#98 衝撃の恋人プレイ





 波打ち際まで行くと、波が押し寄せる度に六栗は手を繋いだまま楽しそうに大はしゃぎしていた。


 六栗が楽しそうだと、俺も楽しくなる。



「ケンくんケンくん!深いとこまで行ってみよ!」


「浮き輪とか無いけど大丈夫なのか?」


「ケンくんに捕まってるからだいじょーぶ!」


「腕に捕まったままだと、俺が泳げなくなるから怖いんだけど」


「だったら背中に捕まってる!」


 そう言って、六栗は俺の背中を押しながら深いところへ進んで行く。



 胸の辺りまで浸かる深さまで来ると、六栗は俺の背後から首に捕まる様にしがみ付いて、おんぶしている状態になった。


 そうなれば勿論、六栗の豊満な胸が俺の背中に押し付けられる。

 しかし、力いっぱいしがみ付かれると首が苦しくて、胸の感触に集中出来ない。


 いや、エロモードになってはダメだから、これで良いのか。



「ケンくん!ヤバイ!ちょー楽しい!」


「ちょ、暴れないで!?くるしい」


「あ、落ちちゃう!」


 ズリ落ちそうになった六栗は、今度は両足で俺のお腹をガッチリ挟み込んで来た。

 そして俺も、両手でその足を持ち上げる様に抱え込んだ。


 桐山に抱き着かれたことは何度もあった。

 あいつは最近やたらと抱き着いてくることが多くなった。

 そのせいで、俺も若干慣れてきている。今朝だってベアハッグしてやったし。


 けど六栗には、今朝出発前に首に抱き着かれたけど、これほど密着するように抱き着かれたのは初めての事だ。

 いや、抱き着かれてるというよりも、しがみ付かれてると言った方が正しいか。


 しかし波が結構荒くて、少しでも油断すると海水を飲んでしまいそうになるので、この至福の時間を堪能する余裕が全くなかった。



「ケンくん!もっと深いとこ行ってみて!」


「無茶言うな!溺れそうなんだぞ!」あっぷあっぷ


「だいじょーぶ!ケンくんなら行ける!」



『六栗さんファースト』

 なんて厄介な指令なんだろうか。


 仕方ないので、言われた通りに更に深いところへ向かって歩く。

 しかし、波に押し返されて何度も溺れそうになり、断念して引き返した。


 砂浜に戻ると、六栗は腹を抱えてゲラゲラ笑ってて、楽しそうだった。

 六栗が楽しそうだと、俺も楽しい・・・くない!マジで溺れそうになったからな!



 荷物置いてた場所に戻って、仰向けに寝転がってゼェハァゼェハァと息を整えていると、六栗は「ケンくん休んでてね。私、なんかお昼に食べれそうなの買ってくる」と言って、小銭を持って一人で海の家へ行ってしまった。




 10分ほど経っても戻ってこないから、心配になってきた。

 探しに行きたいけど、荷物をほったらかしにしたまま離れるのが躊躇われてどうしようかと悩んでいると、更に5分ほどして漸く戻って来た。


「焼きそばくらいしか無かった。ごめん」


 焼きそば買っただけにしては時間かかってたな。


「いや、十分だよ。それより遅かったね」


「うん。変なのにしつこく声掛けられて」


「はぁ?ナンパ?」


 六栗の表情を見ると、さっきまではしゃいでたのがウソみたいにブスくれて不機嫌だ。


「なんか、大学生くらいの3人組が「一緒に遊ぼう」とか声掛けてきて「ツレと来てるから結構です」って言っても「だったらその子も一緒に」とか「連絡先教えて」とかしつこくて、「彼氏と一緒なの!マジうざい!」って怒って逃げてきたの」


 そりゃこんだけ可愛いくて胸とお尻をプルンプルン弾ませてたら、ナンパされちゃうよな。

 一人で行かせたのは迂闊だった。


「そうだったのか、俺も行けばよかったね。ごめん」


「ううん!ケンくんのせいじゃないから!ケンくん溺れそうになって大変だったもん」


「でも一人にならない方がいいよな」


「うん、次からは一緒に行こうね。それよりもお昼食べちゃお」



 焼きそばを食べ終えると、しばらくのんびりしてようってことになったけど、日差しが強かったので、六栗に麦わら帽子を被せて俺のシャツを羽織らせようとしたら、「帽子とか良いから、代わりにケンくんが日よけになって!」と言い出した。


「え?俺が立ったまま日よけになるの?」


「ううん、こうするの!」


 六栗はそう言うと、座ってる俺の脚を開かせて、脚の間に強引にお尻を割り込む様にして体操座りで座った。

 更に、俺の両手を持つと、自分のお腹に巻き付ける様にして、俺が六栗の背後から抱き着いてる様な状態になった。


「こうしてたら日よけになるし、恋人っぽくて変なのにもナンパされないでしょ?」


「そうかもしれんけど・・・超ドキドキする」


 日焼け止め塗ったり、海ではしゃいでおんぶしたりしてたとは言え、こうやって落ち着いた状況で俺の方から抱き着いてるというのは、かなりドキドキする。

 でも、お蔭で、さっきナンパのせいで不機嫌になってた六栗は、元のテンションを取り戻していた。



「うふふ。あ!そうだ!今日は恋人ってことにしよ!恋人プレイね!」


「えぇ!?」


 なんか、桐山の恋人設定を思い出すな・・・ロクな思い出が無いんだが。


「それはなんと言うか・・・」


「文句あるの?ふーん、私が恋人だと不満なんだ?ふーん」


「う・・・」


 今日は六栗の誕生日で『六栗さんファースト』だしな・・・


「わかりました。今日は謹んで六栗さんの恋人代理を務めさせて頂きます」


「おー!ようやくケンくんの恋人になれたし」うふふ


 おうふ

 そうだった。

 俺は一度フッてるという暗黒の歴史が。


 だったら、この恋人プレイは少しでも贖罪しょくざいになるだろうか。

 そして、本当の恋人になることを断念している俺自身にとっても、せめてもの慰めとも捉えることも出来るかも。


「で、恋人プレイというのは、具体的に何をすればいいの?」


「うーんとねぇ・・・わかんない!」


「おい!意味ねーじゃん!」


「うふふ。だったらぁ、こういうのは?」


 六栗はそう言うと、お腹に回してた俺の右手を取って自分の胸に押し当てた。


「おおおおぅ!?」


 いきなりの事でビックリして、感触を確かめる前に慌てて手を離した。


「おっぱい、イヤだった?」


「えええ!? イヤじゃないけど、流石にそれは・・・」


「そっか・・・刺激強すぎたかな?」


「うん・・・真性チェリーの俺には刺激強すぎる」


 今日はエロイ目で見てはいけないんだ。

 だから胸にタッチは厳禁だろう。


「じゃあ、代わりに」



 六栗は俺の腕の中で器用に体を回転させると、俺の左のほほに一瞬だけ唇を押し当て、直ぐに体を前向いて元の体操座りに戻った。


「え?」


 一瞬のことだったのに俺はおっぱいの時よりも更に驚いてしまい、反応が出来ずに固まったままだった。

 六栗は六栗でひざを両手で抱える様にして、その膝に顔を伏せてしまった。


 背後から唖然としたまま見つめていると、目の前の六栗の首や耳が真っ赤っかになっている。



「恋人プレイだから」


「・・・」


「本物の恋人じゃないから、プレイとしてだから」


「あ、ああ・・・」


 顔を伏せたまま、六栗は言い訳のようなことを言っている。

 

 頬とは言え、生れて初めてのキスをされた。

 これはファーストキスということになるのだろうか。

 それとも、唇同士じゃないからノーカンなんだろうか。

 いや、そんなことどうでも良いんだ。

 いや、よくないか。ファーストキスかどうかだし。

 いや、やっぱりどうでもいい。

 今重要なのは、六栗の意図だ。


 恋人プレイとは言え、ここまでするのはどうなんだ?

 直前のおっぱいのことといい、そこまでするのは何故なんだ?

 海の解放感がそうさせるのか?

 それとも、今日は六栗の誕生日だから、特別なのか?


 よく分からん。





 いやいやいや!

 六栗にキスされたんだぞ!?

 のんきに呆けてる場合じゃないぞ!?


 うほぉぉぉ

 キスされちゃったよ俺、六栗に。


 って、恋人プレイの一環だからサービスみたいなもんなんだろうけど、一瞬とは言え、おっぱい触らせてくれた上にキスまでとか、一生分の運使い果たしたかも・・・



 嬉しいのと興奮と戸惑いと困惑と、あとよく分かんない恐怖と、兎に角、脳ミソがパンクしそうだ。





 



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