#95 ハッピーバースデー



「早く来すぎてごめん。早く誕生日おめでとうって言おうと思って」


 そう言って背後に隠してたプレゼントの包みを前に出して、「16歳、おめでと」と格好付けながら差し出した。


「え!?ウソ!?知ってたの!?なんで知ってるの!?」


「小学校の時にクラス全員の誕生日が張り出されてたじゃん。あれで覚えた」


「えええ!?よくそんなの覚えてたね!でもマジで嬉しい!嬉しすぎて嬉ション漏らしちゃうかも!」


 小学生の時に覚えたのは本当のことだ。5年のクラスなら今でも全員覚えてる。

 でも中学の頃は六栗の誕生日に触れたことは無かったから、六栗が驚いてしまうのも無理ないだろう。

 あの頃は女子に向かって「誕生日おめでと」なんて恥ずかしくて絶対に言えなかったし。


「おしっこ行きたいなら、待ってるから家出る前にどうぞ」


「いや冗談だし。コレ、ケンくんが選んでくれたの?」


「一応俺だけど」


「いま開けてもいい?」


「うん。気に入ってくれれば良いんだけど、もし気に入らなかったら返品可で」


「絶対返品なんてしないし!えーマジでなんだろ、めっちゃドキドキする」


 六栗はプレゼントを受け取ると、その場で腰を降ろして胡坐になって、包みを開けて中の箱を取り出した。


 俺までドキドキしてきた。

 気に入ってくれると良いんだが。


 それにしても、六栗が座ったお蔭で立ったままの俺からはモロに胸元が見えてしまい、胸の谷間に視線が吸い寄せられる。

 って、チラッとブラジャーが見えたぞ!?


 く、黒だと・・・!?



 そんな俺の動揺を他所に六栗が箱をパカっと開けると、中にはシルバー製のチェーンのブレスレットが入っていた。ところどころにスピリチュアル的な小さい石がチラチラ付いてて、女性向けの可愛いデザインだ。


「え!?ウソ、めっちゃカワイイ!ブレスレット!?マジで貰ってもいいの???」


「うん。サイズ良いか付けてみたら?」


「じゃあじゃあケンくんがつけて!」


「え?俺? 付け方とか分かんないよ?」


「いいからいいから、やってみて!」


「分かった、やってみる」


 ブレスレットを受け取ると、六栗が左手首を見せる様に伸ばしたので、手間取りながらも付けてあげた。


「うわぁ~めっちゃカワイイ!!テンションMAXトルネードだし!!!ケンくんありがと!!!」


 六栗は声を張り上げながら立ち上がって、飛びつく様に俺の首に抱き着いて来た。


 突然だったからビックリしながらも受け止めると、お互い抱き合う様な形になった。



 六栗からは桐山とはまた違う良い匂いがして、ドキドキしてしまう。

 しかも抱き着いて来る瞬間、六栗の豊満な胸が暴れる様に弾む瞬間が目に焼き付いた。


 これはまた厄介だぞ。

 あれだけ桐山に口を酸っぱくして言われてたからな。

 今日はエロイこと考えたらダメなんだし、この調子では今日はパラダイスでは無く苦行になるのかもしれないぞ。



「そろそろ出ないと電車の時間が」


「大切にするね」


 六栗はそう言うと、抱き着いてる腕を更にギュっと力を込めてきた。


「お、おぅ」


 今日は髪をまとめてないせいか、くりくりの髪の毛が俺の鼻にワサワサして、むず痒い。


 まずは、プレゼントを気に入ってくれたようでひと安心だ。

 帰ったら、桐山にも報告しなくては。


 六栗は俺から離れるとそそくさとビーチサンダルを履いて、俺の右手を取って「行こ!」と言って手を繋ぐと引っ張る様に玄関から出た。


 その時に見えた横顔は、緩みきった笑顔だった。

 




 駅に到着して駐輪場に2台並べて自転車を停めてから、桐山に言われてたことを思い出して「荷物、俺が持つよ」と言うと、「いいのいいの!だいじょーぶだから!大事なものも入ってるし!ムフフ」と断られてしまった。


 遠慮してると思い多少強引にでも預かろうとしたが、六栗は大き目のそのバッグの肩ひもを襷掛けで掛けてしまったので、預かるのは断念した。


 でも、その肩ひもが胸の谷間を押さえつけてて、豊満な胸の輪郭がクッキリと浮かび上がっていた。


 普段の通学では六栗もリュックで、夏服のシャツの上を両サイドから挟み込む様に胸が強調されてるのは毎日見てたけど、こういったパターンは初めて見た。


 やはり、女性の胸には夢が沢山つまってるんだな。

 こんなにも見る人を幸せな気持ちにさせてくれるんだもんな。

 

 俺がしみじみと感動していると、六栗は「行こ!」と言って俺の右手を繋いで、引っ張る様に歩き出した。



 この日の六栗はとにかく機嫌が良くて、ずっとニコニコして楽しそうだった。

 誕生日プレゼントの効果だろうか、それとも久しぶりのお出かけでテンションが上がってるのだろうか。手を繋いで歩いててもずっと楽しそうに喋り続けていたし、電車に乗って座席に座ってからもずっと手を繋いだままで、ビーチサンダルを引っ掛けた足を楽しそうにぶらぶらさせながら、やっぱり喋り続けてた。


 六栗が楽しそうにしてるのを見てると、俺も楽しくなってくる。

 六栗は怒ると超怖いけど、やっぱりニコニコとしてるのが一番可愛いし、天真爛漫にこうやって周りの人間に元気を振りまいてくれるのが、六栗の一番の魅力だと思う。怒ると超怖いけど。


 だから学校でも人気者なんだよな。

 桐山も美人だから人気あるんだろうけど、普通に見たら高嶺の花っぽい雰囲気あるから近寄りがたいんだよな。

 逆に六栗は色んな人から話しかけられてもニコニコと愛想振りまくから、誰からも好かれるんだよな。怒ると超怖いのに。



「ねね、ケンくん、どうして今日は麦わら帽子被って来たの?」


「えーっと、これは、夏らしい爽やかさを演出するため?」


「ナニそれ、めっちゃウケる、ふふふ。でも今日のケンくん、何気にお洒落だよね」


「そうかな?でも、ちょっと頑張ってはみたんだよね」


「それってヒナとデートだから?」


 隣に座る六栗はそう言うと座高差のある俺を少し見上げる様にして、パチクリとした大きな瞳で俺の顔を真っすぐ見つめて来た。


「う、うん。手抜きしたらダメだと思って」


 やばい

 めちゃくちゃ可愛い顔で見つめられると、ドキドキし過ぎて声が掠れた。



「ふーん・・・」



 六栗は俺から視線を逸らすと、俺と繋いでる左手の手首に巻かれたブレスレットをニヤニヤ見つめながら「ぐふふふ」と鼻の孔を広げて不気味な笑い声を漏らしていた。



 


 



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