#105 下着少女の尋問
一度ベッドに戻ってケンくんの表情を確認すると、やっぱり寝息を立てていた。
ケンくんが寝ていることを確認してから、正座して猫背でしょげてるツバキと向き合う様に下着姿のまま腰を降ろして胡坐になった。
この場を治める為にも、ツバキが何を考えて邪魔したのか知りたかった。
ツバキは腹グロだけど、姑息なことはしないように思う。
もしケンくんのことで私と張り合おうとするなら、正面から正々堂々と勝負してくると思えた。
ツバキはそれだけの自信家だし、それを裏打ちする程の美貌の持ち主だ。
だから、何を考えてるのか本音が聞きたかった。
もしかしたら、セクシーな下着姿を晒してるこの状況になってもロストバージンを達成出来なかった敗因が、ツバキのせいなんだとハッキリさせたかったのかもしれない。
「で、なんでクローゼットの中になんて入ってたの?」
「・・・ごめんなさい!」
気持ちを落ち着けてから改めて質問すると、ツバキはトートバックを抱きしめたまま土下座する勢いで頭を下げて、再び謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさいはもう聞いたから、理由を話してよ」
「そ、それはその・・・デートから石荒さんが帰って来るのをお部屋で待ってて、空気の入れ替えしようと窓を開けて外を眺めてたら、お二人が一緒に帰って来るのが見えまして・・・」
私が諭すように話すと、ツバキは恐る恐る顔を上げて話し始めた。
「そんで?どうして隠れる必要があるの?」
「六栗さんも一緒に帰って来るとは思わなくて、ココに私が居るのを見たら、また怒るんじゃないかと思って・・・ココに上がってくる前に部屋を出ようとしたんですよ?でも間に合わなくて、それでクローゼットしか隠れられるような場所がなくて・・・」
「はぁ・・・じゃあ、邪魔するつもりは無かったっていうのはホントなの?」
「はい!それは本当です!寧ろ、お二人のデートが上手くいくように応援してたくらいなんです!」
「え?応援?私のこと応援してくれてたの?」
「ええ、今日のデートのことは期末試験の前から聞いてまして、色々と相談に乗ったり買い物にお付き合いしたり、あとはお洋服を選んだり、デートの心構えを言い聞かせたりしてました」
「ふーん、買い物に付き合ったりしてたんだ」
前にサッチーからタレコミがあったショッピングモールでデートしてたってのは、このことかな?
「はい。水着を選んだりお誕生日のプレゼント選びを手伝ったりしたんです。 あ!プレゼントは石荒さんが選んだんですよ?私はアドバイス程度のお手伝いで・・・」
「まぁいいけどね。ケンくんオシャレのセンスとか全然無いのに今日はいい感じだったし、プレゼントだってケンくんのセンスで選んでたら、多分へんちくりんなのか図書券だっただろうから、ブレスレットはホントに可愛くてめっちゃ嬉しかったのは事実だし」
「そうですかぁ、六栗さんが喜んで下さったのなら、よかったです」うふふ
そう言ってツバキが安堵の表情を浮かべた。
すかさず睨みながら、嫌みを込めて言い返す。
「こんな事態にならなかったらね。見て分ると思うけど、私、今日マジで勝負するつもりだったんだから。ケンくんとセックスするつもりで色々計画して、今日だってデート中にめっちゃ頑張ってココまで来たんだから」
「そ、それは、本当にすみません・・・まさかそこまで考えてただなんて知らなくて・・・石荒さんにも今日はスケベ心を見せない様に言い聞かせてしまいました・・・」
「はぁ?ナニそれ?」
「折角のお誕生日のデートだと思いまして、六栗さんが不快な思いをしない様にと、石荒さんにスケベ心丸出しのニヤニヤ顔はしないようにとキツク言っておいたんです」
道理で、今日はいつにも増して
そうと分ると、全身の力が抜けた。
「だいたいさ、なんでケンくんちに居るの?ケンくん出かけて居ないのに、なんで普通に留守番してんの?」
「それは、毎週土日はこのお家で過ごすようにしてましたし、今日も朝から石荒さんのお出かけ前の身嗜みなどチェックしてから送り出して、その後もずっとお二人のことが心配で、帰ってきたらデートの首尾を聞こうと思いまして」
頭が痛くなってきた。
言ってることの意味は分かるんだけど、何を考えてるのかが全く分からない。
ツバキは私とケンくんが結ばれることを望んでいるらしく、その為にケンくんに色々アドバイスしたりサポートをしていた。
それで、今日のデートの結果を気にして、この時間までケンくんの家で留守番しながら待っていたと言う。
ケンくんのことが好きだから、ケンくんと私の仲が気になったり邪魔するのなら、まだ理解できる。
でも、そうだとしたら、なんでケンくんが私とデートするのに色々とサポートして応援してるのかが、全く理解できない。私だったら絶対にそんなことしないし。
好意じゃなくて、全部、興味本位による行動なのかな?
それとも、ツバキなりの愛情表現?
「そもそも、なんで当事者でも無いのにそんなに今日のデートに拘ってるの?」
「石荒さんの為だという以外に理由なんてありませんよ」キリッ
前もそうだったけど、ケンくんの為だって言う時は自信あり気に胸張って言うんだよね。
「じゃあ、私がケンくんとセックスするのも、ケンくんの為になるなら邪魔せず応援してくれるの?」
「えーっと・・・それはノーコメントで」ポッ
何故か頬を赤らめ、テレてる。
「なんでツバキがテレてんのよ。下着だけのほぼ裸の今の私の立場はどうなんのよ!」
「それはご自分のせいですよね?『裸で横になった方が休めるもん』って仰ってたじゃないですか。クローゼットの中までちゃんと聞こえてましたよ?」
「だからソレは!ケンくんにその気になって貰う為の作戦でしょ!?コレくらいしないとその気になってくれないじゃん!」
「確かに。本当に仰る通りです」ウンウン
今度は納得顔で頷いてる。
どうやらツバキにも心当たりがあるらしい。
その時、廊下から(多分1階から)『ツバキちゃーん、ケーキとお茶取りに来てちょうだーい』とおばさんの声が聞こえた。
すぐさまツバキは立ち上がって部屋を出て、「はーい」と返事をしながら階段を降りて行った。
いやマジで石荒家に馴染過ぎでしょ。
普通こういう時に呼ばれるのはケンくんのはずなのに、ナチュラルにツバキがお手伝いに呼ばれてるし。
おばさんにとってツバキは完全に他所の子じゃないんだね。
ああ、なんとなく理解出来た。
おばさんがツバキを他人扱いしないのと同じで、ツバキもケンくんのことが家族の様に大事な存在ってことか。
ツバキにとって、ケンくんは他人じゃないんだ。
家族の様な感覚なんだろうね。
お姉ちゃんムーヴもそれの顕れなんだろうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます