#84 自重してるはずの少女の迷走
ケンくんとの距離感や一緒に過ごす時間は以前とあまり変わってないのに、最近の私は焦りや不安を感じなくなっている様に思う。
別に、ケンくんのことがどうでも良くなったわけじゃなくて、これまで最大の不安要素だったツバキのことを知れたからだと思う。
正直言って、まだツバキのことは好きにはなれない。
でも、今まで抱いていた警戒心や敵愾心は薄れたと思う。
ツバキはツバキで色々と抱えてる物があって、ケンくんはそれを知ってツバキに寄り添ってたってことなんだよね。
あの時のケンくんの態度は、ツバキを恋愛対象としては見て無かった。
そしてツバキ自身もその自覚があることを言っていた。
二人は嫉妬してしまうほど仲が良さそうだったけど、それはあくまで友達としてなんだろう。
寧ろ、今思い返せば、ツバキよりも私の方が問題あった様に思う。
ツバキは中途半端な私のことを怒っていた。
ツバキにとってケンくんの存在が第一で、その大切なケンくんに対して中途半端なことばかりしている私が許せなかったんだろう。
私自身もここ最近自分の不甲斐なさを自覚してたから、ツバキの言葉に言い返せない場面が何度もあった。
でも見方を変えれば、それは私に対してツバキなりに発破をかけてたんじゃないかって思える。
ツバキはケンくんの為ならなんだってすると言って、ケンくんの為だからと私のことも親身になろうとしてた。
ツバキのそういうところは素直に認めるべきだと思うし、私も見習わないとダメだと思う。
でも、ツバキの謎のお姉ちゃんムーヴにはイラっとするけど。
兎に角、今の私は焦って更にドツボにハマる様な真似はしないように、自分のペースでケンくんとの距離を詰めるべきだと思えるようになっていた。
だから、その第一弾として自分から積極的にデートに誘ってみた。
しかも、丁度今月私の誕生日があって日曜日だったから、強引にその日を指定した。
海水浴を提案したら上手いことケンくんもその気になってくれたので、今度こそ流れたりドタキャンされることは無いと思う。
しかもケンくん、私の水着のことが気になるみたいで、色々聞いて来たし。
むっつりスケベなとこはケンくんらしいけど、私たちはもう高校生だもんね。
男子ならこれくらいは普通だよね。
むしろ、ケンくんはまだまだ大人しい方だと思うし。
っていうか、中学の時は通用しなかった色仕掛けが、今なら効くんじゃない?
コレって、もしかしたら、もしかして、もしかするんじゃない?
ケンくんとだったら・・・私は勿論おっけー。
っていうか、初めてはケンくんがいい。
っていうか、ケンくん以外となんて考えられないし。
なら、準備しといた方がいいよね・・・
ムダ毛の処理とか手順の確認とか避妊具とか心の準備とか・・・
ムダ毛の処理はデートの直前にするとして、避妊具は後でこっそり買いに行こうかな。
コンビニだと誰か知り合いとかに見られちゃいそうだし、ドラッグストアとかのが良いのかな。
心の準備はなんとかなると思うけど、問題は手順か。
ケンくん、こういうのめっちゃ初心そうだから、私がリードしないとだよね。
色々調べて作戦練っておかないとだね。
あードキドキしてきた!
でも、コレはコレでめっちゃ楽しみ!
だって、誕生日に海でデートして、ロストバージンとかめっちゃロマンチックでしょ?
え?欲張り過ぎ?
梅雨が明けたばかりの週末、自宅でフェイスマッサージをしながら初めてのひと夏の体験に想いを馳せて一人ドキドキムラムラしていると、サッチーから画像付きのメッセージが送られてきた。
なんか、前にもこんなことあったっけ。
嫌な予感する・・・
『石荒くんと桐山さん、付き合ってないって話だったけど、どこからどうみても恋人同士なんだけど』
添付画像には、ケンくんとツバキが腕組んでベッタリくっ付いてる姿を後ろから写してて、ツバキがほっぺを膨らませて怒った様な表情をケンくんに向けていた。
おおおおぅ!
またかよ!?
既にロストバージンが確定したかのように有頂天になっていた私の頭に、冷水がぶっかけられた。
ダメ、平常心平常心。
ケンくんとツバキは恋人じゃない。
ただの友達。
ちょっと仲良すぎる感じは二人にとっては普通のことで、それ見て動揺しちゃうのは、私が嫉妬しちゃってるからだし。
だって、二人は恋人じゃなくて友達だって言ってたもん。
兎に角、折角サッチーが情報提供してくれたんだから、何か返事しないと。
『コレ、いつ写したの?ドコで写したの?いまも傍にいるの?』
しまった。
めっちゃ喰いついてるみたいな返事になっちゃった。
『朝からショッピングモールに買い物に来てたら、たまたま二人がアクセサリーショップから出てくるの見かけたんだけど、最初はイチャついてなかったのに桐山さんがすっごいナチュラルに石荒くんに抱き着く様に腕組んでたから、あれ?って思って跡付けて撮影したの』
アクセサリーショップ・・・
ツバキに何か買ってあげたのかな。
ケンくん、高校生のくせにお金持ってるもんね。
ツバキが欲しいとか言ったら、ホイホイ買っちゃいそうだもんね。
はぁ・・・
いやいやいやいや
二人は恋人じゃない!ただの友達だし!
それはハッキリ確認してるじゃん!
動揺したり焦っちゃダメ!
平常心平常心!
『今度は女性物の水着のお店に入っていったんだけど、石荒くんが桐山さんの水着選んでるっぽいよ。見てるコッチが恥ずかしくなるくらいめっちゃ真剣でまじウケる』
いや全然ウケないし。
っていうか、ケンくんに水着選んで貰うって、その手があったか!?
私もそうすれば良かったじゃん!
流石ツバキ、こういう狡猾なところマジ半端ない。
って感心してる場合じゃないって!
どうしよう。
また突撃したほうがいいのかな。
でも、ケンくんちならまだしも、ショッピングモールでデート中に突撃なんてしたらめっちゃ目立つし、流石に二人も怒るよね。
私だってデート中に邪魔されたら絶対イヤだし。
『ヒナちゃん、ごめん。お昼にはウチに帰らないとだから、そろそろ自分の買い物済ませて帰るね。 気になるようなら直接石荒くんに連絡してみたら?』
『サッチーありがとね。二人とも付き合ってないって言ってたし、多分大丈夫だと思う。あんまり邪魔して嫌われるのも嫌だし、気にしないようにするね』
『そっか。じゃ!健闘を祈る!』
サッチーには、以前ケンくんとツバキを回転寿司屋で目撃した情報を貰った関係で、ツバキと喧嘩したことや二人から付き合って無いと直接聞いたことは話してあった。
だからこそ、今日も見かけた二人の様子に何かを感じたのかもしれない。
うーん、どうしよう。
サッチーにはああ言ったけど、やっぱ気になる。
でも、直接自分の目で見ても、嫉妬してまたイライラするだけの気がするしなぁ。
だいだいツバキはケンくんにべったりし過ぎなんだよね。
ケンくんは自分から腕組んだり抱き着いたりしないだろうけど、あの時もこの写メもツバキの方から迫ってるんだよね。
この写メだって、ケンくんめっちゃ嫌そうな顔してるし。
うーんうーんうーん・・・
やっぱ今日は止めとこう!
折角自分のペースでって決めたばかりなんだし、ツバキのことはほっとこう。
突撃してまた嫉妬でイライラするくらいなら、その分今度のデートでめっちゃベタベタしてやろう!
で、あわよくば、ひと夏の体験をケンくんと済ませて、ツバキなんて目じゃないくらいにラブラブになってやるんだから!
よし!
落ち着かないし、今からコンドーム買いに行っちゃおう!
夏なのにニットキャップを深く被りマスクしてサングラスもかけて変装してみた。
コレで誰も私とは分かんないよね。ふふふ
平常心!と自分に言い聞かせてたくせに、この時の私は相当浮足だっていた。
だって、変装して私だとは分からなくはなってたけど、こんな格好でコンドーム買ってたら逆にめっちゃ目立つことに気付いてないし、何よりも、ロストバージンのこと考える前に、鬼門とも言える告白という重大イベントをすっかり忘れてたのだから。
第14章、完。
次回、第15章 三夏、スタート。
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