第19章 夏の夕

#108 西中スタイルでガールズトーク



「それで、今日はこの後どうするおつもりなんですか?いつまでも下着のままと言うのも、いつお母様が来るか分かりませんので危険ですよ?」モミモミモミモミ


 お互いの胸を揉み合っていたせいで変な空気になってしまったのを誤魔化すように私が質問すると、六栗さんは立ち上がってベッドで寝ている石荒さんの様子を確認して、再び胡坐で座り腕組みをした。


「うーん・・・やっぱ今日はもう無理かぁ。めっちゃ気合入れて準備もしてたんだけどなぁ」


 今日この場でセックスすることを、まだ諦めきれない様子。


「準備と言いますと?」


「コンドームとかムダ毛の処理とかね。コンドームの練習もめっちゃしてきたし」


「え?練習ですか?」


「うん、化粧水のビン使ってね。もう職人レベルよ?10秒あれば被せちゃうし」


 六栗さんはそう言いながら自分のバッグを手繰り寄せ、ゴソゴソと中を漁ってコンドームの箱を1つ取り出して見せてくれた。


「ドラッグストアで買ってきたんだけどさ、ケンくんのサイズ分かんないし、とりあえずサイズ違いで4つ買ったんだけど、めっちゃ恥ずかったわ」


「4つもですか!? そ、それは凄いですね・・・店員さんにも『どれだけ使うつもりなの?』って思われてそうですね」


「それな!ヒナも帰ってから気付いたんだけどさ、『どんだけヤルつもりなん!?』って思われたよね。あ!勿論ヒナまだ未経験だから!昔っからケンくん一筋だし!」


「ええ、それは分かってますよ」


 コンドームのことを興奮気味に話す六栗さんは、私に対しても自分を『ヒナ』と呼び始めました。この様子だと無意識の様ですが、それだけ私にも心を許してくれてる様に感じて、自然と頬が緩むのが自分でも分かります。



「っていうかさ、クーラー効いててちょっと寒くなってきたし、やっぱ服着よ。ヒナもケンくんの服借りよっかなぁ」


「では、用意しますね」


 今日は、六栗さんのセクシーな黒の下着姿を充分に堪能出来ました。

 六栗さんと言えば、私は黄色や薄い桜色のパステルカラーをイメージするのですが、黒というのは意外性があって、普段とは違う大人の色気が増してました。


 同性の私でも、思わず胸に手を伸ばしてしまいましたからね。

 なのに、この下着姿を見ても何もしなかった石荒さんは、やっぱりおかしいと思います。



 クローゼットから同じ緑色の西中ジャージ上下を取り出して、六栗さんに「これを着て下さい」と言って渡した。

 因みに、私が把握してる範囲では、石荒さんのクローゼットには西中のジャージが上下3セット保管されてます。



「は?なんで西中ジャージなん?西中スタイルなんてダサくてイヤなんだけど?」


「良いじゃないですか、私とお揃いですよ?」


「いや、西中行ったらこんなの大量におるし、ソレお揃い言わんし」


「我儘言わないで下さい。ほら、着せてあげますので」


 上を着せると、丈が長くてブカブカで、六栗さんは両袖を腕捲りしながら「こんだけ大きいなら下はいいや。ワンピースみたいでしょ?」と言って1度立ち上がると、目の前でクルリと回って見せてくれた。



 左腕にはお誕生日プレゼントのブレスレット、胸には『石荒』と大きく書かれた名札が縫い付けてあります。

 私の胸にも同じく『石荒』の名札が縫い付けてありますので、なんだか同じ石荒家みたいでちょっぴり嬉しくなってきました。



「こうして見ると同じ石荒で姉妹みたいですね。勿論、私が姉ですが」ふふふ


「うわ、でた!ツバキの謎のお姉ちゃんムーヴ!」


「そうだ、記念にスマートフォンで一緒に撮影しませんか?あとで石荒さんに自慢しますので」


「あ、ヒナもケンくんに自慢したい」


「でしたら、髪型もお揃いにしましょう。 丁度今日お母様に教わりながらシュシュを2つ作ったんですよ。1つお誕生日のプレゼントに差し上げますので」


「へぇ~、自分で作ったんだ、ありがと。 いいよ、シュシュで括ってみる」


 どんなお揃いの髪型が出来るか二人で試行錯誤した結果、後ろで緩めに纏めた髪を、私は左から前に流して、左右対称になるように六栗さんは右から前に流す様にしました。


 同性の友人と髪型のことで相談したりお揃いの髪型にして遊んだ経験は無くて、以前一緒にお風呂に入って髪を洗ったり乾かしたりした時もそうでしたが、こういう時間は石荒さんとでは経験できないもので、とても楽しいです。




 西中のジャージ姿にお揃いの髪型で一頻ひとしきり自撮りして楽しんだあと、腰を落ち着けて冷めた紅茶で一息ついていると、六栗さんがそれまでとは違う落ち着いた口調で話し始めた。



「ツバキは、本当に私の応援してくれるの?」


「ええ。応援しますよ」


「それはどうして?ソウルフルなフレンドとか言ってるけど、ホントはツバキもケンくんのこと好きなんじゃないの?好きだからずっと一緒に居るんじゃないの?なのになんで私のこと応援出来るの?」


 一人称が『ヒナ』から『私』に戻ってしまいました。

 それだけ今は真面目に話しているということでしょうか。



 私が石荒さんに好意を抱いている事は、誰にも話すつもりはありません。

 こんな話、誰も得しませんからね。


 ですが、今、この場でだけは、迷いもあります。


 今日の六栗さんは、初めてのセックスに挑もうとしてたのを私が邪魔してしまったにも関わらず、私の話をきちんと聞いて許して下さり、今日のデートの内容も私が質問すると正直に話して下さいましたし、今こうして真面目に話す様子も、六栗さんなりに私に気を遣ってくれてる様に見えます。

 そんな六栗さんに対して、自分だけ本音を隠してウソを付くのは、不誠実だと思うんです。


 それに正直に言いますと、私の人生で初めての告白が石荒さんには全く伝わらなかったという不満を誰かに聞いてもらいたいと言う欲求や、六栗さんなら共感してくれるだろうと期待する気持ちもあります。


 ですが、だからと言って、それは私の自己満足でしょうし、折角打ち解けてくれ始めたのに火種になるような話はするべきではないでしょうから、迷います。



「少し長いお話になりますが、聞いていただけますか?」


「うん、聞くよ。話して」





「・・・昔、でーたらぼっちが田植えを真似て、海苔を作ったそうです」


「・・・やっぱ帰る」


「ウソです!ウソです!今のは間違えました!」


「次ふざけたコト言ったら、ぶっ飛ばすから」ギロリ


「す、すみません、以後気を付けます・・・」


 

 相変わらず六栗さんには、私のユーモラスでトラディショナルなジョークが通じませんでした。





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