それで高校入学してもそういう事がずっと続くものだと思ってた時に出会ったのが石荒さんでした」


「だから最初はケンくんにも警戒してたと?」


「それがですね、少し違うんですよね。寧ろ、警戒してたのは石荒さんの方でしたよね。前にも話したと思いますけど、私には話しかけてこようとしませんでしたし、いつも無表情で近づきがたい雰囲気をまとってましたから」


「ああ、そういやケンくんも、あの頃ツバキのこと恐ろしい悪魔か魔女だって言って近寄ったら危険だとか言ってたわ」


「今聞くと『失礼な!』って思いますけど、あの頃はほとんど会話もしたことないのにどうして嫌われてるのか分からなくて、そのせいで気になる存在でしたね。他の人とは全く違う態度や反応の理由が知りたかったと言いますか」


「ケンくん、根は真面目なんだけど、ちょっと他の人とは考え方が違うからねぇ。そこがケンくんの魅力なんだけど」


「そうなんです!実際に石荒さんと話すようになって、人と違う価値観とか物事に対する見方とか知る様になって、石荒さんとお話するのが凄く楽しくなって、もっとお話ししたい、もっと一緒に過ごしたいと思う様になってました」


「じゃあやっぱり、その頃から好きだったと?」


「いいえ、それは恋愛としての好意ではありませんよ。 心を許せる友達を見つけたことで、浮かれてたり執着してたんだと思います」


「まぁ、恋愛が嫌いだったのなら、そうなるのか」


「でも、異性に対する見方が少し変わったのも事実です。石荒さんはあの通り、ご自分の考えや意見はバカが付く程正直に話すのに、恋愛ごとには異常なほど鈍感ですので、今思えば石荒さんのそういう所が私の警戒心や偏見を解いてくれたんだと思います」


「なるほど。ケンくんのお蔭で、恋愛や異性への偏見は無くなったと」


「無くなったと言うよりも、許容できるようになったと言いますか、六栗さんの様に全力で恋愛に向かう人のことでも、素直に応援する気持ちを持てるようになりました」


「じゃあ、ツバキ自身の恋愛は?今なら誰かを好きになることはありうるってこと?」


「それは・・・わかりません。石荒さんのことだって、異性として最もそういうのに近い存在だというのは認めますけど、だからと言ってそれがイコール交際したいとは思ってません」


 うーん・・・ツバキは本音で話してくれてるとは思うんだけど、まだどこか正直には話して無いような言い回しに聞こえると言うか、ナニかが引っかかるんだよね。


「何度も話してますが、私にとって重要なのは、この石荒家での居場所と石荒さんと過ごす時間なんです。以前は独占欲もありましたけど、今は石荒さんと一緒に居られるのなら、石荒さんに恋人が出来ることも認めるつもりです」


「それで、今日のデートも積極的に応援してたと?」


「そうです。石荒さんが恋人を作るのなら、六栗さんしか相応しい人は居ないと思ってます。なので、それを応援することが私の役目だとも思ってます」


「ツバキの考えは、だいたい理解出来たと思う。でも私じゃそんな風には考えること出来ないし、共感も出来ない。 でも、応援してもらえるのは嬉しいし、ツバキが本音を話してくれたのも、少しは安心出来たよ」


「でも、今日は本当にすみませんでした。誓いますが、決して邪魔するつもりは無かったんです」


「もう良いって。どうせツバキが言ってたみたいに、おばちゃんに見つかってたかもしれんし、ケンくんもこんなんだし、なんだかんだ言って、上手くいかなかったと思う」


「そうですね・・・どうすれば石荒さんに気持ちが伝わるんでしょうか」



 ホント、それなんだよね。




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