#102 天使の仮面に隠れてたのは
ホテルの前にあるバス停では駅行きのバスを待つ行列が出来てて、バスが来て乗っても一人用の座席しか確保出来ず、そこに六栗に座ってもらい、俺は立ってることにした。
それまでずっと左腕に抱き着いていたのが解放されると思ったら、俺が左手で手すりを掴むと、六栗は当たり前の様に俺の右手と指を絡ませる様に繋いできた。
やはり、まだまだ恋人プレイは続く様だ。
バスの中では混雑してて、中には寝ている人なんかも居たため、迷惑にならない様にお喋りして騒いだりしない様に気を付けていた。
六栗もそんな空気を察してるのか、大人しくお澄ましした表情でスマホで何やらチェックしてる様だ。
俺はそんな六栗をじっと見つめて時間を潰していた。
たまに俺の視線に気付くと、ニコリと微笑みを返してくれる。
赤いビキニの天使は、ビキニから着替えても天使だった。
と言いたいところだが、天使じゃなくて獣だ。
微笑みの下には飢えた欲望を隠していたんだ。
そう、六栗は天使じゃない。
六栗こそ飢えた獣だったんだ。
確かに、俺も少しだけど六栗のおっぱいや股間の毛を見ちゃったよ?
でも、俺は見たくなかったんだ。
今日の俺はエロイの禁止だったからな。
なのにだ、この六栗さんと来たら、自分からスッポンポンになって、俺までスッポンポンしやがった。
幼馴染だから、それくらいは普通だと言いたいのか?
それとも、恋人プレイとはそこまでしなくては成立しないとでも言うのか?
いくらなんでも開放的過ぎやしないか?
いや、そうじゃないんだろう。
ただ単に、男の性器を生で見たかっただけだろな。
でも、無理矢理脱がされて性器をじっくり観察される負けヒロインなんて、これまで聞いたこと無いぞ。
六栗の前で思わず溜め息を吐いてしまいそうになるのを我慢する。
桐山からも六栗を不愉快な気分にさせないように重々言われてるからな。
しかし、疲れ切った表情だけは取り繕うことが出来ていない。
というか、口では怖くて言えないから、表情で不平を訴えようと考えてしまう。
バスが駅に到着して降りると、六栗は当たり前の様に俺の左腕に抱き着いて豊満な胸を押し当てながら、「お昼焼きそばだけだったし、どっかで何か食べてこ」と言い出した。
確かに俺も焼きそばだけでは足りなくてお腹が空いてたから、駅前商店街をブラブラして食べるところを探すことにした。
「バスに乗ってる間に食べるとこないかスマホで調べたけど、この辺って全然情報ないんだよねぇ」
「田舎だしな、喫茶店でも食堂でも俺は何でもいいよ」
「あ、じゃあ、あそこの喫茶店に行こっか」
「あいよ」
店に入ると、狭い店内にはやたらと観葉植物が置いてあり、座席も狭く、テーブル席などは4人で座ったら窮屈そうなほどだった。
テーブル席に案内され、荷物を置いて向かい合う様に座ると、店員さんが水とおしぼりを置いてから離れて行った。
メニューを見ると、ひと通り定番の軽食があるようなので、俺はカレーライスとアイスコーヒーで六栗はエビピラフとアイスティーを注文した。
注文を終えると背もたれに体をあずけ、目を瞑り眉間を指で摘まんでモミモミと解した。
疲れた。
海に入ってはしゃいでたことだけでなく、更衣室で無理矢理水着脱がされたり、おちんちんを観察されたり、バスでずっと立ちっぱなしだったのもあるだろう。
しかし、これも六栗の為だ。
誕生日であり、頑張った期末試験の疲れを労う意味もあったデートで、今日は一日『六栗さんファースト』だからな。
でもそのデートも、後は帰るだけだ。
漸く終われるんだ。
眉間のモミモミをやめて、熱いおしぼりを拡げて顔をごしごしと拭い、おしぼりを畳んでトレイに置くと、六栗の視線を感じ、正面に座る六栗に視線を向けた。
六栗はテーブルに両肘をついて両手を組み、その組んでる部分で口元を隠す様にして、シリアスな眼差しでジッと俺を見つめている。
所謂、ゲンドウスタイルだ。
その左腕には、俺がプレゼントしたブレスレットがキラリと光ってる。
「え?なに?どしたの?」
「ケンくん・・・この後の事なんだが」
いつもよりも2オクターブ程低い声で、口調もゲンドウを意識しているようだ。
「帰ったらケンくんのお部屋で少しゆっくりしたいと思うのだが、どうかね?」
「どうって言われても、別にいいけど」
「では決まりだな。まだまだデートは続くと言うことだよ」ふふふ
おうふ・・・まだデート続くのか。
六栗と一緒に居たいという気持ちは、確かにある。
しかし、今日の六栗は何を要求してくるか分からないという恐怖心もある。
今日の六栗は、普段以上に大胆で常軌を逸しているからな。
そして、疲れてるから手足を伸ばして横になってゆっくり休みたいというのもある。
まぁ、俺の部屋に来るのなら、少しはリラックスしてゆっくりさせて貰おうか。
カレーライスとエビピラフが一緒に来たので、店員さんにドリンクも食後を待たずに持ってきてもらう様にお願いして、食べ始めた。
六栗は、お喋りに夢中で食べるペースは遅く、しかもダイエットしてるからと3分の1ほど残した。
自称意識高い系の俺は食品ロスの観点から見過ごすことが出来ずに、残りは俺が食べて、店員さんにお皿を下げてもらった。
こうして見ると、今まで六栗と二人で食事をする機会はあまりなかった様に思う。
というか、学校とか外食とか桐山と二人で食事することが多すぎて、いつの間にか俺の中での女性の食事が桐山基準になってたことに気が付いた。
桐山と外食する時って、お互い無言で食べることに集中すること多いし、桐山は絶対に食べ残しはしない。そして、俺よりもたらふく食べる。
同じ女子でも、食事の面では随分と違うんだな。
本来は、六栗みたいなのが普通であって、桐山みたいなのは異質だというのは分るんだけど、桐山基準になっちゃってたから、ちょっとモヤモヤしてしまった。
とは言え、それが六栗の魅力にマイナスイメージを植え付けることは無い。
だって、水着脱がされておちんちん観察されたことに比べたら、今更どうでもいいほど些末なことだから。
食事を済ませ、少しのんびり休憩してから会計を済ませて再び駅に戻った。
電車に乗ると行きと同じように並んで座り、六栗はやっぱり俺の腕に抱き付くようにして豊満な胸を押し当てて、しばらくすると俺の肩に頭をもたれさせて寝息を立て始めた。
瞼を閉じててもはみ出す程長いまつ毛。呼吸に併せて僅かに膨らむ形の整った小鼻。ぷっくりとして艶々の唇。そして、真夏なのに春の陽だまりの様な穏やかな表情。
六栗は、寝顔も天使の様な可憐さだ。
はぁ
こんなに寝顔は天使なのに、どうしてあんな過激な行動に出たんだろうか。
一つだけ分るのは、六栗はこのデートを存分に満喫してるってことだ。
第17章、完。
次回、第18章 溽暑、スタート。
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